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脇役謳歌~できそこないヒーロー  作者: uda
2*鬼と祓い屋の物語*
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今夜のメニューはカレーです

*鬼と祓い屋の物語 13*



*脇役・六原のおはなし*


 結局、月島になんと言えばいいのかよく未だ決まっていなかった。


「アハハハハ、やべぇ、なんも決まってないわぁ」


 四畳半ほどの自室、どこにでもあるようなデスクと、ベッド。変わった物といえば、ひと目ではなんなのかよく分からないものが整然と並べられている大きな棚があることぐらいのフローリングの部屋。

 そんな自室でどうすっかなぁ、どうすっかなぁ。悩みながらベッドに転がり一人で悶えていた。


 喫茶店での話し合いである程度考えはまとまったが、その後の百代が語る大人の恋愛事情を皆で聞いているとほかの客が増え始め、百夜もそろそろ夕飯の支度があるとのことで会議は終了してしまった。

 六原もいつまでも喫茶店に残っているわけにも行かず、こうして自宅のアパートの一室に戻り、一人で悩んでいた。


 ふと、六原は窓の外を見れば、いつのまにか夜になっていた。

 途端に、飢えた腹が夕飯を求め空腹を訴える、今日は姉が遅くなると連絡を受けているので、夕食を作るのは六原の役目となっていた。


 ご飯は先ほど、炊飯器で炊き始めているので、後はオカズを作るだけだが、六原は先にやることを思い出しベッドからよろよろと身を起こすと机の前の椅子に座る。

 机の上には昨夜使った一丁の銃とナイフが置かれていた。


 脇に置いた工具箱を身をかがめて取り、机の上に置くと六原は銃を手に取り、弾を抜いているのを確認するとフレーム後部の留め金のようなプレートを下降させた。

 その後、スライドを引くのではなく前進させると中のスライドが外れ、真っ二つに咲かれたように分解される。


 中にある、バレルなども外し、六原は銃を分解すると工具箱から軍手と小柄のブラシ、スプレー缶とタオルを取り出すと机の上にタオルを広げ、部品をおいていく。


 そして、スプレー缶の中身を銃身内に吹きかけ、軍手をするとブラシでこすり汚れを落としていった。


 やはり、マグナムの方が良かったのかもしれないな。その方が、整備が楽だった。と今更ながら天野から買い取ったこの銃に対して後悔しながらも、こいつのおかげで今回生き延びたようなものなので六原はしっかりと整備をした。


 磨きしばらく置いたあと洗浄スプレーとティッシュで汚れを拭き取り、もう一度組み立て終わった六原は銃を棚の中に戻すと今度はナイフを持ち、グリップを磨き、刃についたよごれを工具箱から取り出したタオルでふきあげた。


 ナイフ、夜霧はくすぐったいように鼓動しているのを感じながら、六原は棚の中から小柄の木箱を取り出すとその中に夜霧を入れてあげ、棚の中に戻した。


 工具箱も片付け、机の上に今日やる課題と明日分の予習となる教材を机の上に置き、夕飯が終わったあとでこれもやらないと考えると小さくっため息が漏れた。


「さーて、今日のおかずは何にしようかぁ」


 とりあえず、冷蔵庫の中を見に行かないといけないが、その前に整備で汚れた手を洗わなくてはと洗面所の方にいき手を洗っていると間延びしたチャイムがなった。


「はーい、ちょっと待っていてくださいよ」


 玄関に向かい叫びながら、急いで六原は手を洗い終えると玄関に向かう。


「はいはい。お待たせしまたね」


 誰だろうなと疑問を感じながらも六原はドアノブから相手を確認することなくドアを開ける。


「よう、小僧」

「人違いです!」


 開けた場所にいる老婆を見た瞬間、六原は反射的にドアを閉め、


「ふん、逃げんじゃないよ」


 られなかった。

 開いたドアの隙間に差し込まれた老婆の細腕がガッチリと開けたドアを押さえ、老婆とは思えないほどの力で扉は大きく開かれた。


「は、ははは、今日は割烹着じゃないんですね」


 もはや逃げることもできず、黒いジャージ姿のワーの前で六原は乾いた笑い声を上げるしかなかった。


「あれは、料理しているときだけだからね」

「へー、そうなんですか。それで……どうしたんですか」


 はじめて自宅に来た異性がワーという事に六原は何とも言えない気持ちにさせられ、引きつった笑みを浮かべながら目の前の老婆、月島の使い魔であり、人狼でもあるワーに訊ねた。


