仲間になった前回のラスボスが弱くなるという設定などない!
*鬼と祓い屋の物語 19*
*魔女・月島のおはなし*
「くはははははは」
月島が長い螺旋階段を降りるとまるで洞窟のような広い空間が視界に広がると、待ち構えていたように野太い耳障りな声が反響する。
「よく、ここまで来たな、人の子よ。いくら幼きオナゴとてオレは手加減しない。さぁ、虫けらのようなその力、この大剣、鉄斎の前に届かせることができるか試してみるがいい。もっとも、貴様のような細腕ではこの大剣をまともに受け止めることなどできないはずだ。さらにこの着ている黒鎧は今まで貴様が戦った鎧とは違い通常より倍の厚さがあり、また人間お得意の札を使った術に対しても高い抵抗を持っているのだ。くははははは。怖かろう。さぁ恐怖しろ。そして、その身に」
「……」
「ぴぎゃ!」
対峙した青い鬼の名乗りの長さにしびれを切らした月島が本から光弾を放つ。ある程度威力を加減した光弾は完全に油断していた目の前の大柄の青い鬼の顔面を捉える。
ひょっとこのような顔の形に変形した青鬼は弱々しい悲鳴を上げゴツゴツした床に無様に倒れる。
「き、貴様」
「はい、拘束」
すかさず、杖で魔法陣を描き発動した数本の鎖が鬼の体を縛り上げ、瞬く間に青鬼のくるぶしから首元をまでを巻き上げた。
「離せ! これを解け。さもなくばオレの本当の恐ろしさを知ることになるぞ!」
薄暗い洞穴のようなドーム状の床に倒れこむ青鬼は鎖を解こうと必死に体を動かすが鎖は引きちぎれる様子はない。
「……うるさい」
月島冷静にその顔の周辺を狙い、光弾を数発撃つ。
「ひぃ!」
青鬼の目の前の地面がクレーターを作り上げていくさまに青鬼は情けない悲鳴を上げ、すぐに大人しくなる。
「さて、いくつか聞きたいのだけどね」
「な、何をだ」
「この扉の先にカグラが、少女がいるのだろ」
そう言って、月島は目線を移動させる。倒れた青鬼の背後には巨大な石の門が固く閉ざされていた。取っ手などもなく、古びた様子からもちろん自動ドアというものでもないただ不思議な雰囲気を放つ扉だ。
青鬼が少しだけ迷いながら小さく頷くと、月島は迷うことなく杖で魔法陣を描く。水色の魔法陣の中から氷の槍が矢のように飛び出し、石の扉にぶつかる。
だが、石の扉は傷一つ付くことなく、粉々に砕け散った氷の塊が飛び散るだけであった。
――これで壊れないか。なかなか頑丈な扉だね。
「くははは、無駄だ。この扉には封印が仕掛けてあるのだぞ」
月島が聞いてもいないのに青鬼は話し始める。
「その扉には厳重に結界を張っている、貴様の見掛け倒しのまやかしなどに破られるものではないわ」
愉快そうに高笑いをする青鬼。月島はしばらく考えたあと魔術書から数個の光弾を巨大な扉に向け飛ばした。予想通り石扉には傷一つつくことなくシャボン玉のように弾き霧散していく。
そして、その光景を青鬼はさらに大声を上げ嘲笑う。
「無駄だ。無駄。その扉の結界はな、この参謀頭のオレが作ったのだぞ! おっと、だが、オレはこの結界を解くことはできないのだ」
話を聞かず、なおも光弾を放つ月島の姿に青鬼は自分の作った結界に非力な力でがむしゃらにしている姿に見え、滑稽に思ったのだろう。鎖に縛られ無様に倒れていながらも愉快で仕方ない様子であった。
「くははは、悔しいだろう。だがな、この扉は開けられない。なぜならこの脇道を進んで枝分かれした四部屋に貼られた札を剥がさなければ……はっ、貴様! オレを、参謀のオレを一泡吹かせるとはやるな。しかし残念だったな! 門を開ける為には一部屋ずつに貼られた札をはがさなければならない。しかし、しかしだ。その一部屋ずつには四天王たる鬼たちが待ち構えているのだ」
月島は淡々と作業のように光弾を放つ。
