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脇役謳歌~できそこないヒーロー  作者: uda
2*鬼と祓い屋の物語*
24/47

一日目~武内家

*鬼と祓い屋の物語02*


*脇役・六原のおはなし*



 空はもう茜色に染まっていた。どこからか間延びしたカラスの声とゲッ、ゲッ、ゲッとコオロギの鳴き声が耳に響いている。

 

 天文町より電車で数駅渡り、一時間ほど歩いた所にあるこの場所は山々に囲まれ、周囲には田畑がちらほらとあり、六原にとってあまり見慣れない景色であった。


――田舎っていいよねぇ。……なんて現実逃避しちゃだめだよねぇ。


 ジーパンにいつもの紅いパーカーを着こんだ六原はため息をつきそうになる。右手で持っているハンドバッグがずしりと重くなった気がした。


――思った通りの展開になったじゃないですか。


 目の前には大きな門があった。木製の門で、丸太の様な門柱の上に瓦の切妻屋根が乗っている古風な門であり、門の内は周囲に高々と建てられた白い壁の様な塀で見る事は出来ないでいた。


「やはり、間近で見ると大きいね」


 隣にいる月島が呟く。制服姿で手ぶらの彼女は扉をマジマジと観察しているようであった。


「こういうのを見るのはじめてなのか」

「うん、そうだね。映像で見た事はあるけど、実際に見るとやはり凄味があるね」


――これは、良い雰囲気じゃないのか。つーか、チャンスじゃね。


「じゃあ今度そういう場所に行ってみるか」


 さらりとデートに誘う。


「そうだね。ワ―も喜ぶよ」

「お、おう」


 そして、いつも通りさらりと受け流される。六原はガクリと肩を落とした。

 ピンポーンという聞きなれた電子音が聞こえる。インターフォンのある場所に視線を向ければ一人の少年と三人の少女がいた。


――これが月島と二人なら良かったのにねぇ。


 その場所にいるのは六原、月島と一緒に電車で来た残りの四人であった。


 そして、それは六原にとって予想通りの人物。天野正雄と三人の少女であった。今日の為に皆学校は休んでいる筈であったが、いずれも制服を着ている。顔をきちんと覚えているのは天野ぐらいであり、残りの女性は六原のおぼろげな記憶を辿るに、名前は先日会った結城蘭、高峰スミレ、夜ヶ月睡蓮である。


――どうやら今回は皆、制服だそうだ。やべぇ。オレだけ私服で恥ずかしいよぉ


「どちら様でしょうか」


 少しの間をおいて落ち着いた男性の声がインターホン越しにした。

 彼を取り囲むようにしている少女達の中で一人だけ制服が違う少女が「天野さん任せますわ」と言う。仕方ないな、と言いたいように頭を軽く掻くと天野はインターフォンに語りかけた。


「以前連絡を入れました。禁龍機関第三戦闘班の者ですが」


 禁龍機関。主に鬼と呼ばれるモノノケなどの討伐を行う者達が集まった機関ある。

 やはりファンタジーにしか聞こえない機関。彼ら四人は六原的にはうらやましいそんな機関に所属している。


――そして、天野は第三戦闘班の中で唯一の男性というわけですよ。なんだろうね。この男としての敗北感。


 そんな非現実的な機関の人たちと何故一緒にいるのにはきちんとした理由がある。


 彼等は鬼を討つ事を家業としているのだが、この時期忙しい為か人手が足りないらしい。

 という事で知り合いに増援を求めた。そして、以前ありえないほど大活躍をした六原の姉、六原 睦月に協力を求めた結果。姉も忙しいと言って断り、代わりに以前借りを作っていた月島に行ってもらう事にしたのであった。

 月島も特に断る理由はないので姉の頼みを聞き入れこうして彼らの今回の任務先についてきたというわけである。


――後、オレはただ単について来たという完全な出歯亀なのですけどねぇ。


 一応名目上は六原も姉の借りを返したいという理由である。姉からは、「借りを返そうと言う考えはいいわね。けど、自分の身は自分で守ること」を条件にこの仕事を月島と一緒にする事を任せてくれたのであった。


