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脇役謳歌~できそこないヒーロー  作者: uda
2*鬼と祓い屋の物語*
30/47

闇からの襲撃~見せてやろう新装備

*鬼と祓い屋の物語07*


*敵・??のおはなし*


 ここ数日、深夜になれば輝いていた月明かりはどんよりとした雲に隠れ、今では足元さえ見えないほど暗くなっていた。


 濁りきった闇の中、ソレはゆっくりと浮き出るように現れる。

 暗闇に紛れソレは武内家に迫ってくる。


 ソレは止まることなく走り、飛び上がり楽々と屋敷の周囲を取り囲む白い塀を飛び越える。


 塀の垣根を超える瞬間、何か布に包まられそうな感覚に襲われるがソレは右腕の爪を振い、覆い被さろうとする何かを切り裂き、屋敷に入る。


 屋敷の中に入り込んだソレを、僅かだが月を隠していた雲が裂け、合間を縫うように零れた月光が晒しだす。


 闘牛を思わせるような引き締まった体格、血の様な紅い肌、翁の様な白髪を垂らし、ソレは人とは呼べる代物ではなかった。

 身に着けるモノは一昔前の農民を印象付ける様な着物。その帯紐の背には大柄な斧が添えられている。


 そして、その頭には二本の角が堂々と生えていた。


「愚愚愚」


 呻くような声をしながらソレは、鬼と呼ばれるソレは周囲を見渡す。

 紅く赤く濁った目がギョロギョロと動く、辺りには誰もいない。已然として静けさが漂うばかりあった。


 鬼は目の前の屋敷を見上げた。何故か、未だ明かりはポツポツと点いているがほとんどは闇に溶されたような薄暗い屋敷。恐らくこの中にいるであろう「巫女」の元に行く為に再び跳躍しようと足に力を込めた。


