表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脇役謳歌~できそこないヒーロー  作者: uda
*騎士とメイドの物語*
10/47

魔女の踊り場

*騎士とメイドの物語 06*


――足場が無いと言うのはこんなにも不安になるものなのかぁ。


 それが初めて箒で空に飛び上がった六原の感想であった。


 月島から最初に自転車でいうならば転ばないようする為の左右のバランス感覚を習い、後は軽いブレーキと基本的な操縦の仕方を教えてもらった後、さっそく箒に乗った六原はロケットのように垂直に地面から飛び上がった。


 飛び上がった勢いを端から見れば振り落とされてもおかしくないのだが、箒にしがみつく六原にはあまり激しい反動というものを感じていない。

 空を飛ぶのは初めてである六原だがここまで加速したのに反動が来ないことが不思議なことだということは分かっている。そして、箒に乗る事に対し予想外の事はコレだけではなった。


 月に向かって一直線に飛び上がっているのだが、風の頬を掠める冷たさも風圧も思った以上に六原には感じられなかった。聞いたとおりである。


 つい先ほどに渡され身につける事になったマントと帽子を思い出した。


 飛び上がる前に身に着けるのだよ。と言いながら月島から渡されたのは黒いマントと尖がった大きな帽子であった。持って来たナップザックの中に入っていたソレらは身に着ければ魔法使いを彷彿させる出で立ちにさせられる。


 ただし、纏ったマントと帽子は只の飾りではない。飛び上がった瞬間にどういう構造をしているか分からないが、一度だけ煌めくと六原の体を振り落とそうと押し寄せる風がただの心地よいそよ風に変えられる。


(ご主人様。高度確保完了です。飛行角度、垂直から滑空に変更してください)


 銀色の箒の先端から機械的な女性の声が聞こえる。箒の意志であるようなその声の正体は六原の飛行を補佐する箒内の使い魔であった。ただし、ワーのような人格万能型の使い魔ではなく無人格補助型と月島は言っていた。


 六原としてはよく分からなかったが深く聞いた所で分からないものなので使い魔にも色々種類があるのだなと思っておくことにした。


――やはり、ご主人様と言ってくれる様にして正解だったな。何故か気持ちが高ぶるよ。


 ご主人様という言葉を言われる度、六原は心なしか胸がこそばゆい感じであった。

 先ほど、月島によって言語と契約内容を変更し、仮登録のような形ではあったが六原がこの箒の所有者となっている。月島が言うにはこれによって空を飛ぶ六原の手助け、場合によっては口答の命令でさえも箒を使い自動で動いてくれるとの事である。


(ご主人様。飛行角度の変更をして下さい。)

「嗚呼、ごめん、ごめん。了解ですよっと」


 月島に教えられたことを思い出しながら六原は箒の後部、現在踏み込んでいる両足のペダルをゆっくりと戻す。車などでいうアクセルの部分であるペダルを戻すことによりと少しずつ速度が落ちる。

 同時に体重を箒の先端にかけ、垂直に飛び上がって箒の向きを地面と平行にするように横たえた。


(お見事です。)

「どうも」


 短いお礼の後にようやく一段落した六原はふと、後ろを振り返る。箒の後部、銀の枝が包まれた場所からは二つの光りが吐き出されていた。恐らくこの噴出で空を飛んでいるのだろう。


(ご主人様は初めて箒に乗るものだと聞いておりますので、当初の予定通りここからはスピード最低速を維持したまま簡単な平行運転とカーブとターンを教えていきます。)

「了解ですよぉ」


 まずは低速で空を飛びまわりましょう、ということでゆっくりとした速度で辺りを飛び回る六原。度々箒からの指摘を受けつつも難なくその場をループする。

 空に浮かぶといった感覚に少し慣れた安心感からかそこでようやく下を見てしまった。


 下の景色に目眩がしゾッとする、暗闇に塗りつぶされ、何も見えないまるで深い闇そのものであった。


 地上は遥か下にあり、自分たちが山に囲まれている場所にいたことが理解できたが、街灯もないこの場所での下の景色は暗く自分が先ほどまで立っていた場所や、月島の姿すらも確認できなかった。


