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清濁金剛!  作者: 楠原 日野
第二章 俺とこいつら、想いの強さと違い
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破文4 行かなきゃ……!

破文4・行かなきゃ……!



 完全に話が終わると、2人とも完全にだんまり。

 眉根を寄せているティーネの表情から見るに、何か不満というか、怒ってる。

 背中の後ろでも、ひしひしと怒りのオーラを感じる。




 ちょっとだけ、怖いかも。



「本当に、親って勝手だよね!」


「そうですわね、本当に……!



 ん、共感はしてもらえたか。

 そういえばこいつらも、親と何かあったっぽい雰囲気だったもんな。

 それはいつか、こいつらから話してくれるかもしれない。




 ま、さすがにすぐは無理だろうけど。



「結局ー、罪滅ぼしってことぉ?」



 罪滅ぼし。



「まさしくその通りかもしれない」


 しっくりくる感じだ。



「なるほど。だから菜緒さんは、色々な所であなたが許せないわけですわね」


「それだけの罪を犯したってことだもんな」


「そうじゃございませんわよ」



 違う? 何がどう違うのかよくわからない。



「どういう意味だよ、それ」








 だんまり、か。

 そんなに伝えにくい事なのかね。




「塩を送りたくありませんので、お答えいたしません」



 それこそどういう意味だよ。



「塩。塩かー……うん、そんな感じだよねー」



 え、この少々頭の中が残念そうな気がしてならないティーネにすら、わかるの?

 どうにも釈然としない。


 俺が悩んでいると、唐突にキッとティーネが睨み付けてくる。

 視線的にはゲネスにだ。



「それよりも、いつまで密着してるのかなかな!」


「あら、ご自分ではできないことが羨ましいのですか?」


 腕に力をこめ、背中に押しつけてくる。





 ピンチ再び!






「ティーネちゃんの目はごまかせないんだから! とっくに足が治ってるって、わかってるよ!」


 え、そうなの?

 それなら俺、もうおろしてもいいよね。

 体重は軽いくせして重いものを背中に押しつけられると、本当にヤバイ。

 ティーネを挑発する意味で押しつけてくるから、ティーネの言葉は事実なんだろう。

 現にちょっと見てみると、血の跡こそあれども綺麗なものだ。



「表面が塞がっただけですわよ。まだ痛みますわ」


 むう、そう言われてしまうと何とも言えんな。

 かと言って自己申告だと、なんかずっとこのまんまな気がする。



「なら、海岸に着くまでこのままってことで。表面がもう塞がったんなら、そんくらいの時にはもう完治してるだろ」


「まあしかたありませんわね」


 仕方ないんだ……渋々感が強すぎるが、まあ何も決まってないよりは遥かに良い。

 ティーネがザマミロみたいな顔して喜んでいた。

 そんなティーネに無事な足で応戦する様に振り回すが、まあ当たるはずもなし。




 つーか、大人しくしてくれ。






 そんなやり取りがちょっと続いたが、いきなり大人しくなったゲネス。

 ティーネが訝しみ、正面を向いた。多分ゲネスの見ている方向なのだろう。

 正面を向いたティーネまで大人しくというか、口を開け、ぽかんとする。



「わぁ……なにあれ」


 視線の先に広がるのは、海だ。

 と言っても、そのほとんどがごつごつとした氷に覆われていて、ほとんど氷の大地と呼んでもいいくらいだろう。



「流氷だ。もう来てたんだなぁ」


 北海道というか、この地域特有の現象。

 俺や菜緒のいたところも流氷がやってくる地域のため、珍しくは感じない。

 でもこいつらは違うのか。

 天界や魔界に海があるのかもわからんが、少なくとも久遠ヶ原学園周辺くらいしか知らないなら、まず初めて見る光景か。

 学園の奴らも、多くはそうだったりするだろうな。



「聞いた事はありますが――あんなに来るのですね」


「んー範囲的には、確かにあそこまで広がるんだが」


 俺の視線の先は、流氷の奥にある流氷山脈と呼ぶにはちょっとすごすぎるレベルの氷山に向いていた。



「ちょっとあの氷山は普通、ない」


 よく見ると、あの氷山の上だけ、黒くて重々しい雲が集まっている。

 どうやらあそこに、なんかいるってことだろう。



「菜緒達はあれの調査と、その原因の排除ってことだろうな」


 小野先生は山崎達なら海岸に居ると思うなんて言ってたし、そんなとこか。



「もっと近くで見よーっと!」


 アホ毛を楽しそうに揺り、駆け出す。

 ピューって擬音がぴったりだなとか思ってしまう。ちょっと和んだというか、微笑ましい。






「ほあぁぁぁぁっ」


 しきりに感嘆の声を上げ、忙しなく眼前目いっぱい広がる流氷を眺めていた。

 自分の足で歩き、ゲネスまでもがじっと流氷を見つめる。



「結構遠くまでありますわね」


「まあ数キロはあるだろうな」


 多分の感覚だけど、間違いではないだろう。

 そろそろと足で流氷を突っつくティーネを、ゲネスが当たり前のように突き飛ばす。

 驚いたティーネだったが、上手く流氷に乗ったまま振り返って睨み付けた。





 うん、怒っていいと思う。





 だが先に、感動が勝ったらしい。

 アホ毛をピーンと立たせ、足元を見る。



「乗れたー!」


「そうだろうさ。でも氷にもよるし、乗り方が悪けりゃ転覆する。危ないぞ」


「詳しいですわね」







 中学の時、ちょっと落ちた事があったり。

 すっげー冷たかったな、あの時は。





「ま、とにかく調子こくなってことだ。でもここまで来るとやはり異常レベルだがな。 これなら、全力疾走くらいできる気はするけどね」


 何となく氷山の方に目を向けた。





 ん?





 なんか人影がこっちに向かってくるような――



「あら、昨日廊下で絡んできたお2人ですわね」


 目を細め、触角がビビビとなんか反応してる。いや、受信?



「2人だけか」


 どう見ても人影は2つのみだ。








 てことは!






 身体が自然と動き、流氷の上を駆けていた。










 たいして進まぬうちに、光の粒子を纏ったダブルコウダと鉢合わせる。

 俺を見て驚いている。



「お前、なんでこんな所に……!」


「やかましい! 菜緒はどうした!」



 嫌な予感がする。いや、予感どころではない。もはやただの確認だ。



「や、山崎さんなら、1人残ってるかもしれない」


「かも?」


「予想外に手ごわくて、このままじゃ全滅だからってんで――」


「逃げてきたのか!」



 2号の胸倉を掴み、睨み付ける。

 追いついたティーネとゲネス、それにダブルコウダまで驚いているが、今はそんな余裕などない。


 1号も2号も怯えたように薄く笑いながら、首を横に振った。



「ち、違うよ。山崎さんが、自分が囮になってるうちに下が――」


「俺らはリーダーの言葉に従――」



 言葉を最後まで聞く事無く、全力で殴り飛ばす。





「菜緒!」



 今こうしている間にも菜緒の命が危ないと考えると、俺の足は躊躇することなく、氷山へと向かっていた。




 今の俺ではまだ足りないかもしれない。







 だがそれでも







 菜緒を護りたい。



 そのための強さだから――

挿絵(By みてみん)

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