「ダメ、ダヨ」


 着物越しからも見える、引き締まった紅い背に不意に声が掛けられた。


「ソノサキハ、ダメ」


 甲高い人の声であった。

 人語をソレは理解したわけではないが、ただ、呼び止められたのは分かった。


 振り返れば自分の足元の先に小さな人がいた。いつの間にか現れた小さな人は覗き込むように鬼を見上げていた。


「―――津」


 いきなり現れた人にようやく鬼は警戒を抱き飛び退く。女であろう目の前の人は白い羽織を着ておりその右手には丸い球を持っているからであった。

 その白い羽織は鬼達にとっては危険の象徴でしかない。


「ニゲチャ、ダメ」


 右手に持っている球を人は上へ放り投げた。高く飛ばされた空中で爆発し、雷のような轟音をとどろかせた。


「コレデ、ニゲラレ、ナイ」


 無表情で淡々と話す人。鬼はその意味を理解することもせず、背に差した斧を素早く手に取ると目の前の人に飛びかかる。

 彼等にとって人は敵であるからだ。


「阿阿阿ァ」


 低い声を唸らせ、人には反応する事が出来ない速度で迫り、眼前の人に鬼は容赦なく斧の刃を叩きつける。


 砕けるような音が鈍い音が鳴る。続けざまに断末魔が響いた。


 引き裂かれたのだ。


「欺ィ」


 鬼の体が二つに引き裂かれたのだ。上半身と下半身を分離させられた事に気がつく暇もなく、苦悶の声を上げ鬼は地面へと倒れていく。


 鬼の瞳に最後に見えた光景は自らの体を引き裂いた人の姿であった。


 鬼を素手で引き裂いた少女の右腕は二回りほど腫れあがり、その腕からぎょろりとした複数の目がうごめいていた。

 そして、無表情に身下ろす彼女の目も腕に現れた目も、紅く紅く濁っていた。




*脇役・六原のおはなし*


 どーん。という花火のような音が周囲に響き渡る。


「くせものじゃ。敵は『鬼』なるものぞ」


 続くようにガンガンと警鐘の様な音が鳴る。両手に持ったフライパンとお玉で叩きながら、六原と天野が仮眠している部屋の前まで少女、結城は廊下を走った。


「でやえ、でやえ」


 フライパンとお玉を床に置き、彼らのいる部屋の障子を開け放った。


「なんじゃ騒々しい」

「つーかなんで、フライパン」


 二つの布団が並べられただけの畳敷きの部屋の中、既に学生服姿の六原は紅いパーカーを着こみ終えていた。


「まぁ、準備はバッチリだよ」


 そして、同じく学生服の上に白い羽織を着こんでいる天野は腰に二本の刀を差しこみ立ちあがった。





「今回は準備が早いですね」

「六原が先に連絡してくれたのさ」


――針沼さん達からケータイに連絡があった事は黙っておいてほしいのだけどねぇ。


 先ほど撤収してもらうように言っている彼らについて深く追及されたらどうしようかと思っていたが、結城は尋ねてはこなかった。他より急な事態が起きているからだろう。

 一応、六原と天野は寝起きであったが既にハッキリと意識は覚醒していた。


――さて、状況を整理しよう。


 先ほどの花火の様な音は屋敷に侵入者が現れた際の合図である。もっとも、侵入者といってもコソ泥のようなものではない。

 もっとそれより凶悪で、闇に近いモノ。天野達が『鬼』と侮蔑するものである。


 音が鳴った後の行動は事前に決められている。見回りに出かけている月島と夜ヶ峰は近辺の敵が来ないように注意しながらその場で警戒、状況に応じて動いてもらう。そして、残りの四人で屋敷の四方に別れ周囲の護衛をする事になっていた。

 高峰達から見て実力的に不安がられていた六原はこの正面門にいるであろう門番と協力して防衛する事にされている。


「高峰は先に行っていますよ」

「そうかい」

「俺らもさっさと自分の持ち場に行くぞ」


 六原達は先に出ていった高峰を追うように玄関を飛び出す。周囲では低い獣の声が何処からともなく聞こえ、時折断末魔の様な叫び声が上がっていた。


――うわぁ、こえぇ


 一瞬、身がすくみかけるがこの暗闇中で懸命に戦っている人たちを助けるのはヒーローを目指すものとして当然だと自分に言い聞かせた。


「準備はいいか」


 静かで落ち着いた声を天野は低く言う。彼の右手は刀の柄を掴んでおりいつでも抜刀できるように構えていた。


「はい、オーケーですよ」


 普段と変わらない元気な声を出しながら、天野と同じように白い羽織を着た結城が笑みを浮かべた。彼女の両手、腰の三か所には奇怪な模様の書かれた札が一本の紐に束ねられている。

 その札達に六原は見覚えがあった。同時に先月お世話になったなぁという感想が浮かんだ。


「皆、体に気をつけてね」

「六原。風邪じゃないんだから」


 何か自分も言わないといけないな。と発作的に思ってしまった六原は少し場違いなセリフを言ってしまい、やっちまったなぁ。と言いながら苦笑いを浮かべた。


――さてと、オレも準備バッチリかな。


 天野達と違い部外者に近い六原は自身の武器を腰のベルトとウエストポーチに収めていた。

 

 ベルトのカバーを開け背中から一本の短剣を抜く。

 

 それは短剣というにはあまりにもみすぼらしい形をしていた。

 ペーパーナイフとの違いが刃の厚みぐらいしかないほどの短い剣。刃も剣には通っておらず代わりにグリップの部分以外は透明なガラス細工のようなものででき、触れれば砕けてしまいそうであった。


