渡り鳥
*鬼と祓い屋の物語08*
*脇役・六原のおはなし*
「さてと、これで終わり。だといいのだけどね……」
「ですなぁ」
何度目かの鬼の襲撃を六原と月島は撃退した二人は念のために周囲を警戒する。二人で倒したように見えるかもしれないが主に月島の活躍で鬼は撤退していた。
二人の目の前にはある巨大な門と白い塀未だ健全として立っている。つい先ほどまで目の前の門を覆っていた氷の槍で作られた柵は既に消え失せており、周囲にはいつしか、所々に小さなクレーターや焼き後が広がっていた。
周りで聞こえていた武器同士の打ち合う音や、鬼の断末魔は何時の間にやら鳴り止んでおり。静寂の中をフクロウか何かの夜鳥の鳴き声が今は聞こえている。
――しかしなんかなぁ
落ち着き払った静寂だが、六原は疑問を感じずにはいられなかった。
不意に、隣で杖を両腕に携える月島は疑問を投げかけた。
「六原さん。鬼というのはこんなに逃げ脚が早いものなのかい」
問いかけられた六原は少し考えた後、首を横に振った。
「いや」
先ほどに四度目になる襲撃であった。その間、鬼達は何度か門の前まで群れて現れ、又、壁をよじ登って来る等と戦法を変えてくるのだが、いずれも倒しきる前にスグに逃げてしまうのであった。
僅かに倒したと思った鬼は全てが黒い泥の塊のような物に変わり、大半は地面に吸い込まれ残りはチリの様に吹き飛んでいった。
なので、月島としては鬼を倒したという実感があまりないのだろうなと六原は推測した。
だが、同時に六原も彼らの退き際の良さに違和感を感じていた。
――引き際が早い、にしてもしつこく相手は現れるか…
どういう事かと考えている六原に声が掛けられる。
「まったく、凄いですわね」
月島の声ではない。とスグに分かった六原は声のした方を振り向くと空から一匹の白い獣がこちらに飛び込んできた。その背には青いブレザーの制服を着た一人の少女を乗せている。
――うわぁ、凄いねぇ
暗闇の中、紫に近い青の瞳を光らせ現れた白毛並みの獣に思わず六原は感想を言う。
「でかい猫ですなぁ。怖いね」
「そう。かわいいじゃないか」
マジか。と人の頭を呑みこみそうだぜ。アレ!!と驚きながら月島を見るがその視線は華麗にスル―されてしまう。
化け猫のようなモノの背から少女は降りた。
「私の式神はお二人には珍しいでしょう」
背から降りた少女。高峰 菫は肩にかかる髪を手で払いながら鈍い青色をした矛を手にし、こちらに近づく。その側に寄り添うように化け猫も高峰についてきていた。
――アレが「式神」か。これは知っているだけで初めて見るけれど、本当に生きているみたいな奴だ。
式神。あらかた天野達「祓い師」の不思議な力を調べた六原の情報では、式神と言うものは呪符という特殊な札を使う事で召喚し、召喚者の側に仕えるモノ達である。
だが、月島の家にいる使い魔のワ―とは違い、あそこまで知能の高いモノはおらず大体が巨大な獣の姿であるそうだ。また、召喚者の札等を使う際にいる「霊力」を使い続けなけれないけないらしく燃費も悪いことらしい。
「しかし、月島さんの『符術』には驚きましたわ。一体どういう『符術』なのですか。私、これほどまでに鮮やかで破壊的なモノは見たことがありませんわ」
「えーと」
問われた事に月島は上手く答えられずにいる。なので、変わりに六原が答える事にした。
「まぁ、そう言う血筋の者なのだよ」
「そうなのですか。どのような」
「詳しい事はそちらの機関から言えない事になっているから」
横に立つ月島が六原の顔を横目で見ながら小声で「本当なの」と聞いてきた。六原は歩いてくる高峰を見ながら表情を変えずに小声を返す。
「少し、口裏を合わせてくださいねぇ」
その一言で月島は六原の言いたい事をくみ取ったようであった。
「露見すれば色々と問題が起こると言われていてね」
高峰の方に向き直り、肩をすくめるようなジェスチャーで月島は六原の嘘につじつまを合わせる。
「ソレは失礼しましたわ」
二人の言葉を聞き、胸に手を当て優雅に高峰は謝る。どうやら、信じてくれたようだなと六原は思った。
「それで、いきなりこちらに来て向こうは大丈夫なのかい」
「ええ、それについても説明しますわね」
月島と六原のちょうど真ん中の正面に高峰は立ち止る。側にいる化け猫もその場にちょこんと礼儀正しく座る。
――ん?