――まぁ、姉としてはこの展開は予想できたのだろうなぁ。


「しばらくお待ちください」


 インターフォンの向こうの声は天野の事情を聴いた後に短く言い放つと一方的に音声を切った。


「何か、少し偉そうな感じですわね」


 不意に小さな声で天野の周りにいた少女の一人、一人だけ制服の違う少女がポツリと呟きながら、こちらに歩み寄ってきた。


「そうだね。まぁ、明らかに貴族みたいな感じの家だから、予想できたと言えば出来たけどね」

「あら、そうなの」

「それにもしかして、いきなり今日来る人数が増えた事に対して、少しいらついているかもしれないだろ」


 聞いたところによれば、姉からの依頼通りなら、数日間ここで寝食する可能性もあり、食事や寝床などを向こうがいろいろと準備をしてくれると六原は聞いていた。


「本当にすまないね。無理やり来てしまって」


 ぺこりと六原は唯一制服の違う高峰 スミレという少女に頭を軽く下げた。


「いえいえ、私としましては人手が多い事にこした事ありませんわ」


 少し、気品のある言葉遣いで頭を下げ返された。


 どこかのお嬢様のような雰囲気を持つ少女。後で少し調べて見るかな。と考えながら六原は笑みを浮かべ応対する。


「そう言ってもらえると助かります、お互い頑張りましょう」

「はい」

「そして、このヒーローの力見せてやりま――」

「月島さんもお互い頑張りましょうね」


――流れるようなスル―ですね。


「あ……うん」


 そっけなく、月島は返事を返した。見れば視線を右往左往させている。


――……もしかして、こういうしたフレンドリーな空気に慣れていないのかなぁ。


 今思えば月島と出会って一ヶ月ほど経ったが彼女の口から友人の話を聞いた事がない事に気がついた。


 六原の知り合いである月島のクラスメイトからの話ではイジメらている等の話などは聞いていなかった。おそらく、一目置かれているぐらいなのだろうと六原は結論を出し、何を言っていいか分からない少女に助け船を出す事にした。