「坊主、今日は姉がいないのだろう」

「えぇ、まぁそうですけど」


 なんで知っているのかと疑問に思ったが少し考えたところで多分姉から聞いたのだろうなと推測した。


「夕食のカレーを作りすぎたんだよ。来な。」


 最後の方はとても人を誘っているようには聞こえない口調でドアの隙間から外へ出るように指先で手招きされる。


「いや、生憎。いま、おかずを作って……」

「そんな臭いはしないようだがね」


 すんすん、と鼻を鳴らしながらワーは答える。人狼であるが故の嗅覚ですぐ奥にあるキッチンの匂いを嗅ぎとったようである。


「え、えー、それはおかしな話ですね」


 静けさが周囲を包み込み上げる中、ワーは口端を釣り上げる。ギラリとした犬歯が六原を威圧した。


「……行くぞ」

「……はい。すぐ着替え、火の元の確認だけしたら行きます」


 有無を言わせない物言いに、もはや断ることもできないと思い。というより断る理由も特にはないのだが、何故かワーの言葉に素直に従うのは気が引かれる。

 六原は姉にご飯だけ炊いていると連絡し、部屋の電気などの戸締りを確認したあと、部屋でいつもの紅いパーカーを羽織り、ジーンズに履き替えると急ぎ足で玄関に戻った。


「お待たせしましたぁ」


 声をかけた入口では腕を組みワーが仁王立ちして六原を待っていた。


「じゃあ、行くかい」

「うぃーす。あっそう言えば転移魔法は外に設置したんですか」


 玄関の扉を閉め、振り返り、月島までの家は距離があるため転移魔法できたのだろう。と予想した六原はワーに尋ねた。


「ん。そんなものありゃしないよ」

「え……」


 何を言っているのだと疑問に思う六波羅の目の前で、ワーはアパートの廊下にある柵の上に足をかけ始めた。


「……何をしているのですかねぇ」

「こっちのほうが早いからね」


 そう言いながら、六原は首根っこを掴まれ引き寄せられる。とても老婆とは思えない力だ。


「ちょ、何するんですか。や、やめてください」

「うるさいね。ジッとしていな」


 いくら騒いだところでワーの力にはかなわず、六原は気が付くとワー片腕で腰に抱えられていた。

 そして、ワーは柵の上に両足を載せようとする。

 何となくだが、どうやってきたか、それからどうやって行くか予想がつく。


「あ、あの、ワーさん。そのままだと落ちるんですが。というより普通に電車で行きませんかねぇ。オレがおごりますから。お願い、お願いしますよ」


 悲鳴のような声で懇願してみたが、ワーは耳も貸す気はない様子でのコツ片方の足も作の上に乗せる。


「うぁ、ああ……」


 七階のマンション廊下、ドアとは反対方向にある転落防止用のポール上の柵の上にワーは両足で乗る。六原の視界には下の景色がまじまじと見え思わず頭がくらくらする。


 ワーはそんな六原のようすを楽しむように笑う。


「こっちのほうがあたしは好きだ」


 す、好きだなんてやめてくださいよ。照れるじゃないですか。などという冗談を言える程の余裕は六原にはなくなっていた。


「うえー」


 諦め、脱力するような声が自然と口から漏れる。

 そして、頭の中ではこれから何が起きるかという六原の予想が確信となっていた。そういえば以前入院していた時に病院の窓から侵入してきたことを思い出す。


――ワーさんは身軽で力持ち、きっと人一人抱えて屋根の上を飛び越えながら移動するなんてわけないですよね。……はははは、なにこれ罰ゲーム。


 かといって怖いものは怖いのである。


「覚悟するんだね」


――マダシニタクナイデス。


「いや、その、できれば、お手柔らかに……」


 お願いします。という言葉を出すこともなくワーは六原を担いだまま飛び上がる。


「そーれい」


 まるでスキップでもするように少し体が飛び上がった後、ふたりの体は一気に重力に引き寄せられる。


「う、うわぁぁぁぁあああああああ」

「おいおい、喋ると舌を噛むよ」


 落下していく感覚に叫びながら、ワーに担がれた六原は屋根伝いに高速で移動していくのであった。


 そして、その光景を見た近所の人たちの間で、若い男を狙うヤマンバ伝説が生まれたのはまた、別のお話である。





「いやー食った、食った」


 六原は満足そうにつぶやいた。


「まったく、三杯も食いやがって。もう少し遠慮ってもんがないのかね」


 そう言いながらもキッチンの中から悪態を言う割烹着姿のワーの口調はどこか嬉しそうであった。


 月島の自宅に着いたときは激しい飛び降りをしながらワーに運ばれていたため、胃がものを受け付けない状態であったのが、カレーが出来上がる頃には部屋中に漂う香辛料の匂いが食欲を駆り立てていた。