すると、ぶつかる音も立てず消えていく光の弾のうち一発だけ門に軽快な破裂音を奏でた。たが、扉は小さくへこんだ傷が浮かんだが自然に回復するようで瞬く間に元の状態に戻ってしまう。
月島は未だなにか叫ぶ青鬼の言葉を聞き流しながら門に近づき、扉を数度ぺたぺた触ると考え始める。
それは青鬼の言っていた四天王という鬼を倒す作戦ではない。考えるのはこの門の耐久値であった。頭の中で光弾が当たるまでの回数でおおよその目安で計算していく。
もちろん先ほど吠えていた青鬼の言葉を月島の耳には入っている。だが、とてもじゃないがここまで来るのに時間もかかっており、これ以上四天王などというあきらかに噛ませ犬のような奴らを相手にするのは面倒だと思った。だから、手っ取り早くこの門を破壊しようという結論に達したのだ。
六原からはあまり派手な技を使うなと言われていたが、もうカグラも目の前であるのでいいだろうと一人納得すると杖を両手で握り締めた。
「ふむ、大体5つほどといったところかな」
呟くと月島は石扉から少し離れ、赤い魔法陣を描く。足元で直径五十センチほどの赤い魔法陣がわずかに地面から浮かび、月島はその魔法陣の中心に向かってずぶりと杖を差し込んだ。
魔法陣は割れることなく回転し始めると杖の握り手まで上がり、そこでぴたりと止まる。瞬間、魔法陣が上った場所が激しく炎に包まれた。杖に灯った豪炎はぼんやりと形を固めていき、轟々と炎を纏った長刀へと変化した。
「な、なな、何をするつもりだ。まさか、オレを殺すつもりか。オレを殺したところでこの門が開くと思ったら大間違いだ」
「君の方こそ大間違いだよ」
「…あ、どういうことだ」
青鬼の問いに答えることなく、右手で炎の刀となった杖を構え月島は石門の前に対峙する。
「その炎の刀で門を壊す気か、ふん。そのような刀で壊せるはずないだろう」
「確かにこの刀では無理だよね」
月島は左手に持った表紙の黒い本を開く。開かれたページに描かれていたのは四つの赤い魔法陣。ページは赤く光を放つと魔法陣がページから離れいき、月島の周囲を漂う。
月島は浮かぶ四つの深紅の魔法陣に杖の先端を突き刺した。
どくんと何かを合図するように杖が脈打つと魔法陣は一層赤く光を放ち杖にまとった炎が変化し始める。
轟々と燃え上がる炎がまるで氷のように急速に凝縮され固められていく。だが、固められていきながらも炎の色は真紅のまるで宝石のような輝きを放っていき、一本の紅く月島の身長程もある巨大な刀身を作り上げた。
「な? は?」
驚き意味不明な声を青鬼は上げる声が聞こえる中、月島は刀から放つ熱さに少しだけ顔をしかめた。
刀を握る右手上にある魔法陣が鍔のように杖の中で静止し熱を防いでいるものの。それでも抑えられない巨大な熱を感じながら月島は魔術本を白装束の帯に挟む。
そして両手で刀を握り、固く閉ざされた扉に迷うことなく灼熱の刀を横一線に振るった。
ジュウ! なにか焦げるような音。それと共に石門が紅い光が引かれる。
瞬く間に石門は月島の持つ真紅の太刀に溶かされ横真っ二つにされ、さらに月島は太刀を上段に構え下にふるい落すと石門は低い地響きのような音とともに崩れ落ちた。
「ばかな。オレ。オレの結界が。史上最強の結界が」
つぶやく青鬼に見向きもせずに月島は頭で六原の言葉を思い出す。彼女の両手で握っていた太刀は二度目の斬撃をした後に弾けるように光の粒子のようになり元の杖に戻る。
先日、カグラを助ける作戦を伝えた後、六原は真面目な顔でこう言った。
『いいかい月島。敵のボスを倒すとき、まず大切なことは登場の仕方と決め台詞だ』
何を言い出すのだろうとその時、月島はジト目で睨んだが、六原曰く。
