第8話 矛盾
「あれ?大翔君だ」
「何だアイツ、女性用の服なんか見て」
小竹大翔が服の値段に愕然としている同時刻、付近には牧原兄妹が居た。
「声掛けて来るか」
「や、やめなよ!何か凄い真剣に服を選んでるんだから…集中させてあげよ?」
「何だよお前、大翔が好きじゃないのか?」
「そりゃあ…好きだけど…邪魔したくないし」
そう、この兄妹の妹の方は大翔に好みを聞いて告白前に玉砕した子である。
「なら行くしかねぇだろ。はると~」
「え!お兄ちゃん!!」
牧原兄が大翔に接触する5m前、目の前に居たはずの大翔は霧が晴れる様に消えた。
「あれ?大翔?」
「どうしたのお兄ちゃん…ってあれ?大翔君は?」
「消えた」
「へ?消えた?」
「すーっと、消えた」
「えぇ…怖」
牧原兄妹は二人で仲良く怯えていた。
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「この服も高い…うわ、あっちのはもっと高い…」
牧原兄妹が大翔を見つけた頃、大翔自身は服の大切さを思い知っていた。
「ぬお!これなんか十万!あ、毛皮のコートか」
等とマヌケな独り言を言って、手に取った十万のコートを戻そうとした瞬間大翔は別の場所へ移動していた。
「はえ?」
何とも腑抜けた声で驚いたが無理もない。服屋から何処とも知らぬ裏路地へ移動をしていたのだから。
途端、後ろからカチャリと沈んだ金属音が鳴った。
大翔が後ろを確認しようと首を動かし相手の顔を見ようとした瞬間、後頭部に固い物が押し付けられた。
「動いたら撃つ。手を挙げろ」
何とも矛盾した言葉が後ろから発せられた。