 

 ちなみに月島の家の入口に到着した時には少しは半泣きであった事はワーに黙っておいてもらうようにお願いしている。だって、マジで怖かったんだもの。というのが六原の言い分である。


「いやぁ、うまかったですよ」

「そいつは良かった」


 ニカッと歯を見せてワーは笑う。普段は反射的に怯えてしまう彼女の犬歯が大きく見えるが何故か今は恐怖ではなく親しみが持てていた。


 気にかけられているなと六原は思いながら正面に座る月島をみる。

 彼女のカレー皿は六原と同様に既に洗い場に下げられており、彼女の前には何も置かれていなかった。


 だが、月島は席から離れようとせず、かと言って六原に積極的に会話をしようともしない。

 ただ、彼女は陣を描かずに魔法を発動することができる黒い魔法本を広げ、文字をなぞるように何かを指先で描いていた。


 さて、どうしようかと、六原は考え、悩むことはなかった。

 時折ちらりとこちらを見ている月島の視線は明らかに何か言いたげな様子、わざわざ適当な事を言ってこのような席を作ってくれたワーの事などを考えるとやはり、自分が言うべきなのだ。


「なぁ、月島……」

「なんだい」


 何ともないように、お互いさりげない感じで会話が始まった。


「その、すまなかった。月島の意志とかも確認せずに、裏の方でこそこそするような真似をしてしまって……」


 よく考えれば月島が天野に惚れるという保証はそこまでなかった。どちらかといえば、カグラの方が天野に惚れたという可能性の方が大きかったのだが、なぜか六原はそんなことを冷静に考える暇もなく、月島と天野が仲良くなることを止めようと必死な自分がいた。


 べつに月島が六原のものではないのにだ。


「お前を救うって言ってさ、また、一人で舞い上がっていたんだよ。それで誰かにその役が取られそうに感じて勝手に嫉妬して、場を荒らして」


 ただ、月島と話し合えばいいことであった。だが、彼女に相談することなく勝手に動いた。


 なんと言われるのだろうか。罵倒されるか、呆れられるか。笑われるか。自業自得なので覚悟はしている。

 しばらくお互いが無言の後、月島は小さく頭を下げた。


「うん。私の方こそごめんなさい」

「……どうして、月島が謝るんだ」


 ポツポツと月島は応える。


「六原さんに勝手な理想を抱いてしまっていたからね。……ワタシは六原さんを勝手に理解したように思っていただけだった」


 そこで一旦言葉を区切り自虐的な笑みを浮かべた。


「むしろあなたは影で守ろうとしていたのにね」


 一瞬なんのことかよく分からなかったが、少し考え六原は意味を理解する。

 彼女は六原が嫉妬等で神楽の家に来たとことはない。六原という人物はヒーローに憧れているから人を救うのに全力で、そこに理由なんてないのだと思っていたのだろう。


 それが、もし、絵本に出てくるような聖人や白馬の王子様のような印象を六原に抱いていてくれるなら六原自身悪い気がしないわけではない。


 しかし、恐らく月島は知らないのだろうなと彼女の経歴を知る六原は思った。知らなかったから、現実を知らなかったから多分理想しかなかった。


 仲のいい友人も、互いに背中を預けられる仲間も知らなかったのだ。ある程度は理解しているだろうが、それは辞書のように綺麗な言葉で作られた理想であり、現実を知ることはない。


 そして、問題が分かったからといってコレはすぐに解決できるものでもなかった。

 言葉ではなくゆっくりと現実を知ることで解決していくことであるのだ。


 だが、何かを言わずには六原はいられない。目の前で悲しんでいるのに、その悲しみの表情すらも顔に表すことを知らない少女を少しでも元気づけてあげたい。


 考える脳裏につい数時間前に聞いた百代の言葉を思い出す。

 嗚呼、そうなのだろうなぁ。と納得しながら、六原はこのお互いの反省会を締めくくるための言葉を紡ぐ。


「じゃあお互いに信頼が足りなかったってことかぁ。だけど、そのためにはお互いの気持ちを理解しないといけないな」

「そうなのかな」


 責めることもせず、ただ彼女の気を楽にさせる言葉と共にニコリと笑い掛けた。


「そうなのですよぉ」


 だから、と付け加え六原は締めに入る。


「だから、オレたちは多分お互い事をよく知っていこうか。けどまぁ、金で買うようにポンと信頼関係がすぐに上がることはないからさ。お互いゆっくり時間をかけて行きましょうよ。……オレも努力するからさ」


