エピローグ
はいはい、皆様。こんにちはぁ。
六原 恭介だよ。皆さんにちょっと今の状況を簡単にざっくりと省いて言っておくね。
それから二日が過ぎた。
うん。これはねぇよ。
一週間も体がまともに動かない事を代償に戦ったのに、結局目を覚ましたら全てが終わっていた。
悔しさともどかしさで思わず叫びたくなるほどの感情があふれ出したが、いくら個室とはいえ病室にいる為そこはぐっと我慢した。
今回のオチが打ち切り漫画のラストみたいな急展開を感じるが、うん、けど、コレ本当の事だから仕方ない。、
ねぇ、叫んでいいかな。
うわぁぁぁぁぁぁぁああああって叫びたいんですけど
……まぁ、病室内ですからあきらめましょう。
では、手短にこの病室に担ぎ込まれた昨日の出来事を簡潔に語るとしよう。
一日目。
六原が目覚めると、目の前には見慣れない白い天井があった。周囲には味気のない白い壁が囲われている。殺風景な部屋だなという感想が思い浮かぶ頃には、ようやく意識がハッキリし、自分が今までベッドで眠っていた事が分かった。
今がいつなのかと思ったがカーテンのせいで朝も昼とも分からなく、不安になり体を動かそうとしたが体に力が入らずに動く事が出来なかった。体が震えているだけで腕を上げることも困難である。
何もすることができずに、仕方なくぼんやりとしていると部屋のドアが軽い音を立て開き、看護師が医師を連れて現われた。
未だ状況も分からずに軽く混乱している六原に医師が丁寧に、半日ほど意識を失っていたこと、姉に担がれココに運ばれてきたことを説明してくれ、六原は少し気分が落ち着くことができた。
それから、姉に借りがあると言う目の前の医師の働きによって、倒れた六原の理由等は深く検索することもせずに、首輪の力で怪我が治っていた六原は簡単な診察をされ、こうして目が覚めるまで病室のベッドに寝かせられていたと言う事を改めて聞かされた。
「全身の筋肉痛が酷いようですが、後二、三日ここで安静にしていなさい」
もっとも、完全に痛みなどがとれるのは一週間後ぐらいだと医師は言っていた。
その後、目を覚ました六原に意識等の確認を簡単に済ませた後、医師はお大事にと言い、カーテンを開けた看護師と共に病室から出て行った。
六原は一人部屋に残され、再びドアが開いた時には来客時間となる昼過ぎであった。
「よう、息子」
数時間後、夕方に差し掛かる時間に六原の両親と姉がお見舞いに来た。
両親は意識を取り戻した六原にホッとした後、無茶な事をした六原を叱り、隣にいた姉にはざまぁ、と小声で言われた。
叱り終えた後、夕飯の買出しがあると両親は言い、着替え等を六原に渡すと帰っていった。
「全く、忙しいのにわざわざ来てくれるなんていい両親じゃない」
「お前の両親でもあるけどね」
何故か残った姉はケラケラと笑うと突然話題を切り替える。
首輪の効果の代償で体中に響く筋肉痛を耐えながら上半身だけベッドから起き上がった。
「……なぁ」
しばらく、考え抜いた後思いきって姉に訪ねようとしたが、姉は六原の言葉をさえぎるように頬笑み、口を開いた。
「あれから、どうなったか知りたいだろ」
「……」
相変わらず六原の内心を見透かしたような言動に六原は何と言っていいのか言葉に詰まる。六原の困る表情を見つめながら姉は再度問い掛けた。
「知りたいでしょ」
自分が気を失ってから、あの泉で何が起きたのか。黒羽はどうなったか。六原は知らない。そして、目の前の姉なら事の終わりを知っていても別段おかしくなかった。
目の前の人物の思い通りのセリフを口にすることに酷く嫌な気分になりながら六原は姉に視線を合わせずに彼女の望むセリフを口にした。
「まぁ、知りたいです。けど、べ、べつにそこまで気になってなんていないんだからね」