「えーと、高峰さん。今回の依頼をあたらめて聞いておきたいのだけどいいかなぁ」


 来る前に調べておいているが念のために聞いておきたかった。


「ええ、もちろんですわ」

「少女の護衛という事は聞いているけれど」


 恐る恐ると言った感じに月島が言葉を入れる。


「そうですわね。この屋敷『武内家』の少女、武内神楽の護衛ですわね」

「まぁ、表向きはねぇ」


 へらへらと笑みを浮かべた六原の言葉に高峰は反応し、理的な瞳が六原を射抜くように細める。その向けられる視線は友好的なものではなく、六原を観察しているようであった。


「……あら、何か知っているような口ぶりですわね」


 何かを試すような口調。


――ここでエキサイティングな討論を繰り広げたい。けど、悪いねぇ。交渉術とか人並なんでねぇ。


 だから、構わず知っている情報を叩きつけた。


「牛鬼の討伐だろ」

「ギュウキ?」

「……」


 不思議そうに尋ねる月島にそういう敵なのだよと言っておいた。詳しい事はあとで教えておくとしようと思った。


「後、前回取り逃がした牛頭たちの討伐だろ」

「……なるほど。隠し事は出来ませんわね。さすがあの人の弟といったところですわ」

「いやいや、あの姉よりも凄いですよ」

「ふふふ、おもしろい冗談を言いますわね」


 上品にクスリと笑う高峰。


――あれぇ、冗談じゃないけどねぇ。


「とにかく。何か他に問題があるなら遠慮なく言ってくれ、手助けするよ」

「ありがとうございます」


 それと改めて、よろしくお願いしますわ。と言って高峰頭を深々と下げた。

 いえいえ、こちらこそ等と言っていると鈍い地響きのような音がした。三人とも音がした方向を振り向くとタイミング良く門が低い音を立ててゆっくりと開いていた。


 自然と開く門の中から人影が三つ現れる。

 皆が、神社の神職でよく見られる白い衣に紫の袴を纏っており、小さく頭を下げていた。


「お待たせしました」


 夕暮の中、中心に立つ男性は伏せていた顔を上げる。見た目は四十代ぐらい、何処か厳格さを感じる深みのある顔つきであった。


「ようこそおいでくださいました。わたくしはこの武内家の主、武内 光之助と申します」

「いえ、こちらこそこの度はお世話になりますわ」


 依頼主であり、天野達のリーダー的な立場である高峰はいつの間にか前に出ており、社交的な笑みを浮かべ返事を返した。


「では、巫女様が広間でお待ちですので詳しい話はそちらでお話ししましょう」


 ご案内いたします。と言うと光之助と名乗る男性は背を向ける。その背を追うように行きましょうかと高峰は皆を促し歩き始めた。


「月島、行こう」

「そうだね」


 そして、天野達の後に続き六原と月島も門をくぐった。





 門をくぐり、周囲に古風な庭が広がる道を通った後玄関に上がる。

 家主である武内 光之助の先導のもと、長く広々とした木部廊下を皆は黙って歩いた。

 

 静まり返り、落ち着いた雰囲気のする家の中で、一人だけテンションを上げて騒いでいるのは六原だけであった。


「なにこれすげぇ。幽霊とか出てきそうな屋敷じゃないですか。この戦いが終わったら肝試しましょうよ。嗚呼、しまったコレ死亡フラグじゃねぇか。まいっかねぇ、つーか、久しぶりに着物をきちんと着た女性を見たけど、やっぱり…」

「……」

「えぇ、これ箱庭ですか。家の中に庭があるなんてすごいじゃないですかぁ!!つーか広いよね、この屋敷」

「……お静かに」

「……すいません。空気読みます」


 光之助の重々しい叱咤する声にようやく周囲の状況が見えた六原はそれからしゅんと元気をなくし、皆押し黙ったまま、光之助の後についていった。


 二、三度曲がり、ここがこの屋敷のどのあたりなのかと少し不安になってくるあたりで、ようやく光之助の足は止まった。


「御連れいたしました」

「どうぞ…」


 幼さの残る少女の声が六原達のいる右側の部屋から聞こえた。


 右を向くと六原の前には障子の張られた一対の襖が入り口を閉ざしていた。同時に六原達の後ろをつけるように歩いていた二人の側近が光之助の前まで足早に歩み寄りそれぞれの襖の取っ手に手を掛け、ゆっくりと開けた。


 開かれた襖の先には一面畳に覆われている部屋が広がっていた。


「失礼します」


 光之助は短く言うと足跡を立てず目の前の部屋に入り、左に体を向けると小さくお辞儀をした。


「皆さまもどうぞ」

「失礼いたしますわ」


 促されるように高峰と、月島以外周囲の張り詰めた空気に緊張しながら入った。皆が入り終わると扉に手を掛けていた二人はそのまま扉を閉め、そそくさと何処かに歩いて行くらしく彼らの足音が遠くなっていくのが耳に入った。


「ご紹介にあずかりました。禁龍機関第三戦闘班の者です」


 皆を代表して高峰が部屋の向かいに挨拶をする中、六原達は視線を上座である奥に注がれた。

 大広間の様な広い部屋の奥、俗に言うと上座と呼ばれる場所にひとりの少女が座布団の上に座っていた。

 青色の着物を纏い、長く細い黒髪がまるで彼女を日本人形のように思わせる。


「おまちしておりました」


――あれは、何だ?


 少女の声を聞きながら六原は目を細める。少し遠くである為に良く見えないが、彼女の顔に右側に何かが付いていた。


――札か。


 事前に調べた限り聞いていたが、目の前の少女は右目を覆うように一枚の大きな札が貼られていた。その札には赤い文字と記号が並べられ、何かを封じているように想像させられる。


――まぁ、明らかに封印のたぐいのものだよなぁ。


 月島を横目で見ると表情こそ浮かべていないが、目の前の少女のいで立ちに少しは驚いているのだろうと思った。


「はじめまして、武内 カグラと申します」


 着物の少女は、武内カグラは礼儀正しく挨拶をした。


「どうか私を守ってくださいね」


 そして、片目でぎこちなく小さくほほ笑んだ。

 六原は月島の様子を改めて見る。相変わらず、顔色は変わらず、何を考えているのか今一分からないが、


――守って見せるさ。


 心に強く誓った後、


――今回は、今回は仕方なく、脇役だけどねぇ。


 小さく苦笑いを浮かべたのであった。


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