1章 リク
意味がわからない、それはオレだけじゃなく周りもそうだったはずだ、みんな目の前の人間が発する言葉を理解しようにも理解できない、そんな答えのない疑問を持ち続けるオレらの心情をよそに前川は真の回答編へとこの最悪な物語を導いていく
「んー平たく言うとさ、君たち全員クビ」
一瞬にして場の空気が凍りつく、前川の目的が
見えなかった俺たちは誰しもが回答に達してしまう、この男は本気だ、俺たちの積んできた努力を踏みにじり、サッカー部そのものを破滅に導くつもりだ、それは彼の流暢な言葉、悪気のないにこやかな表情で話をし続ける彼を見れば明白だった、誰しもが言葉にならない怒りがこみあがり、今にも誰かが前川を殴りそうな勢いだった
「あなたに部を潰す権利はない、オレたちはなにもしていない」
「権利はないね、でも僕は顧問なんだよ、僕はここにいる君たちを止めさせる権力があるんだよ」
まるで子供のような屁理屈にオレらはただ黙って聞き続けるしかない、誰も言い返すことはできない、誰も理性を失った権力者に勝つ勝算なんてなかったんだ
「正確に言うとね、サッカー部は潰れない、ただ僕が監督の新サッカー部として生まれ変わるだけだよ」
前川は部そのものを消すつもりはない、その言葉により安堵の表情を浮かべる者もちらほらいた、ここにいる誰しもが中学の最後の大会で勝ちたかったのだから
「いくら権限があっても僕だって理由も無しに君たちをやめさせることはさすがにできない、色々と問題になっちゃうからね、だから理由も無しに襲撃する事はできないんだよ、だから秋山くんが最初に退部届けを出しに来たときに僕は確信したんだ 今なら高田くんキミに勝てるってね おーい出てきていーよ!」
その声と共に倉庫の裏から一人の人物が現れる、秋山昇、彼が最初にサッカー部を最初に止めた男だ、ノボルは後ろめたそうな表情でオレたちの前に現れる
「久しぶりだなリク」
「ノボル......」
オレは今でもノボルに対する態度は間違っているとは思っていない 辛い練習の中で弱音を吐き続け、あげくのはてにつまらない、みんなが思っていることをみんなの前で言う自分勝手もいいところの発言をしたのだ 雰囲気でチームは変わってしまう、世代別代表でカケルのようなチームをプラスに持っていくやつがどれほど重要なのかを知った、逆にマイナスにするやつがいたらどれほど恐ろしいことになるのか、体験こそしないもののチームにもたらす影響は容易に想像出来た、だからオレはノボルが退部するときも引き留めなかった、チームに邪魔なだけだったから ノボルは切り出していく
「オレは前川先生に退部届けを出した、けど引き留められたよ、一度やりだしたら最後まで続けるべきだと、でもオレはやめたかった!お前が怖かった ほんとはみんなで笑ってサッカーしたかったんだ!でもお前が監督でいる限りチームは笑えない オレはみんなが日々練習の疲労でやつれていくのを見ていくのが限界だったんだよ!」
「止めたいのなら止めればいい、オレは少なくとも強制した覚えはない、オレはキャプテンになった時いったはずだ目標は全国1だ、楽しくやりたいやつやチームの雰囲気を乱すようなやつはいなくていいとな」
「オレはお前の自分の観点でしかものを見れないやつが嫌いなんだよ!お前みてえなやつがいるから」
そういいかけてたところでノボルは地面に突っ伏して
情けなくなきはじめた ノボルの号泣により前川のことはみんな忘れ去りノボル一点に集中する ノボルと同じような心境の人間はオレら14人にもいただろう、それでもここにいるこいつらはサッカー部に残った、最後の大会で勝ちたかったのだから、誰かが彼に同情しようとオレには無理だ。彼は自分で勝負の世界に進み勝手に止めた、ただそれだけなのだから。
「もういいよ秋山くん辛かったんだね、でも大丈夫、ボクが必ずみんなと笑いあえる環境を作り上げるよ だからあとは先生に任せなさい」
それでも秋山はなき続けた、もうあいつには周りのことはなにも見えていない、それは自分のことしか考えない幼児のような表情でなき続けるノボルを見れば明らかだった
「さて、みんなもわかるように秋山くんは高田くんの独裁教育とも言えるスパルタ指導により、サッカーを楽しめなくなりやめたんだ、他の14人も全員ではないけど同じ理由でやめる子ばかりだったよ」
「結局何が言いてえ!?てめえはやめた仲間の悲痛な姿を見せて何がしてえんだ!?」
しびれを切らしたヒロシは突っかかる あと一歩前に踏み出せば殴りかかりそうだ 仲間思いのヒロシは壊れていく止めたノボルをもう見てられないのだろう
「わからないかな? つまり言いたいのは高田くんは勝利と言う大義名分のもと秋山くんを始めとする15人を精神的に追い込んで止めさせた高田くん、及びそれを黙認した13人の取り巻きたち、君たち14人は停学、及び15人への謝罪、被害者の要望があれば、君たちは全員別の学校に転向してもらう」
誰しもが凍りついたある者はオレは関係ないと言い出し、ある者は態度をひっくり返し高田くんは何もしていないと言い出す者さえいた 自分はいじめていない誰もが主張する 前川の将棋は詰みの直前であった そして最悪の結末へとついに向かっていく