せめてもの抵抗で、ツンデレのように言ってみた事に対し、姉は冷めた目を送った。
「……気持ち悪い弟ね」
「素直なれないお年頃なんですよ。まぁ、その前に」
六原は言いながらベッドから身を乗り出し、傍の棚の上においてあった紙袋を姉に向って放り投げた。
「返します。ありがとうございました」
「お礼はお金で頼むわ」
人に露払いをさせておいた奴のセリフとは思えない。
後に続く戯言を聞こえない振りをしながら六原は勝手に話を始める。
「まぁ、まさか首輪が盗聴器入りとはびっくりしましたけどね」
姉は笑みを浮かべ軽く拍手をする。
「驚いたわね。もう、気配でそんなことまで分かるようになったのかしら」
「いやいや、そんな事出来るのあんただけだからな。普通にカマをかけてみただけだよ」
「……だますとは酷いじゃない」
「あんたが言うなよ」
親切に何のメリットもなくあの姉が自分に「魔法のアイテム」をくれる等と六原は思っていない。ではなぜ貸してくれたのか。考え導き出した結論は姉が実はオレに雑魚敵などの相手をさせたかったのではないかと思った。
恐らく姉の考えとしては六原がいい所までいくが結局成果を上げることはできないまま終わる。
そして、そこで自分が登場していいところを全部奪うと言うところだったのだろう。
実際に思い通りに動かされてしまったので何も言い返せない六原に姉はとぼけたように語り掛ける。
「あれ?もしかして、私が弟を囮に使ったなんて思っているのかい」
「しか思えないな」
「いやいや、結果的にそう見えるかもしれないけど、コレは保険よ。保険。弟が失敗した場合、ソレがいち早く分かるようにする為のね」
言い訳っぽいんだよねぇ。と姉の言い分を聞きながら思っていると、それよりもと話を切り捨てた姉は六原に問いただす。
「君はこの姉にその後の話を聞きたかったのじゃないの」
「そうだった。オーケー。手短に、分かり易く頼む」
「アンタねぇ……」
あまりの手のひら返しに何か文句の一つでも姉は言いたいようではあったが一度大きく息を吐き、言いかけた言葉を飲み込むとアレからの出来事について一言で言った。
「大体がお前の想像道理な展開だよ」
「つまり、無意識のうちに覚醒したオレがなぞの力で全て解決して世界は平和に……」
「はいはい、ふざけないでねー」
「……うぃ、えーと、」
今までに生きてきた中で巻き込まれた物語のような様々な出来事。そのせいか、六原はある程度この物語の六原が意識を失ってから後の展開は読めていた。
「姉がレジスタンスをほぼ壊滅させて、騎士がレジスタンスの目的であった重鎮を排除したことにより、完全にレジスタンス、レギオンの目的はなくなり解散となったわけかな。そして、それはつまり、月島がもう狙われることはなくなったということかな。」
「あら、大体正解。点数で言うと75点って所ね」
喜んで良いのか、悪いのかイマイチな点数を言うとの枕元に置いてある椅子に座り足を組む。
「どこが違った」
「大体の筋はあっているわ」
傍の棚に両親がお見舞いで持ってきた籠に入っている林檎を手に取ると懐から折り畳みナイフを取り出し姉は林檎の皮をむき始めた。
「だけど、レギオンは国家転覆を企んでいた組織を忘れているようね。その為に、彼女が月島がしてきたことは簡単に許せるものではないの。たとえソレが、彼女がレギオンの象徴としてなるために必要なことであってもね。」
素早い手の動きにすぐさま皮をはぎ落とされた林檎を今度は切り分け、両親が持ってきた取り皿に置く姉に六原は頭の中で浮かんだ疑問を訪ねる。
「月島を捕まえたのか」
もう一つ籠から林檎を取り出すと、空中に放り上げ、落ちてくるまでの一瞬で切り分けた姉は一息つくとはっきり答えた。