ふと視線が気になり、何だろうと思うと化け猫の青い瞳がジッと六原を、いや、六原の左手に握られているガラスの様なナイフを見つめていた。
「あら、ごめんなさいね」
自分の化け猫の視線に気がついたらしい高峰は上品に笑いながら、白い毛に包まれた猫の大きな頭を撫でた。
「この子ったら綺麗な物が好きでして、それにしても変わったナイフですわね」
「ハハハ、そう褒めないでくださいよ」
「褒められてないけどね」
――まったく、月島さんはヤキモチですかねぇ
照れくさそうに笑いながら六原はナイフを猫に見せる。紅い珠を入れた柄の部分が怪しげに光っていた。化け猫は小さくゴロゴロと満足そうに喉を鳴らした。
――猫に小判とはこの事かな。
しかし、ナイフは、『夜霧』と言われる短刀は怯えているようでビクビクと少し震えているのが手のひらに伝わってきた。
短刀『夜霧』とは六原と友人の一人で自称武器コレクターのクラスメイト、不破 慎太郎と一緒になって造ったものであった。
――とはいっても元々「視界を惑わす」という不思議な宝石の力が強力になるようにと本体が宝石だという事を隠蔽する為、ナイフの柄に宝石を埋め込んだだけの様なものだけどねぇ。
なので、斬り合いなどには向かず、ナイフの切っ先を当てた相手の視界を惑わせる武器なのである。
そして、人間の様な感情を友人である不破がナイフに組み込んだらしく、今は言葉こそ発しないものの時折、柄が持ち主の言葉等に反応し動き出すようになっているようであった。
――不破は元からこの宝石には感情があったなんて言っていたけどな。
ともかく『夜霧』は目の前の大きな獣に近づけられて少しおびえていたので、可哀そうだと六原は思い、化け猫の前から遠ざけた。
「まぁ、これくらいで良いでしょう。そろそろ本題に入りましょうよ」
言いながらナイフを腰のホルスターにしまう。お礼を言いたいのか優しくナイフの柄はホルスターに入れる際に小さく一度鼓動した。
「そうでしたわね」
残念そうに首を垂れる白猫の背を撫でながら高峰は語る。
「作戦が変更になりましたわ」
「というと…」
「そちらも見たとおりですが、鬼達はしつこく攻撃をしてきます」
「その癖、スグに逃げると…」
「そうですわ、六原さん。で、す、か、ら、攻める事にしました」
――わぁ、かわいいですな。
ウィンクをしながら高峰はまっすぐに指を差した。塀より上を差すその方向には暗闇しか広がっておらず何も見えない。
「スイレンと天野様の話ではあの辺りに敵の本陣のようなものがあるそうです」
――嗚呼、そう言えばあの二人は鬼の気配みたいなものが分かるらしかったね。
ぼんやりと思いだしながら六原は高峰の話の続きを聞く事にした。
「ですので今、スイレンと天野様が本陣を叩く為に隠密に接近しているのですわ」
「それは…大丈夫なのかい」
「あの二人なら大丈夫ですわ」
二人の事をよく知っている高峰が言うのなら大丈夫なのだろうなと六原は思った。
――いや、ちょっと待て。けど、それって…
「なぁ、高峰さん。それならこの門の守りはどうなる」
「それは」
少し言い淀みながら高峰は言葉を繋げた。
「今いるメンツでやるつもりですわ」
「おいおい」
そんな無茶なと抗議を上げようとする六原であったが、その前に高峰は小さく頭を下げた。
「無理と勝手な判断をして申し訳ないと思っていますわ。ですけれど、どうかもう少し持ちこたえてくれませんか」
ふと横を見れば、高峰の隣にいる化け猫も何かを訴えるように青色の瞳で六原をまっすぐ見つめている。
――まったく、そんな目で見るなよ。子猫ちゃん。大丈夫だから。
六原は今回の敵である鬼を討ちたいという気持ちがある天野の心情を理解しているつもりであった。それにこのまま防戦一方ではこの戦いは終わらないと思った。
「分かった。月島も大丈夫だろ」
「ああ。二人抜けたぐらいなら、おそらく大丈夫だと思うよ。それで、ワタシ達は何をすればいいのだい」
ありがとうございますわ。と高峰は顔を上げた。
「それでは次にいつ鬼が攻めてくるか。私にも分かりませんので手短に説明しますわね」
「オーケー」
「先ほど見た戦いぶりからですと、月島さんが諸門を維持してください。六原さんは敵の少ない離れ屋敷付近から敵が来ないか見張りをしてもらいますわ」
