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脇役謳歌~できそこないヒーロー  作者: uda
2*鬼と祓い屋の物語*
21/47

牛鬼

今回は「祓い屋と鬼のお話」

*祓い屋・天野のおはなし*



 目の前は闇に覆われていた。

 ひんやりとした空気が熱気を帯びた体に心地よく流れる。


「ふぅ・・・」


 自分の手足も見えない状態の中で少年、天野 和人は息を整えると静かに片足を一歩踏み込む。じゃり、と地面をえぐる音が響く。


「狐火」


 短く呟くと同時にソレはぼぅっと幽霊のように無数に現れた。

 ソレは青白い炎の塊であった。ただ、狐火と呼ばれるソレはランプや、提灯等には入っておらず、そのままの、まるで人魂のように天野の周囲を漂っているだけであった。


 ゆらゆらと揺れる無数の蒼炎は彼の周囲を照らしだした。

 そこは綺麗な半球体状に開かれた洞窟内であった。そして、それ以外の周辺は一言で表すならば神社の境内を印象とさせた。


 石段によって舗装された一直線に伸びる道の先はそれぞれ黒い鳥居の下にある二つの入り口に繋がっている。


 つい先程まで綺麗に舗装されていたこの空間は跡形も無い。天野たちのお陰でどこも隕石でも落ちたのであろうかクレーターのようなくぼみがあり、石段も幾つか吹き飛ばされていた。

 現実離れした炎を操り周囲を確認しながら天野は改めて視線を部屋の中心に集中する。


 小山のような台座が部屋の中心に置かれていた。

 大きさはシングルベットほどあるだろう黒く濁りを帯びた台座はどこか宝石のように綺麗で怪しげな輝きを放っている。しかし、台座が発する煌めく神秘的な雰囲気をその上寝ているにいるモノの姿が全てを壊す。


 ソレは人とは呼べない化け物であった。


 瑛集学園指定の学生服の上に白い羽織を着ている天野に対し、目線の先にいるソレは黒い靄を帯びていた。

 

 一瞬にして理解できるのはソレは人ではないということ。

 牛の頭蓋骨を頭に被り顔は見えないがおよそ2メートルもある体格、黒い靄が衣のようにソレの体に纏っている為に足元は見えないが、隙間から灰色の丸太のような両腕が表れている。

 

 寝そべっているソレの腕はだらりと台座からはみ出てたれていた。体は動くことは無く台に倒れていた。ただ顔だけは天野のほうを向いている。

 