「いえ、」
そして切り分けた林檎を手に取り一口齧る。
「むしろ、保護したようなものだよ」
「保護?つーかその林檎はオレのお見舞い品じゃないかな」
「気にしてはダメよ。兄妹でしょ」
頭に血が上りてめぇーと姉に掴みかかったが片手で弾き返され六原は無様にベッドに叩きつけれた。途端に広がる筋肉痛に顔を歪めつつ畜生・・・と短く呟く。
「まだまだねー」
「いいから。そういうのいいから。結局、月島をどうしたん。あの後、あの泉に来たんだろ」
「まぁ、そうだけどね。実はキミが気を失った後に――」
しかし、その後の言葉を姉は口にしなかった。そして、少しの間顎に軽く指先を当て考えるしぐさを取ると笑みを浮かべた。口先をゆがめた笑みは六原の経験上碌な事を考えているときだと悟るが気付いたときにもう遅かった。
「やっぱやめたわぁ」
「何なんだよ。お前!」
思わず叫ぶ六原の声に等ものともせず姉は目の前に人差し指を突きたてる。
「だけど、代わりに一つキミの疑問を解消してあげよう」
どこかわざとらしい仕草をしながら姉は語る。
「ワーにキミを紹介したのはこの私だよ」
サラリと言った姉のセリフ。一体どういう意味なのか少し分からなかったが、少し考えたところですぐに理解できた。
「そういうことですかぁ」
「理解が早くて助かるわ」
分かってしまった。そして、がっくりと力が抜けていく気がした。
結局、最後だけではなく最後まで姉の手のひらで踊っていたのだ。
穴の言葉の意味することは要するに月島が六原に会う前からワーと姉は結託していたのだろう。
二人の間にどういった取引や協力があったのかは良く分からないが、少なくともタイミングが良すぎた六原に協力を求めさせたこと、そしてその後に起きた騎士の襲撃、そして、レギオン残党の襲来について彼女らの手引きが少しはあったのだと六原は思った。
とはいえ、確かめるために、ここで姉に直接問いただしたいが、上手くはぐらかされるのが分かっているので後でワーに聞いておこうと思った。
「おかしいとは思っていたよ。何というか話が出来すぎているし都合が良すぎた様に見えたからねぇ」
「いやー、今回は色々と慣れない裏方役に回って動いていたから疲れたわ」
「お疲れさん。…なぁ、一応聞くが、月島は無事なのか」
「…ええ」
短くだがハッキリと姉は答えた。
「そうかい」
それだけ分かれば十分であった。
ホッとした六原に姉は笑みを浮かべる。
「だから、弟よ。退院後にデートに誘っても大丈夫だ。やったね!」
「いきなり、何を言っていやがる!!」
親指を立てる姉の発言に驚き声を六原は上げる。その反応を見て姉は肩をすくめた。
「やれやれ、惚れた女を誘うことすら出来ないのかい」
「いやいや、まだ、惚れてないから」
「じゃあ、惚れていたら誘うのかい」
「当たり前ですよ」
きっと誘わなければ、ヘタレ等と姉に言われることは明確であった為、反射的に六原は答えた。
「そうかい、じゃあ、楽しみね」
フラれたら指をさして笑ってあげるわ。と姉は面白そうに語った。
そして、その後は今回の自分たちに対してどこが格好良かったか、悪かったか等というダメだしや罵りあいを言い合ったところで両親が買出しから戻り、その日はそれ以上月島達について聞くことはなかった。
姉との戯れも終わって入院二日目。窓からの景色はもう夕方となっていた。
昨日、姉が来てからは今回の件で特に気にするような人物は六原としては現われなかった。
まぁ、その。強いて言うなら、午前中にもう一度姉が来ていつもの軽い姉弟喧嘩をしてボロ負けした事と、先程まで辰野がメイドと共がお見舞いに来ていたことぐらいであった。もう、魔女を狙うことはもうやめることになった話と有耶無耶になっていたが以前メイドが怪我をさせたことに対しての謝罪をしに来たらしい。