えー。と不満そうな顔を仕掛けたが六原はぐっとこらえた。ここでわがままを言っているような時ではないのは分かっていた。
――まぁ、仕方ないか。
「私と結城が残りの押し寄せる敵の対処に動きます」
「了解だ」
「分かったよ」
六原と月島は短く返事を返した後、遠くで地響きのような音が鳴った。
暗闇で良く分からないが、何となく天野達が敵本陣にたどり着き暴れ始めたのだろうなと察した。
「あれは、天野さんたちなのかな」
「まぁ、そうだろうね。だろう、高峰さん」
六原は高峰の方を振り向くが、何故か高峰は六原達とは反対方向、屋敷に首を向けていた。
見れば側に控えている化け猫も主人と同じ場所をじっと見つめていた。
「そんな…」
蝋燭の光なのか、おぼろげな明かりを窓などに張られた障子越しから放つ屋敷を見上げたまま、高峰は震えた声で呟いた。
「結界が完全に破られましたわ」
「え……」
高峰の言っている言葉の意味を理解するのに少し時間がいった。六原は未だ巨人が歩いてくるような音をする方角と屋敷を交互に見てしまう。
――おかしいだろ。だって、こちらが優勢じゃなかったのかい。それに何であっさりと結界が消えるんだよ。
六原の知る限り、武内家が使った結界と言うのは札で囲まれた場所に、鬼を寄せ付けないバリアみたいなものを数人で集まり、屋敷を覆う祓い屋の技であった。今回はそれを屋敷内にいる何十人もの人々が使う事で幾重にも重ねているモノだという。
なので、いきなり結界がなくなるというものではなく徐々に減少していくものであるはずだった。しかし、高峰はいきなり、あっさりと結界がなくなったように発言した。
「一体どういう事」
考える六原を余所に月島が高峰に訪ねる。
「分かりませんわ」
小さく首を横に振ろうと高峰はしようとした、しかしその動作はピタリと止まる。
「……いえ、分かりました」
目が少しだけ細め、高峰は真っ直ぐに屋敷を見つめた。
「中で鬼が湧きました」
下を向けば行儀良く座っていた化け猫も猛獣の様な鳴き声を鳴らし屋敷を睨みつけている。
「……鬼が、湧く」
――嗚呼、そう言う事か。
合点が言った六原は一人で納得し、側にいる様子から理解できていないであろう月島に説明をしてあげる事にした。
「様は屋敷内に鬼が潜んでいて、現われた。そして、屋敷内を襲撃された為に結界を張っていたモノ達が結界を維持するのをやめたってところかな。いや、それだけじゃないか」
六原は屋敷を見上げる、先ほどまでの戦いによる金属音や悲鳴、怒声などが屋敷内から聞こえ始めた。
そして、様々な声の叫び声が聞こえていた。その内容はどれも皆同じであった。
予想できた六原は静かに答えた。
「巫女が、武内カグラが連れ去られたからじゃないからかな」
「……」
驚き声を上げていない高峰に気に留めず、六原は月島の様子を脇目で見る。
月島はいつも通り表情を変えずにいた。瞳だけが真っ直ぐに屋敷を見つめていた。
――さて、どうしようか。なんて考える暇もないよなぁ。
月島が何を考えるか六原も正確には分からないが、もし、六原の想像通りなら背中を押してあげたいを思った。
――それがあの夜に交わした事だったからなぁ。
――「そんなの、無理に決まっている」「じゃあ、俺が手伝ってやるよ」
月明かりが輝く夜の泉の前で交わした言葉を思い返しながら小さく六原はため息をつき、大きく笑みを浮かべた。
「月島、高峰さん」
「何だい」
「ここはオレに任せて先に行け」
作り笑顔と一目でわかる様な無理やり作った笑みを浮かべ、格好をつけて言ったセリフの返答に高峰は冷めた視線を送る。
「六原さん。ふざけている場合ではありませんわ」
「いや、だってこんな状況になったら言いたいだろ」
――信用ないなぁ。
先ほどの鬼との戦闘ぶりから見てもとてもじゃないが六原一人の力量では次に来た際の鬼の進行を防ぐ事は出来ない。と思っているのだろうな。と六原はいつもの事ではあったが何とも言えない寂しさを感じた。
隣にいる月島はゆっくり口を開く。彼女の眼はまっすぐに六原を見つめていた。
「六原さん――」
彼女は真剣な声色で問う。その
「――信じていいの」
様子に高峰は少し戸惑うが、
六原は即答した。
「嗚呼、何とかしますよ」
