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脇役謳歌~できそこないヒーロー  作者: uda
*騎士とメイドの物語*
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喫茶店で打ち合わせ

 *騎士とメイドの物語 04.5*


 彼女はケータイを閉じながら、思いを馳せる。


――そういえば、弟が敵になることは生まれて初めてね。


 ポケットにケータイを押し込むと、彼女は木製のドアを開け、再び店内に戻った。

 彼女が入った店は駅前から少し離れた人通りの少ない道にある喫茶店。入り口が分かりづらく、小さな洋館のように見える煌びやかな白い壁と数箇所のステンドグラスが印象的な外装。店内には木製の壁に天井から吊るされたランプがぼんやりとした明かりを各席で放ち、カフェスペースにあるアンティークな小物達も相まって少し幻想的で落ち着いた雰囲気を出していた。


 お客は店内にはいない。来るはずがない。

 彼女、六原 メイの為に本日休業と掲げられた看板が入り口の前に置かれているからである。


「待たせたわね。レイちゃん」


 カウンター席に腰掛けると六原メイは奥でグラスを磨いていたエプロンドレスの少女に声を掛けた。


「イエ、それで、結果はいかがでしたカ」


 どこか詰まるような言葉遣いで答えながら、レイと呼ばれたメイド姿の少女はカップにコーヒーを注ぎ、カウンターに座った六原メイの目の前に置く。


 先ほど席を立つ前に頼んだおかわりのコーヒーである。六原メイは話を始める前に少しだけ口に含み喉を潤した。

 苦味のある独特なまろやかさと香ばしいコーヒー豆の臭いが気分を落ち着かせてくれる。一息つき、コーヒーソーサーの上にゆっくりとカップを置くと六原メイは話し始めた。


「やっぱり、あのバカは向こう側についてしまったみたいね」

「……そうですカ。何か情報は漏らしたのですカ」

「いや、そういう情報の管理は意外としっかりしているんだよなぁ。アノの弟

は……」


 もっとも、何か情報をくれたとしても大体が嘘である事は黙っておいた。姉が弟にあまり好かれていないと言うのは何だか気恥ずかしかったからであった。


「ところで、辰野君はどうしたのかしら」


 わざわざ店を閉めているのに、まったく何をやっているだろうか。とため息混じりに時刻を確認する。


 喫茶店シロガネ堂。堅苦しいようなネーミングの喫茶店であるが、その裏では辰野とレイ達、魔法の国に仕えている者達のこちら側の拠点であった。


 今回はついに魔女を追い詰めたので最後の対策をするべく緊急の打ち合わせをしたいとの事で、以前一緒に戦った仲間であった六原メイが呼ばれていた。


「ねぇ、遅くない?」


 店内の壁に置かれた柱のような古時計の指す時刻はもう約束の時刻を過ぎていたにもかかわらず辰野は姿を表していなかった。


「ソレでしたら、先ほど辰野様カラ、連絡がありましタ」


 もともと、以前の「レギオン」討伐の際に同じ異世界から召還された身として知り合った六原メイと辰野の交流は続いており、時折このように彼の仕事の手伝いを頼まれている。


「何て?」


 一度手を洗い、側に掛けたタオルで手を拭きながらレイは言う。


「レギオンの残党と出くわしテ交戦しているようデス」


 実にあっさりと、まるで忘れ物でも取りに戻っているようにレイは辰野が敵と出会い、戦っていること何でもないように言った。


――まったく、あの子はなぁ。


 時折表れる彼の一人で突っ走る行動に呆れすぎてため息が出る。


「ですノデ、もし遅くなる場合、これからの打ち合わせは私が伝エテおきます」

「冷たいじゃない。レイ君は助けに行かなくてもいいのかしら?」

「今の残党程度なら一人で片付けてもらわなければ困りますノデ」


 特に心配したそぶりも見せずにレイは奥の棚においてあった書類を抱え、カウンターから出る為に一旦、店内の奥にある厨房前まで離れていった。


 お互いが信頼しているってことかしら。と予想はついた六原メイだったがあえて答えず違う予想を口にする。


「言うことが厳しいわね。さすが元王の護衛隊だけあって弟子にはスパルタ教育を施しているといったところかしら」


 何気ない風に六原メイは言うと一定リズムだったメイドの歩調が僅かにぶれた気がした。