――いやいや、怖くない怖くない。手の震えは気のせい気のせい。オレはやれば出来る子。


 手を離して下に落ちれば大変なことになると改めて飛ぶことに集中し、六原は慎重に箒の体重移動を行ないつつカーブする。


 箒の進行方向の指示を聞きつつ、ゆっくりとカーブし終えた六原の耳に少女の声が響いた。


「なかなか、上手いじゃないか」

「だろ。やれば出来る子ですか……ら」


 つい反射的に返事をして振り返る、六原は唖然とした。地面の無い空中に何故か月島が立っていた。


「えっ、飛べるんですか」

「まぁ、コレのお陰かな」


 そう言って魔術書の黒いノートを右手で弄ぶ月島は六原の横にいつしか浮かんでおり、六原と同じマントと帽子を身に纏っていた。


「飛んでいるわけじゃなくて浮かんでいるようなものだけどね」


 空に浮かぶ月島は飛行ではなく浮遊であった。

 足元には彼女の足場になるように円形の魔法陣が浮かんでいる。魔法陣は六原の後を追う月島の動きに合わせるように移動する。

 六原のように箒にしがみつくことなく、月島は只宙に浮かび歩いていた。


 優雅ですねぇ。六原はつい月島の動きに目を奪われる。


「あれ?」


 月島の姿を眺めていた六原は目の前の光景に一つの疑問が浮かび上がり月島に訪ねた。


「魔法で飛べるなら、どうして、こんな箒があるのかな」

「ワタシも昔はこの魔法を使えていなかったんだよ。それで、今使っている魔法が扱えるまでの代用と、もし魔力が尽きた際にこの箒によって逃走したりしないといけないから一応取っておいたのさ」

「色々大変だったんだなぁ」


 月島の苦労話の一部を聞き、素直に慰めの言葉を言ったが、やはり月島はどうでもいいようにそうだね。という言葉が返ってくるだけであった。


「それで、箒に乗ってみた感想はどうだい?」

「何か、バイクみたいですねぇ」


 バイクには乗った事は無いのだが、乗り方やバランスの取り方は自転車に近く、魔力を糧として自動で前に動く箒は六原としてはバイクと感じた。ちなみに空を飛ぶ前に箒には月島によってが魔力注ぎ込まれていたので魔力に関して何の知識も無い六原でもこの通り簡単に飛べることができる。と月島は説明してくれた。


――何と言うか誰にでも乗れるって事実は少しがっかりですねぇ。こう選ばれた人間が乗ることができるのだよーって感じが良かったんだけど。けど、そんな風に選別されるものだったらオレみたいな半端モノは無理だったかなぁ。


 乗れることに関しては正直嬉しいので、まぁこういうことはやぶ蛇なので言わないでおく。


「バイクね……確かに、実際箒のほうがこの魔法よりスピードも出るし小回りもきくから合っているといえばそうなのかもしれないね」

「なるほどね。ちなみにこっちのスピードはどのぐらいまで出るんですかね」


 今が最低速で感覚から察するに早足で歩いているぐらいのスピードである。なので最高のスピードは自転車ぐらいかなと六原は考えていたが、予想は外れた。


「大体この世界の車ぐらいは出ると思うよ」

「すげぇな」


――しかし、その速度で電柱にぶつかったりしたら一発で死ぬだろうな。いや今のうちに思いっきり飛ばしてみるのも一つの手かなぁ。


「先に言っておくけど初心者に乱暴な運転をしないように箒の使い魔にリミッターを掛けているから、スピードはあまり出ないよ」

「ですよねぇ」


 等と月島と話し、少しずつリラックスしていく六原は難なく森の上空をぐるりと回りながら一周した。


(では、コレより8の字型に五周して下さい。)