二人の視線が交差した。六原は相変わらずへらへらと笑っている。
「分かった。後は任せるよ」
「ありがとう。高峰さんもこれで良いかな」
話を振られ戸惑いながら、高峰は答える。
「ええ、結城の方は能力的にこの周囲を全部カバーするつもりでいると思いますけど……」
「急ごう、高峰さん。時間もあまりないみたいだ」
六原の案にまだ何か言いたい考があったのか口を開いていたが、月島に急かされ高峰は苦々しく了承した。
「そうですわね。彼女がかくまわれている場所に案内しますわ。それと、アザミ」
凛とした声で叫ぶと白い化け猫が高峰の方に振り向く。高峰はその頭をやさしく撫でた。
「アザミはここにいて六原さんをお守りしてください」
アザミと呼ばれた巨大な猫は人語を理解しているのか誇らしげに短くにゃーと答えた。
「じゃあ、行って来る」
「六原さん。無理をしないでくださいね」
――嗚呼、行って来い。
二人は駆け出し、高峰は忍者のように屋伝いに飛び跳ね。月島は羽のようにふわりと舞いあがりる。
そして、二階の障子窓を蹴り破り、二人は館の中に入って行った。
「さてさて……」
月島達が去った後でふと考える。そういえば、もし、結城が結界が破れた事に気付いて屋敷の中に突撃したら、この屋敷の外を守るのは自分一人ではないのか。
だからといって不安は六原にはなかった。
――まぁ、いいけどね。どうせこちらにやってもらうだけだからな。
ざ、ざ、ざ、ざ。
門の外から複数の足音が聞こえる。暗闇に目を凝らせば鬼達の紅く光る眼が僅かにちらついた。
――多いなぁ
一見しただけでも恐らく来ると思われる鬼達は先ほど片づけた鬼と比べて倍以上はあるだろう。
「何処にそんな余力があったのだろうねぇ。増援かな、アザミちゃん」
独り言を呟きながら、側に鎮座している化け猫の喉を投げ上げる。化け猫は気持よさそうに目を閉じている横で六原はもう片方の手でウエストポーチを開き。先ほど使わなかったハンカチを取り出した。
――結局、月島にはあのお守りいらなかったみたいだったなぁ。
それはよく見ればそれは月島にお守りと称して渡したハンカチと同じものであった。
――では、ショータイムを始めようか。
右手を猫から離し、時間を見ればもう、準備が終わっている時間であった。
六原は両手で持ったハンカチをゆっくりと地面に裏面を向けて置く。
地面の上に置かれたソレはただの無地の白いハンカチであった。
ただ違う点があるとするなら、ハンカチの裏面に奇妙な落書きが書いてあるだけである。
一般人には落書きとしか見えない記号と図形。しかし、もし、その落書きを月島が見たならきっと分かっていた。
それが落書きではなく、一つの魔法陣だと理解しただろう。
ごく限られたものにしか使えない魔法陣、当然、ただの一般人である六原には使える筈がなかった。
だが、原理は調べ上げていた。
あの月島達がいた魔法使いのいる世界。彼ら魔法使いになる為にいる素質と言うものは杖を使い、陣と言う図形の内に魔法となる素を集め、形を作るモノである。そして、素を圧縮した陣を開放し、魔法を使うためには杖に魔力を込め、陣に触れなればいけない事この二つであった。
ならば、あらかじめ何かに陣を描いておけば魔法陣は残るのではないか。
確証はワ―が病院に現れた後、月島がこちらに魔法で現れた時であった。それから、六原は自分の資金を削り、なるべく陣が何日も残るようなハンカチ上の物を巨力関係の針沼達に発注する事にしたのであった。
針沼の話では陣は空中では基本数分も持たないが、何かに描いた際はモノによれば一カ月近くもつと説明されていた。
――しっかし、高かったよなぁ。
六原は視線を目の前の消費期限一週間のハンカチ(お値段一枚一万円)の前に祈るように片膝をつく。
そして再びウエストポーチをまさぐりなかの小さなポケットから木片を取り出した、手のひらに収まる程度のその欠片は、先月の月島と辰野の戦闘で砕け散った杖の欠片であった。
針沼の仲間に魔力を注ぎこまれた欠片を六原は指の間に挟み込み、少しだけ先端を出す。
――行くぞ。
気合を込め六原は魔法陣に木片を叩きる。
瞬間、木片に込められた魔力に反応し魔法陣が輝きだした。
――来い。来い。来い。来いよ、新キャラ!