「屋敷は大丈夫みたいだな、結界が作動している」


 暗闇の中、不気味にそびえたつ屋敷を一瞥しながら天野は呟いた。六原も追うように屋敷を見たが屋敷は何の変哲もないようであった。

 だが、天野達には六原の見る景色とは違うように見えているのだろう。


「えぇ、これはかなり丈夫な結界ですね。これならしばらく持ちこたえますよ」


 同じように見上げた結城も天野の意見に同意していた。


――いやいや、結界なんて見えないですよ。


 多分この辺りが退魔師としての才能の有無なのだろうなと六原は思った。いつもは悔しそうに唇をかみしめるがそんな暇は今はない。

 鬼はもう周囲にいるのだからだ。


「六原さんこれを…」


 隣にいた結城が腕に巻き付いた札を一枚引きちぎり六原に渡す。


「狐火」


 六原の手に乗せられた札に指を触れながら結城は唱える。その言葉に反応し、札の周囲、六原の周囲に青白い炎が浮かぶ。


「今夜ぐらいなら持ちますからこの炎を明かり代わりにして下さいね」

「ありがとう」


 札から手を話す結城にお礼を言う。炎は六原の周囲を照らしながらぼんやりと浮いているだけである。


――この札欲しいなぁ。つーか、どういう仕組みで札を持っているやつに炎がとりつくのかね。まぁ、深く考えないようにしておくか。


 気持ちを切り替える。六原はナイフの柄を拳で三度叩く。応えるようにグリップを握る六原の手のひらでドクリとナイフが脈動したような感触がした。


――これで、何とかなるかなぁ。頼むよ。


「皆、行くぞ」

「はい、先輩」

「はい、はい」


 周囲に三つの狐火が漂う中、天野の号令と共に三人は各々の場所に駆け出した。





――嗚呼、やってる。やってる。


 全速力で正門に着た六原の目の前で、人と鬼の攻防が繰り広げられていた。ドーンドーンと太鼓の様な音が門の外から聞こえていた。どうやら、鬼達は門をこじ開けようとしているようであった。


「ぐ…」


 呻くような声を上げながら門の正面についた六原の足元に門番の一人が吹き飛ばされてきた。


「はい、キャッチ」


 一度ナイフをしまった六原は両手を広げ、飛んできた白い衣と袴を着た門番を抱き止める。


――うお、重!!