「了解。∞(無限)のループを五回ですね」

「……何故言い換えたのだい?」

「その方がカッコいいし、テンションが上がる!」


 右手でガッツポーズをしながら、六原は言われたとおり左右に体重をかけながら8の字型に曲がりくねる。

空中に浮かんでいる為、今どういう風な位置にいるのかキチンと∞型に回れているのかという不安はあったが、箒の指示の元最初はゆっくりと無事に回ることができた。そして、そこから徐々にスピードを上げていく。


「そうそう、そこで体重をゆっくりと入れ替えるんだよ」

「了解でーす」


 細かいところは月島に注意されたりはしたが概ね問題なく最後の一周を回る。


「ちなみにブレーキとかって無いの」

「一応あるよ。只緊急用のブレーキのようなものだから基本的には使わないほうがいい。詳しいやり方は箒の方に聴いてみれば分かるよ」


 月島の説明にすかさず、箒が語りかけてくる。


(ご主人様。只今月島様が言っているのは「魔陣壁」というシールド型の方向転換装置で、これは使用者の体にもかなりの負担がかかるのでよっぽどのことが無い限り教えません)


 そこまで言われると逆に気になるが。


「そうなのか。まぁ、病み上がりの内はやめた方がいいか。ちなみに負担ってどれぐらいかかるのかな」

「少なくとも足の骨にひびが入るよ」

「うわぁ、痛そうだなぁ」


 等と話しているうちに最後の一周も終わりを迎える。

 意外と簡単じゃないか。と余裕が生まれ始めた六原に箒は無事5週回ったことに対しての連絡をする。


(オーケーです。では次は捻りを加えた空中の一回転をしましょう。)

「あれぇ、何かハードルが上がったな」


 頭の中でジェットコースターのぐるりと縦に回る映像が思い出され、冷や汗が流れてくる。もし、回っていう最中に手を離しでもすれば、地面に真っ逆さまという想像が脳裏をかける。


 少し不安そうな顔をしていた六原の傍に月島は魔法陣を使い歩み寄るとその肩を叩いた。


「大丈夫だよ。何かあればワタシがたぶん何とかするから」

「『たぶん』じゃなくて『きっと』と言って欲しい」


「まぁ、そこは何とかするよ。さぁ、チョットカッコいいところをワタシに見せてくれないか」

「絶対にこの状況を面白がっていますよねぁ」


――しかし、……そう言われたら断るわけにも行かない。


 全く持って乗せられやすいなと自分でも理解しつつ六原は箒の説明を聞きながらアクセルを踏み込んだ。


「じゃあ、チョット格好付けてみましょうか」


 一気に上半身を箒から離し、今度は箒の先端がこちらに来るようにと引っ張り上げ軌道を上に修正する。最後に覚悟を決めて、足元のペダルを少し強く踏むと六原は大きく回る為に体に捻りを加えた。






「もう、無理っすよー」


 力の無い声と共に六原は地面に向かい倒れた。先ほど敷かれたレジャーシートの冷たい感触がマントを通して伝わった。草木の独特の香りもリラックスでき気分も落ち着ける。

 どうやら、マントと帽子も箒から降りれば先ほどまで発動していた防風、防寒の能力はなくなってしまうことらしい。


 嗚呼、このままだとマントにシワが残ってしまうと思い、六原は起き上がるとつけていた帽子とマントを外し、綺麗に畳むと傍に横たえた箒の近くに置いた。


「けど、何とかできました。捻りを咥えた一回転半」


 箒の柄を何度も上下左右に動かしながら、落ちないようにしっかりと握り締めていた為予想以上に腕が疲れたが、それでも六原は何とか数え切れない失敗の後、なんとか形なりにも成功したのであった。


