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結婚しようよ



 それから一時間後、翔太は一軒のスナックにいた。




 周りを囲むのは宗則、涼、それと太一。同じく女二人の姿もある。


 真樹夫と共に風俗に出かけたのは博史と淳平、それと陽一だった。



「へー、里見さんって婚活とかしてるんだ」

 隣の女が翔太の顔を下から覗き込む。

 エリカという二十歳程の女だ。


「最近流行ってんものね、その手の活動」

 そしてもうひとりは、カナコという化粧の濃い小太りの女。

 涼のグラスを引き寄せ新しい水割りを作っている。



「まぁな。焦ってる訳じゃないんだけどね」

 気恥ずかしそうに言い放つ翔太。


「おいおいエリカちゃん、トビに惚れたか?」

 すかさず涼が言った。


 その台詞を受け、エリカが翔太の腕に抱きつく。


「うん。あたしと結婚しよ」

 そして無邪気な笑みを見せた。


「だけどそいつ、昔は不良だったんだぜ。それでもいいのか?」


「うん。元不良でも大丈夫だよ」

 涼がからかうが、エリカはますます上機嫌になる一方。



「不良じゃないっすよ。少なくても涼さんよかは」

 ぼそっと呟く翔太など、一向にお構いなしだ。


 確かに学生時代の翔太は喧嘩っ早く、集団でバイクに乗っていたこともある。


 だがそれは不良という意味ではない。


 喧嘩をしてたのは、困っている人を無視出来ず、仕方なくそうなっただけ。


 バイクだってルールに(のっと)り、ツーリングチームとして乗っていただけ。



 しかも喧嘩の腕っ節なら、涼には敵わない。……それに……




「それじゃー、式場予約しようか」


「はっ?」


 思考に(ふけ)る翔太にエリカが頬ずりした。


 ますます紅潮する翔太。



「勘弁しろってエリカちゃん。さっきあっちのテーブルでも同じこと、言ってたべよ」


 エリカの台詞は営業用のそれだ。


 現に数分前、隣のテーブルでもそんな台詞を言っていた。


 しかも酔っ払ってそれを乱発する始末。流石にこの状態では、真に受ける馬鹿はいない。



「ははは、翔太、婚活しなくても相手が見つかったな」


「いいっすよね、翔太さんもてるから」


 それを知ってか、宗則と太一もからかうように言い放つ。



「宗則さんまでなにを言ってるんですか」


「あーん、エリカ本気なのに、誰も信じてくれない」


 エリカは完全に泥酔状態。


 だがそんな様子が逆に、潤んだ瞳、薄く赤らんだ頬、ぷるぷると震える唇と相成って愛らしい。



 その傍らに店のママが近寄ってくる。


「エリカちゃん、三番テーブル御指名ね」


「はーいママ。今いくね」


 その指名に誘われ、よろよろとその場から離れていった。



「あーあ、エリカちゃん行っちまったな。寂しくなったなトビ」

 涼が言い放つ。


「マジで勘弁してくださいって」

 翔太が返した。



 店内は間接照明が灯るだけで薄暗い。

 他に客は二グループ。若者三人のグループと、初老の二人グループだけだ。



 そんな空気の中、涼は翔太の表情を覚めたように見つめている。


「少しは吹っ切れたみてーだな」

 そして言った。


「まぁ、少しは」


 翔太の恋の後遺症は、いまだ完全に拭えたものではなかった。それでも吹っ切ろうと、少しばかりは努力していた。



 その会話を傍らで聞き入るカナコ。


「んじゃったら、あたしの男にしてやろうか? 二番目で良がったらない」

 翔太の横顔を見つめ言った。


「……二番手って、控えか」

 愕然となる翔太。


 この女、どうみても翔太の母親程の年齢。しかも先程の会話で、若い彼氏がいることも判明してる。


「ははは、俺にどう返せって言ってるんすか」

 苦笑いを浮かべるのが精一杯な状態だ。



 そして暫し気まずい空気が包み込む。



「今頃いっちゃんら、良いことやってんだばいね」

 不意に太一が言った。


「好きだからな、あいつら」

 水割りのグラスを片手に苦笑いを浮かべる涼。


「節度を持ってれば、構わないだろ」

 宗則もグラスを飲み干し言った。


「しかしよくあの誘いを断ったな翔太」


「しつこかったですがね」


 翔太だって男だ。その手の行為は嫌いではない。だが今回に限れば、断って正解だと思った。



「いっちゃん風俗にハマりすぎだから。陽一さんも同じだげんちょ」

 ぶつくさと言い放つ太一。


「お陰で俺らの大沢五部も有名だ。あいつら偽名を使ってるが、その正体バレバレ。酔っ払って法被着込んで、入店したこともあるぐらいだから」


「ホント、それだけは勘弁だよな」


 同じく涼と宗則も呆れ顔。



「あはは、おおっぴらすぎる風俗。あたしは好きだげんちょない」

 カナコだけが、陽一と真樹夫を擁護していた。



「だけど陽一さんて、彼女いるはずだろ?」

 翔太が訊いた。


 真樹夫はともかくとして、陽一が風俗に出かけたのは意外だった。

 この前の婚活、陽一はユキとカップリング成立していた。だから現在は付き合っている筈だ。



 その会話を聞き入っていた涼が視線を向ける。


「この前の婚活の女のことか?」

 そして言った。


 こくりと頷く翔太。


「別れたって話だぞ。『彼女なんてメンドー。風俗の方が後腐れなくて丁度いい』……そう言ってたから」


 その涼の話が衝撃的だった。

 あの時の陽一は、自らのキャラを封印していたらしい。

 実際はハンパない女ったらし。春樹の意見が正解ということ。



「だげんちょ陽一がいるから、真樹夫だって安心してんだぞ。心強い先輩だがら」


 博史と淳平、二人の風俗代を奢ると豪語した真樹夫だが、実は払うのは陽一。


 それもついさっき、涼から訊いた真実だった。



「きゃっ!」

 そのとき不意に、店内に声が響いた。


 隣のテーブルからだ。


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