『親玉の本拠地だ。いきなり問答無用で襲いかかってきてはたまらない。だから、こいつはまだ殺してはいけないというようなカリスマ性などという印象を強く与えプレッシャーをかけたほうが有利に進められることができる可能性が高いのだ』
と言われ少しだけ一理あるなと考えた。
――登場の仕方は石門を斬り破り、堂々と現れるという登場の仕方でいいよね。後は決め台詞か。今ここで言ったほうがいいのだろうね。
ざわめきが破れた石扉から聞こえるざわきが耳に入る。すぐ目の前に囚われのカグラがいるにも関わらず冷静に決めゼリフを選ぶ。
六原が言うには自分の存在を強く主張したほうがいいとのことである。
――では、ワタシはなんなのだろう。……少なくともヒーローではないよね。
確かに囚われたカグラを助ける行動はヒーローのようなものかも知れないが、月島が助けるという目的のために仲間であるはずの天野の邪魔をする行動をしていることはとてもじゃないがヒーローとは言えない。
――どちらかというとこっちかな。
やはり帽子とマントを持って来ればよかったと思いながら月島は炎刀となっている杖を右手でひと振りする。
先程まで熱気を帯びていた炎の塊は鍔のように固定してあった魔法陣がガラスのように割るとともに湯気のように炎は霧散し消えていった。
もはやただ瓦礫となった扉を乗り越える。続く視界に先ほどの部屋よりも広いドーム状の空間が広がり、静寂に満ちているが複数の紅い視線が月島に注がれる中、月島はいつもどおり淡々と、しかし少しだけ口端を歪め、周囲に響くように澄んだ声をだす。
「おまたせ。さぁ、悪い魔女のお出ましだ」
月島は自分が今も昔も悪役だというのは理解していた。
だから、拍手や歓声などを期待はしていない。ただ今回の行動をきちんと口で発言したかったという思いもあっただけであった。
――意外に恥ずかしいものだね。
ついでにポーズでもとっておこうと初めは思ったがよく考えればさすがに恥ずかしかったのでやめておきつつ、月島は悠々とカグラの囚われている場所にたどり着いた。
突然、扉を叩き斬り現れた月島は薄暗い周囲を観察する。
周りの壁にはおびただしい数のロウソクが置かれた直径五十メートル程の半球体状の洞穴のような場所。
少しだけ肌寒さを感じる室内の中心には数本の松明と十体近い黒と赤の鬼達が壁のように立ちはだかる。
そして、その先、丸い円の書かれた中心に囚われていた筈の武内カグラがしっかりとした立ちこちらを振り返っていた。
彼女の顔には貼られていたはずの札ははがされたおり、元からなかったのかはがされた箇所にあるはずの目はないようである。さらにもう片方の片目が他の鬼のように赤く薄闇の中で輝いていた。
明らかにカグラの様子はおかしいがそれでも生きていることに月島はホッとした。
天野の姿は見えなかった。
――どうやら、六原さんが上手くやったみたいだね。なら、牛頭は助けなければいけないか。
六原と決められていた約束を思い出しながら、肉が腐敗する匂いがわずかに鼻腔をくすぐる。
月島は淡々と視線の先にいるカグラに向かって話しかけた。
「おとなしくカグラちゃんを解放しなさい。命までは取らないよ」
「邪魔をするな、人間。もう少しで儀式が終わるのだ」
人が変わったような口調で話すカグラ。完全に鬼に憑かれているようであると月島は推考しながら杖を右手で構え、先端の矢尻のような宝石に光を灯す。帯の背に差し込んだ魔術書を左手で広げる。
それに合わせて、対峙する鬼たちがそれぞれの手に持つ武器を握りしめ、月島を差す視線がさらに鋭いものとなる。
「残念だけど、牛鬼という奴の復活は諦めてくれ。時間をかけると払い師を人達が来て君たちを倒さないといけなくなるんだよ。今回も君たちは負けるのだということぐらい分かっているのだろう」