「今デモ護衛でス。辰野様が約束を果たすまで」


 店内の奥から聞こえる声。最後の言葉は良く聞き取れなかったが、彼女たちにもまだ、色々と問題があるようだと六原メイは察した。


「大変だね、救ってあげましょうか」

「いえ、そういうノは。一人で十分ですノデ……」


 傍にやって来たレイは迷うことなく六原メイの申し出を断ると封筒を渡した。


「つれないわね。困ったらオネーさんに言ってよねぇ」


 お礼をいいながら封筒の中身を確認するとレギオンの詳細なメンバーをまとめた書類や魔女の使う魔法の種類、辰野やメイドの持つスキルまで書かれていた。


「詳しいことはソチラに書いてありマス」

「あら、そう。じゃあ、帰ってからよく目を通しておくわ。後は魔女のいる場所をこちらでも探してみるから、分かりしだい連絡するわね」

「ありがとうございます」


--あらぁ、接客用語だけは普通に話せるのかしら。


「とりあえず、現状、残党は大体狩ったみたいね。まだ少しぐらい残っていると思うかもしれないけど、先に魔女を見つけないと。向こうも必死なようだから……」

「このまま、ちょっかいヲ出さないならいいのデスけど。弟さんも、レギオンも……」

「そうねぇ。まぁ、けどあのバカはある意味どう足掻いても活躍はしないから大丈夫よ」

「え……?」


 六原メイの言っている言葉の意味を理解できずレイは首を捻り不思議そうな顔をした。


――言っても信じてもらえないから詳しくは言わないけどね。


 運や才能もない。自分の弟は何も出来ない。それは今までの彼の行動を見るだけで明らかであったからだ。

 しかし、電話での弟の反応を思い出しながら、六原メイは話す。


「それでも弟は何と、まだ諦めないだとさ。いやぁ、素晴らしいことね。……私も容赦しないけど」


 母からの連絡を聞くに、どうやら、命に別状は無いものの療養中である弟の身を少しは案じてはいた。


「体ノ具合は大丈夫でしたカ」

「ん?ああ、大丈夫。後、別に気にする必要は無いわよ。あのバカが突っ込んで来たのが悪いのだから」


 レイのナイフが数本も刺さったと聞いたときは少し驚いたが、話を聞く限り明らかに身を投げ出した弟が悪いのだ。メイドを責める訳にもいかない。


「ふふふ、まぁ、それもこれもあれもどれも全てお姉ちゃんが何とかしてみせましょうか」

「頼もしいのですガ、悪い顔ですネ……」


 きっと上手くいくと信じている六原メイは受け取った封筒を傍に置いたカバンに詰め込んだ後、コーヒーにもう一度口をつける。


「まぁ、今は辰野が帰ってくるまで少し待つとしましょうか」

「ソウですか。では、よろしければお相手しマス」


 ぺこりと軽く頭を下げるレイ。


 じゃあ、以前から気になっていたことでも聞こうか。と月島は思った。

 その以前と言うのが昔、辰野が異世界でレギオンを壊滅させた時のころ。彼の傍でサポートをしていた経験のある六原メイはレイに質問をぶつけた。


「ありがとう。それで、辰野君とはどこまでいったの」

「……ハイ?」


 眉毛が八の字にしながら表情が崩れたレイに六原メイは質問を続ける。


「どこまでって……今敵を追いかけていますカラ正確な場所ハ……」

「いやいや、そうじゃないわよ」


 レイ以外誰もいない筈なのにまるで秘密の約束でもするように小さな声でレイにささやく。


「チューまではいったんだろ」

「……」


 答えは無言であった。しかし、その嫌そうな表情から未だにしていないというのは想像するのは簡単であった。


「……あちらはヘタレですのデ」


 短い沈黙の後小さな声でレイは愚痴をこぼした。

 どうやら色々と不満はあるようだ。


「まぁ、気を落とさないで。何か色々溜まっているようだから聞こうじゃないか」


 そうして、辰野についての愚痴を聞くことにした。面白おかしな話が始まって数分後、「誰がヘタレだ!」と怒鳴りながら入ってくる辰野が来て六原メイは「ラブコメすぎだろ、お前ら。」と腹を抱えて笑う羽目になった。

 笑いながら、六原メイは考える。これからの事は色々不安もある。

 しかし、上手く行くという自信いつものように胸に溢れていた。


――さて、まずはさっさと魔女を捕まえようかしら。

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