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転生人語

作者: 山田ビリー

この物語を、バレンタインデーに捧ぐ。

2月14日は、聖ヴァレンティヌスの殉教日である。ヴァレンティヌスは現代日本に転生した。

バレンタインデーに浮かれ騒ぐ諸君、転生人たる我の言葉を聞け。

2月14日は、恋人たちの守護聖人、聖ヴァレンティヌスの殉教日である。

主に殉じ、愛の奇跡を起こしたヴァレンティヌスは、確かに恋人たちの守護聖人たるに相応しかろう。

しかし、現代日本人諸君に告ぐ。

貰ったチョコの数で優劣を競う男ども。そこかしこで浮かれるカップル達。

果たして聖ヴァレンティヌスがこの日を祝福し賜うと思うのか。

今ここに、聖ヴァレンティヌスの転生者たる俺が宣言しよう。

俺は、バレンタインデーが、大っ嫌いだー!



俺は前世、聖ヴァレンティヌスであった。これは、転生前に天国で主が仰った事なので間違いない。

主のご意向により、現代日本に転生した俺。

誕生日は、殉教日と同じ2月14日。名前は愛野聖人と言う。親よ、何故俺にこの名を付けた。


前世聖人とはいえ、今の俺は一介の日本人男子高校生だ。普通の両親のもとすくすく育った俺は、平均的日本人の感性を持ち合わせている。

そんな俺が、前世の俺の事を調べてみて驚いたのは、死ぬ間際に書いたラブレターが公開されていたことである。

『貴女のヴァレンティヌスより』って、なんで世界中に知られているんだ!アステリオの娘よ、何故手紙を公開した!

末代まで残るこの羞恥プレイに、恥の心を知る現代日本人の俺は悶絶した。

お陰で若干女性不信である。


バレンタインデーの哀しい想い出は、愛野聖人となってからもある。

誕生日とかぶっているせいで、何故かこの日、俺は男どもからチョコレートを貰う。大柄でがっしりした体格の俺が、数々の男からチョコを貰う姿に、クラスの女子達はドン引きだ。お陰で学校で女の子からチョコを貰った事は、一度も無い。

俺にチョコをくれる女性は母だけだ。しかし母よ、息子の誕生日にケーキとプレゼントではなくチョコのみとは如何なものか。

唯一俺に義理チョコをくれたお隣のお姉さんは、5年前に嫁に行ってしまった。

以降は暗黒期である。



「愛野~!ちょっと相談があるんだけど。」

教室で声を掛けてきたのは、同じクラスの女子、飯島だ。出席番号が前後なので、よく二人で日直になる縁から、比較的仲が良い奴である。

「もうすぐバレンタインでしょ。男子って甘い物はどうなの?ほら、あんたみたいなスポーツ系はさ。」

スポーツ系?

「そりゃ人によるだろうけど。まぁ甘いもの好きな奴も結構いるぞ。実際俺も好きだし。運動する奴なら、糖分補給はいいんじゃないか?」

「なるほど、ありがとう!」

飯島は爽やかに右手を挙げると、颯爽と去っていった。

何だったんだ。……まさか、俺にチョコをくれる積もりとか?

ないな。いや、無い無い。変に期待しないでおこう。違ったときが悲しすぎる。

俺は今までの非モテ人生を鑑み、これを単なる相談と受け取ることにした。

ところが飯島は、次の日からも、何度も『相談』にやって来たのだった。


「愛野~!チョコレートって、トリュフとガナッシュとフォンダンショコラだったらどれがいいと思う?」

「愛野~!チョコレートって、やっぱり直接手渡しがいいものかな?」

「愛野~!チョコレートって、ラッピングは箱と袋とどっちがいいと思う?」

なんだこれは!フリか?俺にチョコをくれるという壮大な前振りなのか!?

流石の俺も、こうも思わせ振りにされれば期待せざるを得ない。

こうして意識してみれば、飯島は可愛いような気がする。いや、可愛い。

今まで全くなんとも思っていなかったギャル風の女だが、気さくだし小柄な所も良い。しかも相談しながらはにかむ(さま)は、大変可愛らしい。

遂に俺にも春が到来か。主よ、ありがとうございます。バレンタインデーよ、千年栄えよ!


そんなこんなでバレンタインデー当日である。

俺は明らかに、朝からそわそわしている。チョコを渡してくるムサい男共にも、笑顔で応対しては気持ち悪がられているが、全く気にならない。

何故なら俺は勝ち組だからな!

午前中は、余り授業に身が入らなかった。いかん、学生の本分は勉強である。午後からは気合いを入れよう。

午後も余り授業に身が入らなかった。仕方がないじゃないか!だって男の子だもん。


そして放課後になった。

なるべくゆっくり帰り支度をしついると、遂に、飯島が、やって来た!

「愛野~!」

まさか飯島よ、まだ教室に人がいるのに、人前で渡そうというのか。

「ありがとー!あんたのお陰だよ!」

飯島は、満面の笑みで両手をのばし、俺の手をとった。手ぶらである。

あれ?

「あんたが相談にのってくれたお陰で、告白成功したんだ!へへ、西村くん、付き合ってくれるって。」

うれしー、うれしー、と連呼しながら飯島は去っていった。

……西村?隣のクラスの?確かにあいつと俺は背格好が似ているかもしれんが、だからって……。

暫し呆然としていたら、いつの間にか教室には誰もいなくなっていた。

帰ろう。

やはりバレンタインデーは未来永劫祝福すべきでない。千年呪われろ。


とぼとぼと廊下を歩き、のろのろと下駄箱で靴を履き替える。

昇降口から出ようとしたところで、袖を捕まれた。

誰だ、と振り向くと、そこにはちまっ(・・・)とした女の子がいた。

「なんだ高岡か。どうした?何か忘れ物か?」

思わず先生みたいな事を言ってしまった。

高岡は去年同じクラスだったが、あまり接点はなかった。大人し目で、あまり男子と喋らないタイプだったからな。

ちなみにクラスで一番背が小さかったので、よく他の女子にヨシヨシと頭を撫でられていた。大変羨ましかった。

「あの、あの、これ!よかったら……。」

高岡は鞄から謎の箱を取り出し、俺に差し出した。

可愛らしいリボンでラッピングされたそれが何だかわからず固まっていると、高岡の目がこころなしか潤んできた。

「あの、もしかして迷惑だったかな。ご、ごめん……。」

そう言って鞄に戻そうとしたそれを、俺は思わずガシッと掴んだ。

「貰う!ありがとう!」

これはまさか、もしかして、あの巷で噂の本命チョコというやつではあるまいか。

ジーン、と感動しながら箱を凝視していたが、ふと高岡を見ると、もじもじと物言いたげにこちらを見ていた。

思わず高岡の頭をナデナデしてしまう。

しまった嫌がられるか、と思ったが、高岡は照れた様子で、嬉しそうにしていたのでほっとした。

「一緒に帰ろうか。」

そう言って手を出せば、はにかみながら手を繋いでくる。


聖ヴァレンティヌスがバレンタインデーを祝福しないなどと、誰が言ったのか。バレンタインデーは恋人達の祝日である。

今ここに、聖ヴァレンティヌスの転生者たる我が宣言しよう。

バレンタインデーに栄光あれ!

※キリスト教に転生の概念はありません。聖ヴァレンティヌスについても諸説あります。

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