「黙れ! 貴様に我らの気持ちが――」
もはや聴き慣れてしまったセリフに月島は遮るように言葉を放つ。
「分かるわけないが、ワタシの言うとおりにしたほうが良いと――」
しかし、話している途中、背後にゾクリとした気配を感じた月島は振り返らずに前方に飛び退く。
着地と同時に振り向くといつの間にか月島の背後であった地面に水たまりのような黒いシミが広がり、そこから黒く長い腕が飛び出ていた。
腕は地面に手を乗せるとゆっくりと黒いシミから体を引きずり出し、影鬼が姿を現す。
「うるさい! 人の言うことなど信用出来るわけない! そのまま肉塊になれ」
少し遅れたカグラの言葉を合図に背中を向けた月島に二体の赤鬼が跳躍するとともにそれぞれの手に掴む薙刀の刃を上から叩きつける。
月島は冷静に地面に向かって左手の魔術書をかざす。開かれたページに描かれた水色の魔法陣が光り、ページから離れると地面に張り付き発動をする。
月島は地面から伸び始めた氷の棒の先端に足をかけた。とそのまま伸びていく力を利用して大きく横に跳躍する。
着地と同時に二体の赤鬼が叩きつけた薙刀が氷の棒を粉々にされ、月島は魔道書を開くと光弾を無数に放った。
「グッ!」
「がっ!」
二体の赤鬼に数発の光弾は激突し鈍い音と短い悲鳴がドームに反響する。
しかし、光弾は赤鬼の体をえぐる事無くはじき、ひるませるだけで効き目はあまりないようであったことが伺えた。
――なら、杖で強力な魔法を……
素早く判断した月島は杖で魔法陣を描こうとするが、それをさせまいと月島の死角から別の影鬼が奇襲する。
「……危ないじゃないか」
体に迫る影鬼の鋭い爪を杖でいなし、少し距離を取ると襲いかかった影鬼に狙いを変え、影鬼の体を観察する。
見たところ影男程度の体つきなら光弾で倒すこともできるのだが、魔術書を掲げるよりも早くその間に赤鬼が割り込むように入り邪魔をする。
鬼たちの攻撃は戦いなれている月島にとって防ぎ、避けること等は容易かったが、彼女の扱う魔法の弱点である、魔法陣を描くまでの時間を鬼たちによる波状攻撃によって与えさせてくれない。
距離をとってみても赤鬼が持つ薙刀が投げられ、月島は次第に追い詰められていき気が付けば背中に壁があたっていた。
「……おや、追い詰められたか」
「くははは、下手に相手を生かしたことが悪かったわね」
「なるほど、ね」
月島は理解する。おそらく、逃げられた鬼たちが月島の攻撃方法の特徴などを伝え、おそらく魔術本から弱い威力の魔法をすぐさま発動できること、杖からは多少時間がかかるが鎖や炎の刀といった高い威力の魔法を使えるということを見抜いたのだろう。だから、鬼たちにとっては見慣れていない魔法という現象にここまで的確な対応をし、月島を追い詰められることができたのだろう。
――さて、どうしようかな。……っと。
息を整え、杖を構え、飛んできた薙刀をはじく。だが、もう一本飛んできた薙刀をかわそうとした月島であったが、気慣れていない装束であったの為、右腕の袖下を薙刀が縫うように貫通し月島は壁に縫い付けられる。
「……しまったね」
明らかに不利になっていく状況にも関わらず月島は淡々と言うが、薙刀は壁に突き刺さっており、すんなりと抜くことができない。
「これで詰みよ。ここまできて相手を殺そうとしないところは褒めてあげるけど、我らの戦いにそんなものは生ぬるいことよ」
「ワタシもそう思うけど、そういう約束なのだから仕方ないのだよ」
さて、仕方ない。など嘆息しそうになる月島は壁に縫い付けられていない左手に握る魔術書を相手に向かってページを見せるように開いた。
すかさず、影鬼を守るように数体の赤鬼が間に入る。残りの赤鬼はゆっくりと月島の行動を見ながらじりじりと間合いを詰めていく。