六原としてはその心遣いだけでも十分であったので簡単に許した。調子に乗って「メイドを貸して」と言ったところで、調子に乗るなと辰野に怒られた。
その後はただ、クラスのことや授業のこと等の雑談をしていたが月島について思い出し聞こうとしたがその前に「騎士の婚約者。」と名乗る謎の少女の乱入により発生した辰野の大岡裂きを見たことで聞く気力も失せ、サッサと三人を部屋から追い出してしまったことぐらいであった。
――まったく、いちゃいちゃしやがって。
先程までの辰野達がいた時の喧騒が嘘のように静まり返った。
――嗚呼、ヤッパリ聞いておけばよかったなぁ。
今更ながらに後悔したが既に辰野達を追い出した自分としては今更引き止めにいく訳にもいかず、ベッドに寝転がる。
――そろそろ月島来ないかねぇ。
実際月島自身が来るのがアレからどうなったのかよく分かり、個人的にも嬉しいと六原は思っていた。
電話でもしようと思ったが、なにぶん活躍もできずにこうして入院している状況を自分から説明するのは何故かカッコ悪く、恥ずかしいと思い六原は出来ないでいた。
唯一送ったのは返事の来ないメールを一通。一言、無事ですか。と送っただけであった。
はぁ、と重々しい溜息を吐いてしまう。
医者からは明日にでも退院できると言われている。なので、月島がお見舞いに来るなら今日しかない。
が、ラブコメのように早々上手くいくようなはずはない。
このまま誰も来なければ一眠りしようかと思っていると、コンコンと乾いた音が耳に聞こえた。
――キタ。月島が来た。
何故か、そんな核心があった六原は痛みも気にせず飛びあがる。
ノックの音に反射的に素早くドアのほうを振り向くが、扉は開かなかった。
「やれやれ、やっと行ったようじゃないか」
代わりに聞き覚えのある声と共とガラリと音がすると扉ではなく窓が開いた。
――来ましたよ。来ちゃいましたよ。
「ワオ…スタイリッシュな登場ですね」
――ワーさんがね。
いきなり窓から現われた割烹着姿の老婆に驚いた後に六原は小さく落胆した
「なんだい。苦いものでも食べたような渋い顔をして」
「いえ、ウレシイデスヨ」
――何というかまぁ、来たことに対して凄く嬉しいんだが凄く惜しい!と正直おもうんだよなぁ。
「まったく窓から来てみれば騎士がいるじゃないかい。慌ててそのまま窓枠に捕まっていたから、疲れたよ」
「色々と突っ込みどころがあるが」
ほんと、肩が凝ったよと言いながらワーは肩をまわした。
一応和解しているとはいっても、つい先日まで戦っていた相手とはしばらく会ってもお互い気まずいだけなのでワーなりに気を使ったのだろう。
ワーは傍にあった椅子に腰掛ける。
「まずは主を守ってくれてありがとう」
そして、深々と頭を下げた。
「いえいえ、それほどでも」
「そうだね」
そう言って下げた頭をスグ元に戻した。
「変わり身早くないですか」
「細かいことを気にすんじゃないよ。それに、守ったと言うより納得がいかずに奪いに来たと言うほうがいいかもしれないがね」
「いやいや、あのときの気分はもう姫を守る騎士のような気持ちでしたから、そんなひねくれた子供のような感情は一切なかったですよぉ」
「……まぁ、そういうことにしておこうかい」
「あらー信用ないですねー」
ハハハと乾いた笑いをして誤魔化すワーさん。そこでふとした疑問が浮かぶ。
「そういえば、窓の鍵開いていましたっけ?」
「ああ、お前の姉に開けておいて貰うように言っておいたんだよ。」
そういえば午前中に姉が来ていたことを六原は思い出した。