 そして、明らかに疲労の見える六原の様子に休憩しようかと月島は提案した。

 真っ暗闇の中、月島の放った打ち上げ花火のような光の弾で下を大きく照らし、いきなり本番ではあったが箒の指示の元何とか着地することができた。


 その後、いつの間にか月島が用意したというこの広場にある唯一の建築物である山小屋のような建物から持って来たレジャーシートの上に倒れこんでいた。


「最初にしては上手かったよ」


 疲れ等は全く無くみられない月島は先ほどの箒の運転に感想をつけるとそのまま六原の隣に座り込んだ。


 やっぱ魔法っていうのは便利に見えるよなぁ。

 向こうは魔力と言うものをかなり消費したのかもしれないが、六原が見る限りどちらかというなら箒で空を飛ぶより、月島のように空を浮遊したほうが疲れていないように感じた。


――それにしても上手いかぁ。少し照れる。


 けどなぁ、と同時に思ったことを聞いてみた。


「マジか! やっぱり才能ある?」


 わざとらしい声に月島は苦笑いを浮かべる。


「……大体中の上ってところかな」

「そうですかぁ」


 それは六原の予想通りの回答であり、彼にとってはいつも通りの相手の反応であった。何をやっても中の上、人並みにはできる六原であったが、器用貧乏である為、何をやってもそれ以上に上手くならない。


――いっその事、こう、いきなり謎の力によって覚醒とかすれば便利なんだけどなぁ。


 等という六原の自己満足的な思いには気が付かない月島は上を向いていた。釣られて見ると少しだけ欠けた綺麗な月が空に浮かんでいた。

 箒に乗る前はまじまじと見ていなかったが、町で見る夜空とは一味違う、輝く夜空に六原はつい感嘆の声を上げてしまう。


「いい景色ですなぁー」


 そうだね、と月島は感想に嬉しそうに相槌を打った。


「うん、悪くないな、魔女には良い月だ。」


 月を見上げ嬉しそうに言う月島の言葉とは逆に六原は考えるように低くうなりながら頭を掻いた。


――だからさぁ、どうして、魔女と自慢げに言えるのな。一般的に魔女は忌み嫌われる存在なのだから、やめて欲しいですよ。


 まるで月島自身が嫌悪の対象のように言われているようで何故か六原は感に触った。


「……あのさぁ」


 六原は少し気になりを聞いてみた。


「どうして、そんなにノリノリで魔女だと言えるんだ」


 辰野や他の敵からもだと思うが魔女と言われているのに何故、嬉しそうに言えるのか。

 月島は少し考えた後、月を見上げたまま答えた。


「カッコいいじゃないか。魔女だぞ。ダーク系だぞ」

「いや、いまいち納得できないけど」


 もう少し、問いを投げかけようと思った六原であったがその前に月島に逆に問われた。


「逆に聞きくけどね、どうして、キミはヒーローに焦がれるんだい?」


 六原は何も考えずに、月島を見ると答えた。


「カッコいいじゃないか。ヒーローだぞ。英雄だぞ」

「つまり、そういうことだよ」

「そういうことかぁ」


 何となく話をはぐらかされたような気がした。しかし、まぁ、誰にだって好みの違いや、言いたくない事だってある。と六原は思いそれ以上深く聞くのをやめておいた。


「ねぇ、六原さん? もう一つ質問があるのだけど、いいかな」


 こちらを見ずに月島は問い掛ける。その表情は未だ頭に被る黒い三角帽の淵で良く見えなかった。

 疲れた腕を軽く揉みながら月島にどうぞと促す。少し、肌寒い風が吹き一呼吸置いた後、月島は問い掛ける。


「六原さんと出会ってから二日しか経っていないのだけど、どうして、そんなにヒーローになろうとするのだい」


 再び同じ問いに六原は言いよどむ。


「それは……」


 カッコいいからだ! と言う六原の不真面目な回答を口にする前に、月島は問いを重ねる。


「キミがヒーローに憧れて結果として情報収集が得意になったということは知っているよ。けど、キミは諦めた方が良かったのじゃないかな。だって、キミは只の普通の人なのだから」


