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脇役人生

 子供の頃の思い出というのは、印象が強ければ意外と覚えているものだ。オレ、六原 恭介もどの当時の思い出は鮮明に覚えている。だが、ソレは遠足や、遊戯といった普通の思い出とは少しかけ離れていた。

 

 鮮明に残るものを挙げるとするなら、


 小学六年生、町を侵略しに来たという宇宙人の人質になった。

 中学一年生、夏休みに姉と行った旅行先で天狗に会い、少し危険な鬼ごっこをした。

 中学二年生、友人が陰謀に巻き込まれ、冤罪を着せられ全国指名手配された為の逃亡劇の片棒を担いだ。

 中学三年生、学園の裏山に封印された竜の卵を見つけたクラスメイトの育成と相談に乗った。


 といった具合だ。


……うん、まぁ、信じられないだろうな。


 普通なら目の前で「竜の卵拾ったことあるんだぜ」何ていう奴がいたら、そんな見え見えの嘘をつくヤツに近寄らないように警戒するだろう。


 まぁ、よくファンタジー小説で使われる「世界が滅んで数十年……」的な唐突の設定を飲み込むような感じで出来ればオレのこの出来事を理解してくれてほしい。

 そう。残念なことに先ほどまで語った出来事全て嘘ではない。

 証拠をもってこいと言われれば困るが、今度、自室に竜の抜け殻のカケラがあるので今度それでも見せようじゃないか。

 いや、只のゴミに見えるのかなぁ…


 とにかく、よくオレは自問自答する。

 

 非現実な存在。UFO、古代兵器、ドラゴン、未来人、地底人、妖怪、悪霊、天使、悪魔、異世界、天国、地獄、ミステリー、名探偵、怪盗、財宝、魔王、勇者、魔法、ロボット、パラレルワールド、超能力、神、異種族、ヒーロー戦隊、不老不死、呪い、モンスター……どこかのファンタジーな物語で出てくるであろう現実味のない存在。

 

 そんな非現実な事柄に一度や二度ならまだしも何度も巻き込まれてしまう自分は何なのだろう。


 疑問に対しての解答は、「運命」や「偶然」といった便利な言葉で片付けたくは無いのだが、いくら考えてみたところで現実味のある答えは浮かんばなかった。


 まぁ、考えたところで仕方ない。と小学校を卒業したときには既に自分の人生に諦めが付いていた、というより諦めるしかないよと腹を括った。


 中学に入り開き直ってみると、意外と心は軽くなり、今度は逆にオレの人生は別には不幸じゃないのではないか。というより、むしろ、テンションが上がる。と思い始めた。


 だって、こんな非日常な世界感が何度も味わえる。それだけでも、なんだろうワクワクするだろ。だから、こんな他人とは違った体質か、運命かよく分からないオレの人生に対して喜ぶことはあっても悔いることは無かった。

 ちなみに、オレのような人生を歩いているのは一人というわけではない。


 驚く事に、もう一人いる。


 名前は六原 睦月。オレの2つ上の姉である。


 大学一年となる彼女は今でもオレ以上に非現実な事柄、存在に巻き込まれている。姉も少し変わっていた。外見と言うより内面が変人であった。


 普通なら、数多く降りかかる非日常的な事に巻き込まれたりすること等面倒なので、どう回避していくか考えるはずだ。

 しかし、姉はそんな自分の人生に対して、ある時から巻き込まれた根本となる問題を自らの力で解決していった。

 

 例えば、異世界にいきなり呼び出され際には、その世界の魔王を倒してきたとか。

 例えば、世界で起きた異常気象の原因の一つの各地に散らばるオーパーツの回収をしたとか。

 例えば、町に出没し始めた河童という妖怪集団と和平を結んだとか。

 

 時には力で、話で、行動で姉は巻き込まれる問題を次から次に終らせ、煌びやかには活躍していった。

 そうして姉自身、いつしかヒーローと言われ始め、実際、本人も相当乗り気でそれを肯定し、大学生活の傍らバイトのような感じでヒーローを営んでいる。


 ちなみにどういう理屈かは分からないが姉に入ってくる収入は父の稼ぎより多く、素で父をへこませている。ガンバレ、父さん。

 