先日のお見舞いに行った後に焼肉に行ったことをまるで六原に煽るように言ってくる姉とまたもや軽い姉弟喧嘩をしていつも通り負けたのであまり思い出したくない事ではあったが、確かに思い出せば喧嘩をする前に一度窓を開けていた。姉は換気だと言っていたがそれで閉めず鍵は開けておいたのだろう。
「一応、姉からはあなたの事は聞きましたよ」
「……そうかい、聞いたのかい」
何がとはワーは聞かなかった。ただ、面倒そうに頭を掻いた。
「言っておくけどね、主は関係ないよ。私がお前の姉と主のことについてよく相談に乗ってもらっていた仲なんだよ」
「そうですか」
姉と知り合いではなかったことになぜか六原はホッとした。
「全くいきなり騎士相手に負けて戻ったときは使えねぇ、なんて思ったが。まぁ、最後は良くやってくれたよ」
どこか照れくさそうにそっぽを向きながら答えるワー。
「……」
――え、なにこれ!?ツンデレ。……参ったなぁ。初めてフラグが立ったと思えたのがバァさんとはねぇ。
等とふざけた事を考えながら六原は適当な世間話を交えていたところで、ワーはそろそろお前の姉に用があるからと言って、窓を開けた。
聞けば今度は連れ戻されそうな主を自分の立場を省みずに助けた姉に、お礼を言いに行くらしい。
やっぱり何か悔しかった。
美味しい所だけ姉に持っていかれるといういつも通りの納得いかない出来事。
しかし、結果だけいえば、レギオンの残党を完全に倒し、月島を最後に助けたのは姉であるという事実は明らかであった。
――てな、感じでイライラしていたらまた聞きそびれるじゃないか。
「あの」
聞かなければいけない事を未だ六原は尋ねていない。慌てて、窓からもう一度去ろうと背中を向けるワーに六原は声を掛けた。
「月島は元気ですか」
ワーは振り返ることなく窓を開け答える。
「それは本人に会うのが一番だと思うがね」
そして、エプロンのポケットから折り畳まれたA4サイズの紙を取り出す。
「手紙ですか?」
ワーは答えなかった。
「主もそれを望んでいるからね」
そして、その紙を床に置くと窓枠に足を掛けて勢いよく飛び出していった。広げた紙を置いたままあっという間にワーの姿は消え、病室は静まり返る。
――え、何? 何ですか?
ワ―が何をやりたかったのか分からず、疑問に思いながら六原は思い体を引きずり、立ち上がるとその手紙を思える用紙を取ろうと近づいた。
しかし、ベッドにいたときは見えなかったがその紙に描かれたものは手紙に記すような文章ではなかった。
どこかで見たことのある円と記号。
それは一つの魔法陣であった。
六原がその魔法陣が何だったのか思い出すよりも早く。魔法陣は光り輝く。
いきなり発動に、驚き、とっさにベッドの陰に飛び込もうと身構えたが、目の前で起こる出来事の美しさに目を奪われ六原の動きは止まった。
魔法陣の名から湧き上がるのは幾つもの光りの帯。
帯は魔法陣を取り囲み一つの羽毛のようにふわりと収束していく。
重なり合う帯同士は一つの大きな光りの卵を形成した。
全ての帯が収束し卵のような形の光りの固まりが出来上がる。光る固まりは一度大きくドクリと脈動すると同時に今度は砂のように卵が崩れ落ちた。
卵は風に流されているように上から崩れてその内にあるものの姿を露わにした。
それは中髪を後ろで結んだ一人の少女。
灰色のニットワンピースに黒のパンツを着ている私服姿の少女。その両手には一冊の本と紙袋をそれぞれ持っている。
目の前のとても現実とは思えない突然の光景は六原は見た事はなかったが、予想はついていた。
「……転移魔法」
目の前の出来事に驚きつつ、ポツリと言葉を漏らす六原に少女は、月島は微笑む。
「やぁ、六原さん」
「嗚呼、」