 だが、大柄の男性一人の重さを受け止める事は出来なかったようで、そのまま六原は男を抱え背中から地面に滑り込んだ。


「いってぇ」


 少し背中を擦り剥いたようであった。身を起こすと六原は抱きとめていた男性を脇に寝かせた。

 寝かせて気付いた、男性は金属バットにでも殴られたのかあらぬ方向にくの字に折れていた。


「この、オレに、怪我を負わせるとはやるじゃねぇか」

「黙れ、モブキャラ」

「酷い、事を、言うな。客人さん」


 息も絶えながら、渋い顔の男性は顔を歪める。六原はウエストポーチから右手でハンカチを取り出した。


――変なしゃべり方をするなよ。個性が出てくるじゃないか。


「お、おれの事はいい」

「嗚呼、分かった」


 左手でポケットから取り出したケータイで時刻を確認しながら六原はハンカチのような布をしまった。


「いや。ぜぇぜぇ……ちょっとは心配をね、してもらえないか」

「大丈夫、大丈夫。おっさん元気そうですよ」

「お、おっさん。言うなや」


――そんだけ、元気なら大丈夫だよねぇ。


 六原は口端で笑みを浮かべた。


「まぁ、少し休んでいてくださいよ」

「……すまん、お嬢を……正門を頼む」

「嗚呼、任せてくれぃ」


――じゃあ、やるとしようじゃないか。


 六原は腰のベルトに着けたホルスターの留め金を外し、素早くその中身を。グリップを右手に握り、抜いた。


 右手に包まれているモノはナイフではなく、


「……拳銃、か」


 一丁の銃であった。


 まぁね、と相槌を返しながら六原は拳銃の「安」と刻まれているセーフティーをずらし、スライドを引く。ガシャコンと銃に弾が装填された音がした。


「無駄だ、奴らに銃は……」


 静止する声を掛けられたが六原は拳銃を右腕で構え、ゆっくりと狙いを正門に向ける。

 正門には一人の同じように白い衣を着た門番がおり、両手で槍の様な細い銀状の棒をかんぬきのように横にして、開きかけた門の隙間に必死に押し付けていた。


 そして、門の隙間からは獣の様な爪と、紅い瞳が暗闇から数多く垣間見る事ができる。


――うわぁ、こえぇ


 あのままだと門が開き大変な事になると六原は思いながら、銃の照準を門の隙間に合わせる。

 しかし、照準が定まらない、そこでようやく自然と自分の腕が震えていたのに気がついた。落ち着く為に一度ゆっくり深呼吸する。


――落ち着け、落ち着け。大丈夫。人里離れた学園裏の森奥で特訓したから、余裕じゃないですか。HAHAHAHA……よし、オーケーいける。


 スグに震えは収まった。脳裏に先月から密かに行っていた手にタコができる程の自分自身の練習風景がよぎった。


――いやぁ、見つかったら普通に警察に逮捕されるからねぇ。それにしても片手撃ちが安定するまで苦労しましたなぁ。


 照準は安定している。六原は迷う事無く引き金を引いた。

 タァン、タァン、タァンと三度の銃声。

 弾丸は正確に撃ちだされ、六原の狙い通り門の隙間に吸い込まれていく。


「「「ギ、ガァ…」」」


 火薬の焦げた臭いとともに呻くような声が三つほど聞こえる。

 どさりと何かが倒れる音が門の隙間から聞こえたが、確認する間もなく門番の力によって門はしっかりと閉められた。

 途端に太鼓のような音が鳴り止んだ。


「説明しよう。この銃は……って」


――また、でたぁぁああ。


 だが、六原が説明し始めようとした際、門の上の屋根をよじ登る影があった。


――説明ぐらいさせて欲しいけどなぁ


 影はそのままこちらに飛び降りてくる。

 ズシンと重々しい音と共に地面に降りた大きな影。


 ソレは巨大な大木かと見間違える様な影は灰色の体色をした鬼であった。クマの様な体格を覆うように日本甲冑を着こみ、両手には身の丈ほどもある金棒が握られている。


「……人よ。我らを恐れろ」


 低く唸る声で鬼は人語を語る。そして、肉食獣の様な唸り声と牙をむき出しにし六原の方に振りかえる。


「うぇ、中ボスの奴が来ちゃったじゃないか」


 しかし、こういった化け物に見慣れている六原は恐れず、冷静に鬼との距離を測っていた。

 十メール程の距離である事を確認しながら、銃の照準を鬼に合わせた。


「そのような、飛び道具は効かぬぞ」


 六原の構えた銃を紅い瞳で見ながら鬼は口端を歪めにたりと笑う。

 対し、何故か六原も口端を釣り上げニヤリと笑った。


「そのセリフはさっき聞いたよ」


 六原は迷うことなく引き金を引く。二発続けて発砲音が鳴り、


「ふむ、それだけか」



 鬼は何事もなく立っていた。


――あれぇ。


 確かに発射された弾丸は鎧の隙間部分を貫通する筈であった。にもかかわらず、弾は鬼の体に当たると鬼の体を貫かず、ぽとりと木の実のように力なく落ちていった。


――そんなバカな。この日の為にアイツと共同で作った弾と古き物に宿ると言われる九十九神の力を持つ『古銃』を使っているんだぞ。


 先ほどまでの余裕は消え失せていた。

 耳元では再び太鼓の様な音が聞こえている気がした。


――まさか!


