掌編――雪
ひとひらの花びらが舞うように、ひとひらの雪片が舞う。
裕美は、ハンドルに腕を置いてフロントガラスから空を見上げた。
「あら、また雪が降ってきたのねえ」
後部座席でのんきな声を出したのは裕美の母、美也子だ。
「あら、じゃないわよ。雪のせいで大渋滞してるんだから」
まったく暢気なんだから、と裕美はため息をついた。
事実、三十分ほど前からさほど進んでいない。ストレスレベルも上がるというものだ。
「だからって、あなたがいらいらしたってはじまらないでしょ。お天道さまのやることにいちいち血圧あげてちゃ、雪国で生活なんかできやしないわよ」
「その話はやめてってば。あたしは戻るつもりないんだから」
裕美はバックミラーに映る母をにらみつけた。母は、いつの間にか編み物を始めていた。
「あら、あなたの話なんかしてないわよ?」
軽く受け流す母に裕美は唇をとがらせる。
「とにかく。当分結婚するつもりはないから。見合い話持ち込まないでよね」
「はいはい、わかってますよ」
美也子は編み目を数えながら言った。
別館サイトからの転載です。