03
毎日が繰り返される日常。過ぎ去った日々と共に授業の内容は少しずつ進んでいくが、ぼくだけ取り残されたかのように変化しない。その日もそうなる予定だった。
いつも通り今日一日の授業を終えて、机の中のものをカバンにしまいながら帰り支度をしている時だった。机の横でパサッと言う音と共に白いものが床に落ちた。
「ん?」
ぼくはかがみこんで手を伸ばした。白い封筒をつまみ上げる。宛先もなにも書いていない白い封筒。隣の席を見上げると、まんまるに太った女の子が同じように帰り支度をしていた。どうやら封筒を落としたことに気づいていないようだ。
「あのう。これ、落としましたよ」
ぼくは彼女に白い封筒を差し出した。彼女がぼくの顔を見つめる。目が大きく見開かれて、ほほから顔全体へとどんどん赤くなっていく。耳まで赤く染まっていく。
彼女は魔法でもかけられたかもように、ぼくの顔を見つめて静止したまま動かない。ぼくはどうやらまずいものを拾ったらしい。ぼくは黙って、彼女の手に白い封筒を握らせてから立ちあがった。カバンを取って席を立とうとする。その時だ。あり得ない言葉が彼女の口をついて出た。
「ずっと好きでした。生まれた時から」
はあっ。意味がわからない。生まれた時ってなんだよ。彼女は手に持った白い封筒を、ぼくに向けて差し出した。すぐに周りにいた女子たちが異常事態に気づく。男子たちも何事かとじゃれ合うのをやめた。
白い封筒を前にしてうつむくぼく。目の前にたたずむメガトン級の彼女。クラス中の好奇の目がぼくにふりそそいだ。ぼくは視線がいたいと言う言葉の意味を、その身に刻んだ。
ぼくはその時、逃げ場を失っていることに気づいた。どうこたえるべきか。ぼくの頭の中は、生まれてから一度も経験したことのないようなスピードで答えを探し求めた。
なにしろメガトン級の彼女がメガトン級の言葉をはき、メガトン級の爆弾を手にして立っているのだ。
一、ふざけるなと追い払う。これでは、ぼくは人でなしの極悪人にされてしまう。ぼくのささやかで平穏な日常が崩壊するのは間違いない。
二、彼女を傷つけないように好きな人がいると言ってごまかす。クラス中がぼくに彼女なんていないと思っている。詮索による二次被害が発生するだろう。
三、封筒だけ受け取ってその場を立ち去るのはどうだ。小心者と思われてイジメっ子たちの狙い撃ち合うのではではないか。周りの全員が、ここで答えを出せとおどしているように感じる。
ぼくの取った行動は自分でも信じられないものだった。白い封筒を持った彼女の太い腕をとり、自分のカバンを持つ手で彼女のカバンをつかんだ。そのまま振り向くことなく、彼女を引いてせまい机の間ぬけた。出口に向かってズンズンと進む。
モーゼが海を割るかのごとく、道をふさいでいたクラスメイトが左右に飛びのく。メガトン級の彼女は、何も言わずにぼくに引かれるままついてきた。
あー。終わった。何もかも。ぼくの目から熱いものが幾度となく零れ落ちた。