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突然の電話




 酷い残暑が続いていた。



 全てが太陽に(あぶ)られ、ドロドロに融けてしまいそうな覚えがする。




「クソッたれ、なんでこんなに暑いんだよ!」

 そして続く、お決まりな春樹の叫び。


「馬鹿、お前が暑いって言うから、なおさら暑いんだべ」

 呼応して翔太も、お決まりの言葉で返す。



 ここは翔太の部屋。


 二人共、気だるそうに床に寝転んでいる。

 暑さでなにもする気になれず、たまの休みを二人で過ごしていた。



 時刻は午後の七時を少し過ぎたところ。

 辺りは徐々に暗くなりつつある。


 全開にして、窓に取り付けた網戸には、蛾やカナブンなどの虫が張り付いている。

 都会では見慣れぬ光景だが、田舎ではそれも当たり前。

 都会だとレア種のカブトムシなども、たまに張り付が、翔太達は興味ない。



 テレビからはガヤガヤしたお笑い番組が流れている。くだらない一発芸人が連なる番組。

 普段なら見る気もしないが、BGMには丁度いい。


 テーブルに置かれた灰皿は、既に山盛り状態。

 脇の方には脱ぎっぱなしの衣服の山が、形作られている。


 封の切られたポテトチップスの残骸と、スープの残ったカップラーメンが、独身貴族の虚しさを演出していた。



「あー、大切な土曜日なのに、やろー二人だなんて、悲しさが込み上げる」

「残念だったな春樹。たまの土曜日なのに、夕方まで俺んちに居るなんて」

「ホントだぜ。せめてこの場にかわいい女でもいりゃな」

「俺だってそう思うよ」


 ハンターを気取り、京子達との合コンを行った春樹だが、その後も特別な関係になることはなかった。

 とりあえずは、再び会う約束を取り付け、解散と相成ったようだ。




 それと志織だが、あの数日後、神奈川に戻って、フミヤと再会して、今後についてとことん話し合ったそうだ。


 その結果、数年以内に結婚することを誓い合い、再びやり直すこととなったらしい。

 フミヤはその証として、高価な指輪をプレゼントしたそうだ。


 そんなのろけ話を、携帯の向こうで延々とする志織。

 その向こうにいる翔太の男心なんて、一向に気にしない。




「なんか臭いな」

 くんくんと鼻をひくつかせる翔太。


「はぁ」

 きょとんと首を傾げる春樹。

 その吸ってる筈の、煙草の火種がない。


「おめー、火種落ちてっぞ!」


「どこ落ちた?」


 こうして二人、ガサガサと衣服の山の中を探る。


「あった!」

「そっちの端っこ、置いとけ」

「コーラ掛けとくぞ」

「ちゃんと消えただろうな。他に火、付いてねーべな?」


 春樹が取り上げたぼろくずを見つめ、ホッとため息を吐く翔太。

 消防団に在籍してるのに、火事なんか出したら、目も当てられない。



「他は大丈夫だ」

「だったら大丈夫だろ」

 こうして二人、安堵のため息を吐く。


「で、なにを燃やしたんだよ」

 翔太はすたすたと歩きだし、燃えた物を確認する。


「これって」

 それをつまみあげて、愕然となった。


 いつかの火事の時、純平に借りたタオルだった。


 あの後、洗って干して、ちゃんとしまっていたつもりだが、こんなところに紛れていたようだ。

 道理で探してもないはずだ。



「ぼろじゃねーか、捨てろ」

 あっさりと言い放つ春樹。


「馬鹿、そんな簡単な問題じゃねーんだ」

 ポリポリと後頭部を掻く翔太。


 ウルトラマンのタオルは、一部煙草の焼け跡が付き、コーラで茶色に染まっている。

 果たして、ちゃんと元通りになるのか……



「翔太、電話だよ」

 不意に母親の声が響いた。


「はぁ? 電話って誰さ」

 視線を向ける翔太。


「会社の同僚だっていう、女の人」

 既に母親は、子機を持って部屋の入り口の立ち構えている。


「……なんだよ会社って。土曜日だぜ」

 ぼそりと呟く翔太。


「もしもし……」

 怪訝に思いつつ、子機を受け取り、耳にあてがった。



『……久しぶりだね翔太。まだ覚えているよね』


 暫し思考に耽る翔太。


 聞き覚えのある声だ。ハキハキとしたメリハリある口調。そこに福島らしい訛りは一切ない。


「……あゆみ、なのか?」

 そして投げ掛けた。



 相手の名は黒田(くろだ)あゆみ。翔太の3つ年下。


 一方的にふられた彼女の名前だ。会社の同僚とは、その場しのぎの言い訳だろう。


『元気にしてた? どうしてるんだろうって心配してたんだよ』

 何事もなかったように、淡々と響くあゆみの声。



「元気にしてたかって……それ以前に、言うべきことがあるだろ」

 堪らず言い放つ翔太。お決まりな挨拶など訊きたくもなかった。


「あんなメール送ってきて、半年以上、音沙汰なしだったんだぜ」


『あはは。そうだよね、先に言うべき言葉があるよね』


「当たり前だろ。何故別れようと思ったのかとか、俺のなにが悪かったのかとか。……それにあれだ」


 訊きたいことは山のようにある。

 だがいきなり過ぎて、どこから訊いていいのか、整理さえつかない。


 受話器の向こう、返ってくる言葉はない。

 あゆみなりに、気持ちを整理しているのだろう。



『……だったら、会って話せる?』


「それが一番だろうけどさ」


『今から会おうか?』


「……来いって言うなら、行くけどさ。時間は掛かるし、今すぐはムリだろ」


 流石に話が突飛過ぎる。東京と福島では、会うのにもそれなりの用意が必要だ。


『そんなことないでしょ。……えっと、ギブリって店で待ってるから』


「ギブリ? ……それなら数十分で行けるけどさ……」


 そして会話が途絶える。


 あゆみの台詞には、明らかに違和感がある。


「……お前、今どこにいるんだよ?」

 訝しく感じて訊ねた。


『福島。……ギブリって店』

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