――参ったな。あまり、こういう本音トークは苦手なのですがねぇ。


 上手くはぐらかそうにもここまで質問を投げかけられたのは初めてでありどうすれば納得してもらえるか分らない。


――まぁ、別に減るもんじゃないし、只チョットだけ本音で話すことが恥ずかしい。


 しかし、彼女の声は真剣だと感じ、言いくるめることは無理であるようだ。

 仕方ないよね。と六原は覚悟を決めて本音を語る。


「だってさぁー」


 頭の中で様々な昔の光景が蘇る。今まで見てきた景色や人物の思い出。何故覚えているのかと言う原因、ソレはたった一つの感情が震えていたから。


「悔しいじゃないか」


 ソレは只の嫉妬であった。多分呆れるだろうなと思いながらも、月島に語り続けた。


「ヒーローになりたいっていう夢を、身近でかなえた奴がいた」


 もし、普通に生きていたら、非日常的なことに関わることの無い生活を送っていたなら、ヒーローになりたいとはこの歳まで本気で思っていなかったことだろう。だが、タイミング悪いと言うのか六原がヒーローに憧れた頃には姉は既に英雄と呼ばれていた。

 同じ体質なのにどうしてオレは脇役のように巻き込まれて終わりなのだろうかと疑問に思うと同時に、身近にいる姉でもなれたのだから自分もなれるはずだと諦めきれないでいる。


「そしてなにより、こんなに身近に危険になった友人も救えない。それが嫌なんだ。だから、体が勝手に動いてしまう」


 

 いつも空周り。

 いつも役立たず。

 気が付いたら物語は終っている。

 

 未だ何も活躍したことの無いが、目の前で苦しむ知り合いがいれば手を差し伸べ、助けてやりたいとお人好しの六原は考えてしまうのだ。

 六原 恭介は脇役のような存在である。ちゃらんぽらんで真剣になるのが無意識的にカッコ悪いと思い。態度も何故かその場しのぎなことしかできない。

 だが、それでも人々を助けるヒーローになりたいという思いがあった。


「と、まぁ、そういう個人的な理由だよ。」


――実際、宿命とか運命というカッコいい理由ならどんなに良かったのか。この後はきっと「凄い自己中心的な理由だね。」なんてバカにされるのだろうな。


 だが、月島は何も言わなかった。

 静寂と夜風が六原の体を包む。

 やがて少しずつ不安になっていく六原に向かい、月島はゆっくりと口を開いた。


「……何ていうか、反応に困るね」

「デスヨネー」


 恥ずかしさが六原を襲い顔が熱くなっているのを感じる。

 気落ちする六原に続けて感想を月島は語る。その表情は穏やかな笑みで、


「けど、カッコいいじゃないか」

「……」


 数秒の沈黙の後に更に顔が熱くなる感覚が襲う。


「あ、ありがとうござます」


 何とか、口にできた言葉はお礼の言葉だけであった。

 頭の中ではミキサーで混ぜられたように乱れ、言葉が頭に浮かんでくるが口が動かない。何とか、小さくお礼だけを言ったときには照れている表情を隠すため少し俯いた。


「もしかして、照れているの?」

「い、いえ!!全然ですよぉ」


――このままではいかん、理由は分らんがイカンのです。


 一旦話題を変えなければと反射的に思い、慌てたように六原は話題を変える。

 照れ隠しというだけではなかった。六原はこのままだと言ってしまいそうであったからだ。

 何故ヒーローになろうとしたという理由を。


 だけど、それは言っては言いたくない

 その考えは自己中心的な考えだからである。自分でも分かっているどうしようもない理由を呑みこみながら、六原は別の言葉を口にした。


「そ、そういえば。月島はどうしてオレみたいなヤツに頼ったんだ?自分で言うのもなんだが、オレより適任な奴って一杯いるじゃないか」


 適任なヤツと言う言葉で出てくるのは姉なのだが六原は名前を出したくなかったのであえて伏せておくことにした。


 どのみち、明日辰野に話を聞くことにしても、どうして六波羅をなんかに月島が頼ったのかは彼女自身に聞かないと分らない。

 それに、月島に紹介した人物が誰なのか少し聞きたかった。


 もちろん、照れ隠しの為に適当に振った話題。だが、月島は真剣に答えてくれた。


「元々はワーが勧めて来てくれた話なんだよ。ワーが騎士のいる学園を調べていたときに偶然だけど君の事を知ったらしくてね。それで提案してきたのだよ、ワタシの通っている学園に力になってくれる人がいるってね。」


