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プロローグ

 新連載です。

 序盤は一日二話更新、その後は毎日18時更新予定です。

 更新が遅れる場合は活動報告にて知らせていこうと思います。

 では、本編をお楽しみください。

 


 ああ、死ぬな。

 星の明かりも隠れた深い夜闇の中、燻る残り火の明かりと手元で弱々しくも輝いてくれている"相棒"の明かりを頼りに、俺は目の前の怪物を見上げる。


 立っているのは三人。

 俺と、あと二人。

 いや、目の前にもう一体いるか。


 竜。

 最後の竜が、ぼろぼろの体を引きずりながらも未だ光の灯る双眸で目の前に立っている。


 八人いた仲間も戦える者はあと三人。

 だけど、敵はあと一体。

 それでも、死ぬと分かった。


 誰かが死なねば、この竜は殺せないと分かった。

 なら、誰が死ぬべきかとも分かった。


 後ろの二人に視線を送り、次いで左手の相棒に目を落とし、俺は相棒を後ろへ投げた。


「____________っ!」


 声が聞こえた気がしたが構わず前に出て、憎々しげに俺を睨む竜へと突撃し。

 段界の底へ竜諸共落ちて行く。


 ああ、死ぬな。


 やっと……死ねる。






 ***






 天歴百四年。

 冒険家、メイビス・タグホイヤは新大陸を求め四隻の船二百六十名の人員と旅に出た。


 険しい旅だった、嵐に疫病、飢餓。

 多くの者が死に多くの悲しみが生まれた。

 しかし、それ以上に世界を震わす発見があった。

 中央大陸以外の大陸の発見、大瀑布と呼ばれる絶えず水の吹き出す巨大な水柱の発見。

 辛く厳しいが実りある旅だった。


 天歴百十二年。

 メイビスは新大陸マケドニアから東に一年進んだ所で旅の終わりを見た。

 自分の考えが正しければこの先に大陸があるはず。

 世界は丸く回っているのだと。

 船旅は長く何度も挫けそうになったが、ある日進路の先から鳥が飛んでくるのを見た。

 鳥が居れば宿り木がある。

 宿り木があれば大地がある。

 メイビスは興奮を抑えきれず速度を上げ新大陸へ夢を膨らませ、そして見た。


 世界の終わりを。

 叩き割られた様に断絶した大地からこぼれ落ちる海水。

 その下に広がる底の見えない闇。

 どこまでも、地平線の彼方までも長く長く続いている段界を見て思った。


 ああ、大瀑布はこぼれ落ちる海水を補填するためにあったんだ。


 ああ、そういえばあの鳥には足がなかったな。


 こうして、冒険家メイビスの旅は終わり。

 世界に先がないことが明らかとなった。




「メイビスにより明らかとなった段界の存在、これにより今までの主説であった地動説が否定され、現在の天盆説が正しいとされた。

 そして、現在この天盆の上にある大陸の数は……オーレリア」

「はい。中央大陸エトルリア、極東大陸マケドニアです」

「よろしい。

 今オーレリアの言った通り、天盆の上にはこの二つしか大陸はない。

 その先は段界によって遮られ、段界の先は底のない奈落が広がっている」

「発言をよろしいでしょうか、リングアベル教官」

「シグルーンか、許可しよう」

「段界の先には本当に何もないのでしょうか。

 無いのだとしたら竜は、メイビスの見た足のない鳥は、どこから来たのですか」

「確かに、そう疑問に思うだろう。だが、私は敢えてこう言う。

 段界の先には何もない。

 あってはならないからだ、この理由が分かる者は?」


 中央大陸エトルリアにある騎士養成学校、カルヤガルマ。

 全寮制、九年制であるこの学校の高等部一年の教室。

 そこで教鞭をとる者の質問に沈黙が訪れる。


 教官の質問に誰も答えられず沈黙が流れ、やがて諦めたように教官が口を開こうとした所で最前列の席から手は上がった。


「発言を許可する、オーレリア」

「なにもあってはならないからです。

 もし、奈落の底に天盆よりも広大な世界があり、そこに竜がひしめき合い餌を求めた竜が天盆まで昇ってくると考えたなら、人類は________」

「そこまで。

 教務終了の時間だ、当直号令を」

「は、はい。起立!」


 オーレリアと呼ばれた女学生の言葉を遮り教官は終了の言葉を告げる。

 見れば、確かに教務の終了時間である。

 当直が慌てたように礼を告げ教官が出ていき、学生がそれぞれ緊張を解いた所でオーレリアは難しい顔で教場の外へ出る。


 そこに、もう帰ったものと思われた教官の姿が。

 出口に背を預け誰かを待っていた様子の教官はオーレリアの姿を見つけると、顔を寄せぽつりと口にした。


「先ほどの発言は胸の内に留めておけ。

 天盆論を覆すことは誰にも許されていない。

 いいな」

「…………はい」


 教官はそれだけ言うと背を向け去った。


 残されたオーレリアはその背を鋭い目で見る。

 言葉を飲み込んだ様な納得のいかない顔で、見えなるなるまでそうしていた。



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