 出会って一ヶ月程の相手に全てを理解し、信頼しろというのは無茶な話である。

 そう思って、彼女を救おうとしている六原は彼女をあまり信頼していなかった。

 だが、彼に助けられた月島は逆に彼を安易に信頼しすぎていたのであった。


 月島は目を瞬かせ、六原が何を言っているか理解するとまっすぐに彼を見つめた。


「そうだね。じゃあ、期待しないでワタシは待っているよ」

「そいつはありがたい話ですねぇ」


 そういうと目を合わせお互いに少し声を吹き出し笑ってしまう。

 そう、それだけで、周囲の重い空気もお互いの胸の内にあるわだかまりも消えたように思えた。


「なんだい。何がそんなにおもしろいんだね」


 まるでタイミングを見計らったようにワーがキッチンから顔を出す。

 もしかして、ずっと聞き耳をたてていたのではないか。だが、今回こんな席をもうけてくれたワーになら別にいいかなと思えた。


「まぁ、いいけどね。後の片付けはあたしがやっておくから、あんた達は居間にでも行っていな」

「いやぁ、ご馳走してもらっているなら片付けぐらい手伝いますよ」


 そう言ってお互い食べ終えたカレー皿を流しまで持っていくとワーはおもむろに冷蔵庫から一本の瓶を取り出す。


「これが終わったらあたしは君の姉と家で飲みに行くからね。これぐらいやっておくさ」


 これがおみあげさ。と言って、キッチンのカウンターの上に置かれた瓶が大吟醸と大きく書かれた一升瓶ということに気がついた。


「お手柔らかにお願いしますね」

「嗚呼、まかしておきな」


 ワーは含みのある笑みを浮かべた。帰宅後、家の惨状に大きく不安が残る。

 あれ、これってよく考えれば月島と二人っきりじゃねぇ。などとふだんならおもうかもしれないが

 

 ある程度片付けも終わり。あとの事をワーに任せると六原は食器を洗った手をタオルで拭いている月島に声をかける。


「じゃあさぁ。さっそく月島さん」

「なんだい」


 淡々とした物言いで振り返る月島に六原は先月彼女が自分を誘った時のようにセリフを言う。


「ワーさんに連られてきた時に見たんだ。今日は月が綺麗だ」

「そうみたいだね」

「だから、よかったら。また、魔女の踊り場に連れて行ってくれないか」

「六原さんは箒を持ってきていないのにかい」

「たまには芝生の上から見上げるのもいいもんじゃないか、どうだい」


 照れ隠しのためか熱くなってくる頬を小さく掻きつつ六原は月島に訊ねた。


「うん、よろこんで」


 沈黙のあと、短く答えた月島は薄く微笑み立ち上がると右手を挙げた。

 瞬く間に彼女の右手に大柄な杖が現れ彼女の手の内に握られる。


「では、ワーさん。私も行ってくるよ」


 エプロンを外し、ふたりの会話を聞いていないふりをしていたワーは言われて初めて気がついたように月島の方に振り返ると小さく頭を下げた。


「主、お気を付けて」

「ありがとう。では六原さん、私の部屋から行こうじゃないか」


 部屋に来るように促された六原は立ち上がり、何故か足早に部屋を出た月島の後を追う。


 出口まで足を運んだところで六原は思い出したように足を止め、カウンター越しのキッチンに居るワーに向き直ると頭を下げた。


「すいません。今日は色々と……」

「いいからとっとと行きな。戸締りはあたしがやっておくから。……………後ね。これ以上、主を悲しませるじゃないよ」

「はい」


 後半は独り言のように小さく語るそのワーの言葉に六原は大きく頷く。


「後ね」


 そして、ワーは何かを思い出したように六原の方に一歩大きく近づき、六原を真正面から瞳を見つめると、開いた唇の大きな隙間から犬歯をぎらりと輝いた。


「変な気起こすんじゃないよ」

「は、はい、もちろんでございす!!」


 逆らうことのできない低い獣のような声で小さく忠告するのであった。


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