 ただ不気味に、『鬼』と天野たちが呼んでいるソレは顔を天野に向けてジッとしているだけであった。

 怖くないと言えば嘘であるが、天野はゆっくりと息を整え台座まで歩み寄る。


 鬼に近づくにつれてしだいと寝ている鬼の腹から生えているモノがはっきりとされる。


 一振りの太刀である。スラリと伸びた日本刀は鬼の腹に深々と刺さり鬼を台座に縫い付けているのだ。

 台座の上に上り横から鬼の顔を眺めるように立つと天野は口を開いた。


「なぁ牛鬼」

「……」


 牛鬼と呼ばれた鬼はしばらくの沈黙の後、お面を通してくぐもった声を発した。


「……さっさと殺せばよいではないか」


 はっきりとした言葉を話す鬼、牛鬼の言葉を流して天野は命令する。


「兵を、退け」

「それはできぬ」


 体を貫かれた刀の力により牛鬼は体を自由に動かすことが出来なかった。動くことの出来ない鬼を見下ろすように天野は傍に立つ。

 先程までここで行なわれた戦闘の結果を物語る立ち方に牛鬼は怨恨に駆られ吼える。


「コレで勝ったつもりか!我が軍勢たちは今貴様ら人里を襲い始めたのだ」


 だが、天野は表情を崩すことなく牛鬼の言葉を無慈悲に切り捨てる。


「お前たちの部下のいるのはこの祠から北に10キロいった所にある山の廃村だろ」

「何故それを」

「無駄なことは諦めろ。お前たちの部下は俺の仲間が退治しているよ」

「何だと!」


 仮面の内からも驚きの声を隠せない牛鬼に天野は畳み掛ける。


「いい加減負けを認めろ。君たちアヤカシモノのくだらない復讐劇等やめて静かに暮らせ」


 味方もやられ、自分自身もこうして身動きも取れない状況でも牛鬼にとって諦める選択肢は無かった。

 ギリギリと天野の耳に耳障りな音が牛の仮面の内より聞こえる。


「このままお前ら人間たちの身勝手で里と追われ、狙われる日常等いらぬ」

「何故話し合おうと、理解し合おうとしない」

「世迷言を言うな! お前らはワタシを倒す為に、貴様らの同胞である姫を討ったのではないか」

「それは……」


 初めて、天野は言葉を詰まらせた。

 脳裏に掠めるのは以前あった一つの事件・黒姫事件。対魔師と呼ばれる天野たちの間では有名な事件であり、目の前にいる牛鬼と天野自身もその事件に巻き込まれていた。


 犠牲になったのは一体の少女の姿をした鬼であった。最後の光景、あの少女の何もかもを諦めたような薄い笑みを思い出すだけで天野の胸は苦しくなった。


「あの姫さえいればワタシはここまでやらなかっただろう」


 鬼と共に生きたいがために、鬼になることを望んだ人であった少女を人が彼女を裏切り者を称して討ったのだ。怨まれて当然であろう。

 あの悲劇に関して、天野は何もいえない。だが、今言えることはある。


「だけど、だからと言って。コレは間違っているだろ。確かに、あの件は俺達対魔師の落ち度であったよ。だがな、他の人を巻き込むことは違う」


 天野の悲痛な叫び声が洞窟内に反響した。

 しばらくお互い何も言わないでいると、ゆっくりと牛鬼は声を出す。


「では、我はどうすればよかったのだ」


 救いを求めるような声。

 だが、天野は答えることは出来ない。


「……いや。人の子に聞いたのが間違いであったな」

「すまない。あんたが気の毒なのは分かったけど、それでも、オレは大切な人達のいる場所を守りたいんだよ」


 天野は腰に手を当てる。腰にはズボンのベルトを利用して括りつけられた日本の鞘があった。内一本は刀が刺さっていない。天野は刀の刺さっているもう一本の刀を握り抜く。


 スラリと鞘からすべるように抜き取られた刀を上段に構える。このまま振り下ろせば牛鬼の首元を真っ二つにする軌道である。

 

 早く振り下ろせと体がうずく、鬼に天野は人並み以上の憎しみがあるからであった。だが、同時に命を奪うことに対しての抵抗は未だ抜けていなかった。

 気持ちの整理ができず天野は最後の警告を牛鬼にした。


「もう一度聞きたい。断ればお前を討つ。諦める気は無いのか」

「無い!」

「……バカ野朗が」


 悔いは残るが、天野は一度片足を前に踏み込むと迷い無く刀を振り下ろした。


「やめろぉおおお!」


 突如、女性の悲鳴の声が背後でするが、天野は構わずに容赦なく下に振るった刀は牛鬼の首をいともたやすく斬り落とした。


 血を撒き散らし、ゴトリと体から離れた首が台座から放り出され床に転がる。


「き、貴様……」


 震える声がする方、鬼の首が転がった先に天野が顔を向ける、そこには黒い着物を着た女性が立っていた。

 暗闇で顔がよく分からない女性であった。ただ、足元までだらりと伸びた黒髪がどこか女性を幽霊のように感じさせた。


「牛鬼の仲間か」


 女性は答えない。


「あぁ、主上。何と言うお姿に……」


 膝をつき足元まで届きそうな長い髪を床に垂らし、着物の女性は首を拾い上げ、その首をわが子のように胸に抱き絞める。


「……首を渡せ」


 刀を構えなおす。左足を前に出しいつでも飛びかかる準備をした。先ほどの牛鬼との戦いで体が限界に近いがそれでも天野は刃を女性に向けた。


「首を、渡せ」

「ああ、ああ……」


 嘆く女性の声は次第に弱くなる。そして、突然に顔を伏せたまま立ち上がった。


「渡すものか」

「いや、渡してもらう」


 返答をした瞬間、台座から飛び上がった天野はその勢いのまま女性に斬りかかる。

 空中で半回転の反動をつけた刀の一閃。女性の左胴を狙ったこの斬撃は彼女の左手のひらに受け止められる。


 天野の刀を手で握り締めるように受け止めた女性は勢い良く顔を上げた。


 その顔はおよそ人の顔ではなかった。


 額には二本の骨のような角が生え、目は見開き爛々と輝いている。開かれた口は端が裂けており唇の間からは肉食獣のような牙がずらりと並んでいた。


「させるものか! 渡すものか! 主上を、貴様! 貴様」


 叫び上げる女性のようなモノは両手で天野の放った刀を握るとその自分を中心に回転、その反動をつけて天野を投げ飛ばした。


「……っ!」


 投げられぐるりと視界が回転しながらも何とか受身を取りながら天野は地面に着地した。

 すぐさま、顔を上げるが、先程までいたはずの女性は既に社の出口まで走り出していた。


「逃がすか!」


 立ち上がろうとした天野にゆらりと影が指す。

 反射的前に転がると耳に地面をえぐる破壊音と小さな揺れ感じさせ、起き上がると目の前に首の無い牛鬼の体が起き上がっていた。その胸には先ほど刺した天野の刀が刺さったままであった。


「邪魔だぁぁあああ」


 天野に向かって振り回される拳を刀で弾き、体だけとなった牛鬼の前に立つ。そして、素早く衣の袖から一枚の札を取り出すと体に刺さっている刀の塚に貼り付ける。


「怨!」


 すぐさま後ろに跳躍し距離と取った後、叫び声を上げた。その声に札が反応し刀の刃を紅く染め上げる。

 一度だけもがく化け物の胴体はピタリと止まった。刀の刺さった胸から紅いシミが広がる。そいて、炭のように牛鬼の体は跡形も無く崩れ落ちた。


「……あいつらは」


 狐火を増やし辺りを見渡すが、女性を鬼の首はどこにもいない。女性見事自分の主の首を守ったのだった。


「畜生」


 鬼の体は消え去り、残ったのは天野のもう一本の刀のみであった。


「もう少しだったのに!」


 右手に握る刀を地面に突き刺しながら、天野は叫んだ。

 一人しかいないこの空間で空しく彼の声だけが木霊した。

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