 さて、ここで先程の話について申し訳ないが一つ訂正したいことがある。

 オレの人生について悔いは無いと語った。

 確かにファンタジーな物語に巻き込まれるのは別に問題は無いのだが、欲を言うなら一点だけ納得できないものがある。


 きっかけは姉がヒーローとはやし立てられた頃であった。

 一つの思いがオレの中学生活の方向性を決定する。


 ヒーローになりたい。


 血を分けた姉がヒーローのような活躍をしている。ならば、同じ体質のオレだってヒーローのように活躍できないのかなと当時のオレはそんな安易なことを考えた。


 そんな夢物語のような考えを中学一年の頃に本気で思ったオレは努力した。運動、魅力、勉学、雑学等はもちろん、交友関係等にも気を使った。

 これで後は、いつも通り何かに巻き込まれさえすればオレは活躍するはずだと思っていた。


 しかし、結果は駄目だった。

 納得はいかないが、何をやっても駄目であった。

 

 例えば、異世界にいきなり呼び出され、その世界の魔王を倒した友人の身の回りの世話をしただけとか。

 例えば、世界に散らばるオーパーツの回収を傍で見学、荷物持ちしか出来なかったとか。

 例えば、町に出没し始めた河童という妖怪集団と和平を結ぶ交渉の際の人質にされたとか。

 

 どうして姉みたいにヒーローのような活躍をすることが出来ないのか。運が無かったと言えばそれまでだが、中学から三年間、月一というペースで色々と摩訶不思議な物語に巻き込まれたが一向に活躍できないでいた。

 一年で計三十六回チャンスがあったのにもかかわらず何一つとして上手くいかないのは納得がいかない。

 というより、友人がヒーローのような行動をして、何故か巻き込まれたオレが友人に花を添えるそんな脇役のような役回りしかやらせてもらえなかった。


 何故だ。中学三年になったオレは思った。


 普通ならここで諦めるのだろう。しかし、オレの考えは違った。


 結論から言おう、環境が悪い。


 今考えるとそんな事が理由でははなかったと思えるが、当時は本気でそう思っていた。


 なら、どうすればいいのか。


 もっと特殊な環境に行けばいい。


 そうすれば、もっとファンタジーな世界に触られるし、その分活躍できる機会があるはずなのだと。 

 この情報社会、インターネットを使えばある程度情報を知ることが出来る。

 後は、独自の情報網を使えば良い。様々な非日常の中での交流で生まれたこの情報網こそが、オレの中学三年間で唯一人より優れたと思うものであったのだ。


 その甲斐があってか中学三年、高校受験が控えた年。ついに、オレは見つけた。

 その学園は隣の県にある都市部から少し離れた町の山の上にあった。


 瑛集学園えいしゅうがくえん。この学園には2つ、ほかの高校ではあまり見ることのできない特徴があった。


 一つは校舎の量がおかしいということ。

 増改装を繰り返した為かこの学園は迷宮のように入り組んでいる場所がいくつもあり、普通に生活しているなら早々迷うことは無いが、その広さはいつしか大規模なレジャーランドに匹敵する広さを持っている。また、使われなくなった古びた校舎がなぜ取り壊されないかという謎は生徒達の間では一つの怪談となっているらしい。


 そして、もう一つの特徴というのはここに入学する生徒、担任等の殆どが、個性が強いことであった。


 いや、強いというか狂っている。


 学園の付近に住む人々の間では、一日一回爆発音が聞こえないと安心できないというコメントが多数ある。


 一度テレビ局が取材で学園に来たことがあったらしいが映像及び音声が数多く放送コードに引っ掛かった為、放送を取りやめになったという出来事があり、それ以来、周囲の情報関係者の間では取材は何があっても絶対に行かないという暗黙の了解が生またらしい。


 などといったおよそ信じられない瑛集学園の評判に当時のオレは感動した。


 奇想天外、阿鼻驚嘆という言葉にふさわしいこの学園ならば、オレは確実に活躍できる。

 後に考えればオチは見えていたはずであり、当時もなんとなく分かっていたが、それでも諦めずに努力し、意外と偏差値が高かったその学園にオレは入学することが出来た。


 それから万々歳、ハッピーエンドになれば良かったが世の中は厳しかった。


 一年が過ぎた。想像通り未だヒーローのような活躍は出来ないでいる。

 そして、又もや主役のような友人たちに花を添えるような脇役みたいな扱いとされているのは言うまでもないかもしれない。

 それでもオレは高校二年生にもなりながらヒーローを目指して努力している。

 

 だって、どうしようもないほど馬鹿な目標ではあるが、どうしようもないほど憧れているんだ。


……オレ今カッコいい発言言ったかな?

 

 さて、こんなどうしようもなく脇役であるオレが高校二年になりもう一ヶ月が過ぎた五月。

 一つのチャンスが起こった。

 しかし、残念ながらこの物語は結論だけ言うならオレは、六原恭介はその物語のヒーローにはなれなかった。

 

 主役のように、心も体も強くなく、運も実力もないオレのいつもの脇役のような物語。

 

 だが、オレにとってはその物語は今までのどの思い出より大切なものであった。


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