「無駄なことを。そんな光で我らを倒せるなど」
「そう……では、やってみようじゃないか」
小さく口端を歪め月島は左手の力を抜き、手から魔導書を放した。
武器を手放すという予想外の行動に近づこうとした赤鬼は動きを少しだけ止まる。
魔術書は背表紙を地面に背に地面に落ちる。風など吹くことのないホール上の洞窟の中で本は生きたようにページが動き、最後のページがめくられた時、月島は右手の杖を左手に持ち替えると最後のページに向かって杖の先端で軽く叩いた。
ピリ。この場に似合わない紙の破れる音がする。
瞬間、魔術書のページが一ページ、一ページごとにバラバラにちぎれ、風にあおられていくように飛び散る。宙を舞うページを月島は杖で虚空を撫でるような仕草で操り、周囲の壁や床にまるで裏に接着剤でもつけられていたかのようにピタリと張り付く。
一斉に背表紙の間に挟まれていたであろう数百枚の紙が吹き荒れ、視界は紙に覆われる中、神楽の声が聞こえる。
「慌てるな、目くらましだ」
「違うよ。強いて言うなら――」
しっかりとした声で月島は否定する。右腕の袖を引き裂き、自由にさせ、月島はこれから鬼たちに起こることを一言にまとめ口を開く。
――たぶん六原さんなら誇らしげにいうのだろうね
「必殺技だよ」
紙吹雪の中、突っ込んでくる二体の赤鬼に月島は未だ飛び交うページを一枚杖で貫く。貫かれたページは赤く光を放つと瞬く間に杖を燃え上がらせ炎の刀へと変化させる。
そして、襲い来る鬼が振る二本の薙刀を炎刀で切り落とした。
「は?」
「じゃあ、行くよ」
背中のあたりで魔力がうねる独特の気配がする。同時に影鬼が現れ、抜き身のように腕を一直線に突き出した。
「……無駄」
奇襲に対し気がついたが振り向くことなく月島は炎を纏った杖の先を足元に貼られたページに向けて叩きつける。
杖の先端に埋め込まれた尖った形状の宝石が発光し、黒い魔法陣がページから現れるとともに杖はどくりと脈打つ。
すると、地面から黒い腕が、腕は関節などないように地面からの美。影鬼の体を掴むと放り投げ壁に打ち付ける。
「グガッ!」
鈍い音とおもに影鬼は壁を背にし崩れると動かなくなった。
「は、ふざけるな」
予想もしていなかった急展開すぎる光景だったのだろう神楽の声には静かな怒気が含まれていた。
「面倒だな。一度に全員相手してあげるよ」
再び襲いかかる赤鬼の軍団に月島はまたもや床に落ちるページを杖の先端で叩き、魔法陣から雷をまとったムチが鬼たちをなぎ払う。
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!」
狂ったように叫ぶカグラ。おそらく牛鬼を復活する為の儀式に必要なのだろうか、彼女の足元にある白線で描かれた円の外からは出られないようで、ただ髪をむしるようにするだけであった。
――ふぅん。カグラちゃんが動けないなら。さっさと終わらせよう。
動けないなら巻き込む心配がないと判断した月島は鬼たちから距離を取る。
「なんなのだ!その力は」
「そうだね、言うなれば君たちが生き返らせようとする主上の立場だから身につけた力というものかな。嗚呼、理解できないよね。だから、ただ恐怖してくれ」
――二度とカグラちゃんに手を出さないように。
いきなり時間をかけず強力な魔法を撃ちだし始めた月島に鬼たちは無闇に襲いかかれない。その好きを逃すことなく月島は頭上に杖の先端を向け、素早く魔法陣を描いた。
描かれたのは銀色の魔法陣。ピシリという音とともに銀の魔法陣が輝くと彼女の頭上に浮かぶ魔法陣がガラスのように粉々に砕けた。
「……君たち、鬼の負けだ」
雪のような結晶のような欠片になった魔法陣に呼応するように、部屋の周囲に散らばり壁や床に貼られた全ての魔道書のページが銀色に発光し、魔法陣が浮かび部屋を埋め尽くす。