魔法陣の中から幾つもの光の帯が湧きあがり始める。六原は目をつむり必死に念じる。
発動した後は強い意志が重要であると最後に針沼に言われていたからであった。
だから、背後から屋根伝いに飛び込んできた二匹の鬼に六原は気がつく事は出来なかった。
見たこともない光の帯に危険を感じ、二匹の鬼はいずれも六原の脳天をめがけ金棒を振り下ろす。
「ガァァァァアアアアアアアア」
だが、一匹の鬼の脇を化け猫が齧りつき。横に押し倒し。
「まったく、今回だけよ。そそっかしいんだから」
ヒュン
もう一匹の鬼の目を六原のナイフが妖艶の声とともに鬼の右目に突き刺し、バランスを崩させる。
「「ギャガアアアアアアア」」
二匹の断末魔に気にすることもなく六原は念じる。
――よっしゃ、新キャラの登場だぁぁああああ!!
その願いに答えるように帯は折り込まれ、一つの大きな光の卵を形成した。
六原は目を開け静かに立ちあがる。
左手を伸ばし、手を開く。手のひらの上にゆっくりとナイフの柄が収まった。
「やっと素直になったかな、夜霧」
「……」
だが、ナイフは何も答えない。小さく鼓動しただけであった。
――まぁ、長い付き合いになるから、又の機会でいいかぁ。
小さな笑みを浮かべ振り返る。目の少し離れた先には右目を押さえた鬼がこちらを睨んでいた。反対側では化け猫のアザミが鬼でじゃれついていた。
血なまぐさい光景に驚くことなく、六原は、
「お待たせしました」
口端を釣り上げながら、演劇のナレーションの様に優雅な礼をする。
ドクリと隣にいる光の卵が脈動し、ひびが入り始めた。
「今回はオレは脇役の様ですが、実は今回から初めての我らの組織活動となります」
「ナ…な…」
いきなり語りだす六原に鬼は意味が分からずに右目を押さえ戸惑うが、六原はそれを手で制した。
「嗚呼、別に理解しなくてもいいよ。多分できないと思うから」
六原の側では音もなく気がつけば光の卵の殻が崩れ落ちていく。
「ただ、言いたいだけなんだよ。宣言したいからさ」
又会うであろう救えない人も、月島も必ず救おう。
ヒーローの様になろう。
六原の意思の元に作られた組織は様々なファンタジーの中で行われる悲劇から救済する者達の集まりであった。
色々な物語を、遠い世界も、大陸も、自由に渡り希望を届ける組織であり英雄。
――色々案がありましたが決まりましたよ、組織名!!
光の卵の殻は砂の様に崩れ去り、砂も小さなチリとなり夜風に紛れ煌めきながら消えていく。そして、ハンカチの上には一人の作務衣服の青年が胡坐を掻いて座っていた。その背には彼の肩幅ほどもある正方形の黒い箱が鎮座している。
「来たな、武器屋」
六原の呼びかけに作務衣姿の大柄の男は小さく頷いた。
「では、見たくなくてもお見せしましょう、これが今回初仕事。」
組織の輝ける第一陣。六原は名乗らずには居られない。
皆で考えた集団の名前を……
「我ら、アルバトロス・ヒーローの初仕事だ!」
――どうだ。カッコいいだろ!
「……日本語訳だと『アホウドリの英雄』なんだがな」
「日本語読みはやめてください!」
――だって、英語読みの方がカッコいいじゃないか。