 嫌な予感が閃いた六原は拳銃の弾倉を取り出す。そして、弾倉に収められている弾を確認する。弾には緑のラインが引かれていた。


――嗚呼、やっちゃいましたか。


 倒れながらも横で心配そうに見つめる門番に六原は振り返る。そして、ぺろりと舌を出しながら、頭に手をやった。


「ごめん。弾間違っちゃった」

「おバカァァァアアア!!」


――最近、ちょっと疲れ気味だったからなぁ。


「というわけで、鬼さん。チョットタイムで…」


 えへへへ、と笑いながら仕立てに出る六原に鬼は金棒を肩の付近に掲げる。


――ヤバイ!?話通じねぇ


「俺の事はいい」

「そんな死亡フラグは却下だねぇ」


――とは格好つけたもののまずい。


 次の瞬間には飛び込んでくる事を経験上から察知した六原は左手でホルスターに収めたナイフを抜く。

 手の中でナイフの柄も六原のミスを責めるように激しく鼓動しているのが手に感じた。


「覚悟」


――マジできやがった。 


 六原の予想通り鬼は飛ぶように襲いかかってくる。両腕の金棒は大きく掲げられる。着地と同時にその巨大な鉄の塊を六原の脳天に落とすことは明白であった。


――悪かったって、頼むよぉ。


 この場にいるのは得策ではない。隣に負傷した門番がいるからだ。かといって迎え撃つ為に弾倉を変える時間もない。

 だから、距離を瞬く間に距離を詰める鬼に六原はぶつかりにいった。


「う、うおおおおお」


 近づく六原に容赦なく鬼は金棒を振り下ろす、だが、六原は迫る金棒に対して避けようともナイフで受けようとする様子もなかった。

 ただそのまま走る。鬼はしっかりと狙いを定めて金棒を振い、



 そして、金棒は空を切った。


 地面にめり込んだ金棒。目の前には既に六原の姿はいなかった。

 何処に行ったと左右を見渡す鬼。

 

 ガシャコン

 

 背後でスライドが落ちた音がした。振り返ると少し離れた場所に紅いパーカーを着た六原がおり、その手にはナイフではなく銃が握られている。

 今度は間違えないようにウエストポーチから取り出した新しい弾倉を入れ替えた六原は銃口を正面に構えた。


 何が起きたか分からない様な茫然としている鬼が照準に入っていた。


「……鬼よ」


 語りながら六原は迷うことなく引き金を引いた。



「人を恐れろ」



――よし、きまった。セリフも決まった。


 続けざまに引き金を引く。打ちだされた弾丸は避ける動作もできない鬼の両腕を抉るように貫いた。

 火薬の臭いが鼻を差す中、もう一度銃を片足に撃ちこみ跪かせた。


「貴様」

「はい、オレの勝ち」


 跪きながらも立ちあがろうとするのでもう一度肩付近に銃を撃つ。どこから見ても六原が目の前の鬼を圧倒していた。


「否」


 だが、鬼は不敵に笑みを浮かべていた。


「我らの勝利だ」


 大きな物音が背後で聞こえた。振り返れば、門があいていた。


「げぇ、忘れてた」


 そして、門が開いた勢いでなのか再び飛んでくる門番。


――畜生。又、男を抱きとめるのかよぉ。


「はい、キャッチ!!」


 男性の体が地面に落ちる前に華麗に抱き止め、またもや転がった後、門の方を再び振り返った。

 開かれた門の外は側に浮かぶ狐火の光も届いていない暗闇に包まれていた。


 その闇にから無数の目がこちらをギョロリと覗く。


「「「グォォォォオオオオ」」」


 闇の中にうごめく鬼達は地響きする様な産声にも似た叫びを上げる。

 その数は少なく見積もっても十や二十の軍勢。

 その光景に六原は不敵に笑う。


――やっべぇ。無理じゃないですかぁ。


 自分の力ではこの鬼の群れを倒せない。ナイフの力もただ相対する相手の視線から外れる事ができるものである為、こんな一対多の状況で使っても意味がない。

 古銃を使って蹴散らすにしてもこの数では不可能に近い。


 だからといって、周囲のけが人を置いて逃げる気は最初からない。せめてもと余裕の笑みを浮かべながら六原は覚悟を決める事にした。


――やって、やるぜ。というかやるしかないじゃないですかぁ。


 鎧に身を包み刀や金棒を手に持つ鬼はゆっくりと門をくぐる。


 