言いたいことや聞きたいことは数多くあったがその笑顔に何を話そうとしていたのか忘れてしまう。
今更、パジャマ姿の自分を恥ずかしく思い、私服に着替えておけば良かったと後悔しながら六原は月島に話しかけた。
「す、凄い登場の仕方だな」
ようやく出てきた言葉がワーの時と同じ事に自己嫌悪してしまう。
「カッコいいだろ」
右手に持った魔道書を胸に抱えると自慢そうに言う。以前と変わらない調子に六原は安心した。同時に突然の登場ですこし動転していたが落ち着いてくるのを感じた。
「元気そうで良かった」
「それは六原さんも同じだね。それとワーさんが持って行ってなかったから……」
月島は左手に持った紙袋を六原の目の前に持ってくる。受け取り中を覗くと高そうなお菓子の箱が詰め込まれていた。
「ありがとう。いやぁ、お見舞いってのは嬉しいですね」
それは良かったと月島は言う。
来てくれた事に六原は純粋に嬉しかった。そして、六原は内心迷っていた目の前の彼女にその後の話を聞いて良いのか。
もし、目の前の彼女にとってその事実を話すことが苦痛であるなら、聞かずにいたほうがいいのではないのか。
――所詮、今回も自分は脇役みたいなものでしたから。
自身が頑張ったところで予想した結末は何も変わらない、ただ、姉や友人にしか頼ることしか出来ない脇役だから。
だが、そんな心配も無駄に終わった。
「キミにその後の話をしに来たんだよ」
「――え」
月島自身から話を振ってきたのだったからだ。六原は月島の表情を見た。表情にはあまり変化のない月島であったが、嬉しそうな顔には見えず、どちらかと言えばどこか寂しそうに見えた。
その表情で六原の先程までの聞こうとしていた気が失せる。
「なぁ、やっぱり、別に無理して言う必要はないぞ」
やんわりと断る六原に月島は黙って首を横に振った。
「いや、助けてくれたキミには言っておきたい」
「……別に助けてないけどねぇ」
「いや、確かに六原さんはワタシを助けてくれたよ」
そんなわけはない。助けには来たが、結局何も出来ず。
「そうかい。じゃあ、聞こうか」
「その前に一つ言っておかないといけないか」
月島は微笑みを六原に向けた。
「助けてくれて、ありがとう」
透き通るようなその言葉に頭の中が一瞬で混乱した。
同時に耳のあたりが熱くなるのを感じた。
初めてだったのだ。
ヒーローになろうとして初めて誰かからお礼を言われた。
それは六原にとって今までの努力が初めて報われた結果を物語っていた。
――あれ、なんかめっちゃくちゃ嬉しいな。
なぜか胸の辺りがこそばゆく、月島の顔を直視することが出来ない。
何故だ?月島から顔を逸らしてしまう。
六原は冷静に自分自身を客観的に、慎重に、細かく、理論的に、判断した。
結果。出てきた結論は単純なもので、その理由に気付くと同時にある言いたい言葉が浮かび、六原に話せという衝動に駆りたてる。
「月島さん」
胸から湧き上がる衝動にあらがう理由は特になかった。
その後の話を聞きたいけど、後にしておこう。
どうせ、姉がうまく活躍しただけの話である。
きっとこれから、自分が気絶してからの話をする前に、六原は月島のほうに振り口を開いた。
「今度。デー、いや、遊びに行かないか」
「……はい?」
驚き、口を半開きにする月島が何故か可愛いと思えた。
ここまでご愛読ありがとうございました。
いろいろとこの物語は続かせていきたいところですが、ひとまずここでおしましです。
納得できない所もあるかもしれませんがこんな話もあるのかと思っていただければ幸いです。
一応、続きは書くつもりです。よろしければ次の章を読んでいただければ幸いです、
それではもう一度、ご愛読ありがとうございました。