第4話 白十槍
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ある日の夜、寝静まった街中を、大きく下品な笑い声で駆け回っている女と、其れを追い掛ける白い修道服を着た六人集団が居た。
女の方はバインバインの胸を揺らせながら屋根から屋根へと飛び回っている。
それに対し白い修道服の六人集団…白十槍達は逃すまいと必死に追いかけていた。
女一人に対して男六人で襲い掛かるちょっと卑怯な状況だが、そんな事はお構い無しと女の方は手を後ろにやり、後ろ合掌を遣って退け余裕を見せていた。
「ギャハハハハ!どうしたよ白十槍共!スッとろい動き何かしちゃってよぉ!?お前達から逃げるよりも後ろ合掌の方がまだ難しいぜ!」
「くっ…!やはり我々では…」
と、成人男性六人衆の一人がフラグを立てる用なセリフを言った。途端、何処からか白い修道服を着た男が「フハハハ!」と声を上げながら表れた。七人になった。男七人がかりで女一人を囲うのは卑怯極まりないが、そうでもしない限り女は捕まえられない状況だった。
だが、後に表れた男はそこにいる男衆の中で一番強かった。
何故なら、その男の修道服には金色の糸で背中に刺繍が施されていたからだ。
「げっ…大司教が出てきやがった…」
「「「「「「フェルンデ様!」」」」」」
「イエース!俺は大司教!フェルンデ・リックだ!」
男六人衆は合唱団の如く声を合わせ大司教の名を大声で呼んだ。それに答えるよう大司教も大声で答えた。
何ともむさ苦しい絵面である。
「しかもフェルンデかよ…」
「ムッ…そこに居るのは我が愛しのリターナ様!さあ!俺の胸に飛び込んで来てください!」
「誰がテメェの胸に飛び込むんだよ!帰れ!」
「ノンノン!女性がそんな汚ならしい言葉遣いしてはいけませんよ!リターナ様は堅実な人なのですから!」
「テメェらの信仰する女の名前なんか出すんじゃねえよ!私の名前は一花だ!漢数字の1に花束の花!覚えなくて良いけどその女の名前で呼ぶな!」
「!?何と…」
「さあ、とっとと諦めてリターナ様とズッコンバッコ…」
「イ・チ・カ!!!!素晴らしい名前だ!!」
「は…はぁ?」
「一花…それは荒野に咲く一輪の花!風が吹こうと大地が枯れようとも倒れない強き生命力を持つ美しき花!その名前に恥じない可憐な姿!ああ…素晴らしい…素晴らしい名前だ!」
「…」
「是非とも妻にしたい!どうか…どうか俺の所に来…」
「行く分けねぇだろ!私は人妻だ!子供も居る!誰がテメェみたいなチャラチャラしたやつに嫁ぐかよ!この童貞が!」
「人妻!?奪いたい!夫は誰だ!この手で潰す!必ず潰してやる!そして…」
フェルンデは唐突に真顔になり、言った。
「俺は童貞では無い」
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そんなこんなを東京の地を走り回りながらしていた途中、色~んな攻撃を白十槍に受けた一花は息絶え絶えになりながらも逃げ延びた。
「はは…私の最期って布団じゃないんだ。電信柱なんだ…。うわっ!小便く…せぇ…」
一花は傷と血だらけの状態で小便臭い電信柱にもたれ掛かり目を閉じた。
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