 口には出さないが何となく察した。


「そうなのか。しかし、ワーさんからは扱いは酷いほうだったが……いや、言わなくいい。理由は分った」


 今までの自分の行動から考えるに特に活動らしい行動をしていない六原はやはり想像以上に役に立たなかったのだろう。と思った。

 安易に想像できた内容に少し反省しなければといけないという六原に月島は言葉を続ける。


「後、君を選んだ理由を挙げるとすれば私が気になったのからだよ。自分の周りの環境に合わせようとも合わない人間。だけどそれでも逃げずに諦めない君がね」


 迷っていた。何にという疑問はあったがそれよりも六原は違う言葉に引かれた。


「えっ、気になるなんて。照れるじゃないかよ」

「……」


 本日何度目かの静寂だが空気の重さが一味違った。明らかに何か外したような冷たい空気が流れる。

月島は溜息を吐くと、顔を逸らした。


「……もう、バカだねぇ」

「バカとはなんですか」


 月島は持っていた魔術書を地面に置き地面に魔法陣を描く。


「さて、疲れも取れただろう。もう一飛びしてから、帰ろうじゃないか。」

「そうだね」


 立ち上がり、地面から微妙に体を浮かべ始めている月島の後を追うように箒に跨り片足でペダルに足をかける。

 一呼吸の間をおいて箒の先端部に拳ぐらいの大きさの魔法陣が現れる。その魔法陣の中心を親指で押さえた。

ガチャリと鍵が外れるような音がすると魔法陣は弾け跳び、機械的な女性の声が聞こえる。


(認証確認。こんばんは、ご主人様)


「はい、こんばんは」


(それでは発進します)


 足元に魔法陣が勝手に浮かび上がる。ふわりと一瞬だけ体が浮遊する。その間に両足をペダルに乗せるのを合図に箒にエンジンがかかり、眩い光りを吐きながら一気に上空に飛んだ。


「二度目にしては上手だよ」


 無事、平行に箒を傾け、滑空した姿に隣に並ぶように飛ぶ月島は賞賛した。


「ありがとうねぁ」

「お礼を言うのはワタシのほうだよ」


 近づき、箒を撫でる。


「この子も新しい主が出来てよかった」


 何のことを言っているのかすぐには分からなかったが、少しの間を置いて六原は意味を理解し、驚き声を上げた。


「え! くれるん?」


 急いで六原は月島を見ると、月島はゆっくりと首を縦に振った。


「魔力等は私が持ってきてくれれば入れておくから心配は要らないよ。それとも、いらなかったのかい」


 箒がまるで捨てられることを心配したようにびくりと震える。六原はなだめるように箒を撫でると、月島に首を大きく横に振ってみせた。

 良かったよ。と小さく月島は呟いた。


「私はあまり構って上げられなかったからね。だから、ありがとう」


(マスター、今までありがとうございました。)


 小さな声で箒が言う。マスターと呼ばれた少女、月島に届いたのか分からない言葉だったが、きっと届いたのだろうと六原は思った。


(では、ご主人様、張り切っていきましょう。まずは地面擦れ擦れのさかさま飛行なんていかがでしょうか。)


「だから、なんでそんな危険な飛び方しか教えないんだよ」






 それからある程度飛び、寒くなってきたところで打ち切り、オレ達は魔女の部屋に帰ることになった。飛びながら最後に彼女の笑顔に見とれてしまったことは胸の内にしまって置こうと思った。

 しかし、帰るとワーさんが恐らく鬼のような表情で待っていることはできれば忘れておきたいよねぇ。


 まぁ、ともかく初めての夜間飛行は楽しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