ジャラリ、ジャラリ、ジャラリ――
金属がぶつかり合う不快な音が鬼たちの耳に聞こえる。そして、ソレが彼らの視界に映る最後の光景であった。
瞬間、四方から鎖が部屋中から鬼たちの視界を覆うように襲いかかる。
地を響かせる轟音とともに、地面から雨でも逆さに降ったかのように数え切れない程の鎖がわずか十数体ほどしかいない鬼たちには手も足も出ない。
悲鳴やうめき声が聞こえる中で、瞬く間にすべての鬼が鎖に全身を絡まれ簀巻きにされた。
「さて、これで残るは君だけだ。」
鎖の人形のようになった鬼を気にすることなく周囲を見渡し、他の鬼が戦闘不能を確認すると杖の先端をカグラに向ける。
先ほど光を放った魔術書のページは今は灰のように黒くなり、ボロボロと崩れ去った。
一度解き放ったページは二度ともどることはない。それが月島が使った「必殺技」という魔術書と杖を使った合わせ技であった。すべてのページがなくなり、また補充しなければいけないデメリットはあるが、魔法陣を描くことなく杖とページを合わせれば使うことができる。トドメように使う技である。
おかげで邪魔者は排除できたので月島は悠々と倒れた鬼を避けながら神楽の前へと歩いていく。
「おのれ、おのれええええ!」
もはや、ここまでだと考えたのだろう。カグラにとり憑いた鬼は人の姿のまま獣のような声を上げる。
月島が聞いたところカグラがさらわれた際にとり憑いた鬼は牛頭ではなく別の鬼という推測を高峰から聞いていたが、口調からしておそらく今目の前にいるであろう今回の襲撃のリーダーである牛頭だと月島は推測した。
「うああああああああ」
白線から飛び出し瞬く間に間合いを詰め、カグラは右腕を振るう。
しかし、腕の間合いに入る前に月島は冷静に杖で伸びてくるカグラの腕を叩き落とすとカウンターのように懐から取り出した札をカグラの額に貼り付けた。
ポッカリと洞穴のようになった穴があいている右目とは反対のカグラの片目が見開かれる。
「あ、ああ、あがらあああああああああああ」
大きく開いたカグラの口から人とは思えない絶叫が頭を痛くなるほど鼓膜を震わせる。
カグラは叫び、もがきながら貼られた札を剥がそうと自らの額に爪を立てようとするが伸ばした腕は静電気のような音と共にはじかれ、札に触れることすらできなかった。
頭を抱え、叫びはいつしかうめき声に変わり、カグラは背を丸めながら、ゆっくりと地面に両膝をつくと彼女の体を中心に文字が浮かび上がり、円のように囲む。
そして、ずるりと水の中から何かが這い出るような音とともに――まるで、蝉の羽化のようにカグラの背中から黒い着物の顔も見えないほどの長い髪の女性が姿を現す。
「う、あ、り、理不尽な」
「そうだね」
か細い声を絞り出す黒い着物の女性の額には二本の骨のような角が生えており、見開かれた目が赤いことを確認すると素早く杖で彼女の頭部めがけて思いっきり振り抜き、強打する。
「が! あ……」
短い悲鳴が聞こえたあと、月島は素早く杖で銀の魔法陣を描き、解き放つ。
魔法陣から現れた銀の鎖はカグラの背中から突然抜け出た女性の体を無慈悲に絡みつかせると簀巻きにし先ほど切り裂いた扉に向けて放り投げた。
「ふぅ……」
まるで軽く運動を終わらせたように月島は短く息を吐く。
かくして特に苦戦することもなく今回の件の首謀者たちを一網打尽にしたのであった。
異世界のレジスタンス、その象徴で魔女と言う異名で呼ばれていた彼女にとってこれくらいの戦いは全力でいけば簡単なことであったのだ。
――さすがに六原さんがこれを見たらラスボス戦の展開的に苦戦しないとダメだろうが。などと言うのだろうねー。




