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私は高2なったばかりの女子高生です。
趣味は食べること。
美味しいものはわが家に幸せを運んでくれます。だから私も父も母もちょっと太っています。いいえ、嘘です。本当は三人ともとても太っています。
三人でジャンプしたらアパートが地震の時のようにゆれます。三人で食べ放題に出かけると、店長の顔が引きつります。三人で回転ずしに出かけると、皿の山で父と母の顔が見えなくなります。
家族が一番幸せな時間です。
お腹がいっぱいにならなきゃいいのに。無限に食べ続けられたらどんなに幸せだろうか。私の体は幸せによって作られたのです。
私の家には姿見がありません。理由は家族のだれ一人として、鏡の幅に納まらないからです。通りすがりの人が、わが家の洗濯物を干している様を見上げて、笑いながら通り過ぎていくのを見たことがあります。でも私は気にしてません。
私には好きな男の子がいます。保育園のおやつの時間、私はビスケットを床に落としました。私の大切な幸せ。私は床に転がるビスケットを見つめながら泣きました。
「泣かないで!」
私が顔をあげた先に、その男の子の笑顔があったのです。男の子は自分のビスケットを私の小さな手に握らせて駆けていきました。
それ以来、私はずっとその男の子が好きです。保育園、小学校、中学校。私はずっと遠くからその男の子を見て暮らしました。クラスが一緒になった時はうれしくて、気持ちが抑えられずに飛び跳ねてしまいました。すぐにアパートの下の住人から苦情がきました。
高校も迷わずその男の子と一緒の学校を選びました。中学校の担任はもっと上の高校を推薦しましたが、私はかたくなにそれを拒んだのです。
彼が合格した時の喜びは、クラスが違った悲しみにかわりました。それでも登下校の時や廊下で見かけた時など、私の心は華やいだのです。電柱や学校の柱の陰に隠れて、彼の姿をずっと見ていたかったのですが、体が隠れきれないのがとても残念です。
そして二年生の春、クラス替えの掲示板で私は同じクラスに彼の名前を見つけたのです。ついに、やっと、神様が私の願いをかなえてくれたのです。私は神社の前を通るたびにお祈りしたかいがあったと喜びました。
私の席は彼の横です。授業中、彼を間近で見ることができます。
あっ。居眠りしている。体育の授業の後だもんね。
あらっ。お弁当を食べている。なんてかわいいんだろう。
おやっ。席を立った。トイレにでも行くのかな。
私は心は彼の動きに都度、反応してしまいます。とても幸せな時間、とても大切な一瞬です。
私の好きな男の子はとても物静かです。そして大人しいです。いつも遠くを見るような目をしています。私はその瞳が大好きです。
家に帰ったらラブレターを書こう。絶対に渡すことのないお手紙。私の思いのすべてをつづろう。そうでもしないと、私の高まった気持ちで心が張り裂けそうです。