 その時、空から煌めく何かが降り注いだ。



 雪崩れ落ちてきたそれらは地面に突き刺さり、鬼の行く手を阻む柵を門の前に作りだした。


「こ、んどは…何だ」


 驚きを隠せない鬼と門番達を余所に再び夜空が輝いたように感じた。

 そして、光の雨が、いや無数の光弾が落ちる。暗闇を引き裂くような光の弾は豪雨のように鬼達を襲い、土煙と鬼達の叫び声を門の外から轟かせる。


「グッ…」


 あまりのまぶしさに目を覆った六原の耳に悔しさを噛みしめる様な小さな声が聞こえ、倒した鬼に視線を向けるとそこには鬼の姿はなかった。


「逃げたか……」


 門の周囲の土煙がうっすらと晴れた時には門には氷の槍で覆われた柵が出来上がっていたが、先ほどまで存在していた鬼達の姿は忽然と消えていた。


――え、もしかして、一瞬で倒したの。


「今のは一体、何だ」


 鬼達に同情しますわぁと思っている六原。彼に疑問を投げかけながら先ほど飛んできた門番の一人が体を起こす。その疑問に六原はため息交じりに上を見るように促した。


――畜生。おいしいところ全部取られたじゃないか。


 指を差された上空で黒い影が次第にこちらに迫ってきていた。

 小さな光を灯しながら次第にその姿がはっきりとする。

 一人の少女であった。ふわりと木の葉のように一人の少女が空から舞い降りる。


――ヒロインの登場としてはありきたりかなぁ。しかし、ハーフパンツかぁ


「無事だったかい」


 おもむろにスカートの中が見えてしまったが、期待はずれであった為mつい溜息を吐く。


「へぇ、何を残念そうにしているの」


 六原の考えをお見通しの様に地面に音を立てることなく少女は、月島小夜子は着地した。彼女の斜め上付近には周囲を見渡す為にか光の丸い球が周囲をふわふわと浮かび照らしている。


「いやいや、月島さんが気にする事じゃないですよ」


 乾いた笑い声で六原はごまかすともう一人の倒れている門番の場所まで行き彼を屋敷の中に避難させる為に肩を担いだ。


「彼女は、いや、キミは一体……」


 担がれながら門番は近くにいた月島に問う。


「ワタシかい?ワタシはね」


 そして、右手に握っている一本の紫の宝石を携えた杖を肩に掛ける。

 その杖は以前彼女を狙っていた騎士に破壊された物であったが、先日六原達と一緒に破片を回収し、修復されたものであった。


「ワタシはね」


 そこで、六原は月島と視線を合わせる。六原は黙って小さく首を横に振った。


――さすがにコッチ側でその存在を言うのは色々と不味いですよ。


 魔法と言うモノを知らない人々の前で使う為に、こちらの世界で使われている札を使った術に見せかけるよう、彼女の杖にはカモフラージュの為に意味のない札をべたべたと張っているのであった。


「ワタシは?」


 後の言葉を待つ門番に月島は仕方ないと思いながら、


「ワタシは普通の女子高生だよ」

「無理があるなぁ」

「キミに言われたくないよ」


 等と少しムッとした表情で月島は反論ながら、とりあえず六原達は負傷した門番をもう一人の門番に預け、屋敷に戻っておくように言っておいた。

 彼らの去り際に「何なんだ、あの夫婦漫才みたいな奴ら」「関わらない方がいいだろ」と耳にしたが六原は月島も聞こえないふりをしておく事にした。


「六原さん。次が来るよ」

「オーケー。任せなさいよ」


 代わりに目の前の再び門の前に現れた鬼達に集中することにするのであった。

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