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清濁金剛!  作者: 楠原 日野
第二章 俺とこいつら、想いの強さと違い
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破文1 現場到着――だから俺に話が回ってきたのか

破文1・現場到着――だから俺に話が回ってきたのか



 ゆっくり目を開けると白い地面が目に飛びこんでくる。




 ザクッ。









 久しぶりだな、この感触も――




 うっすらと積もった雪の中あたりがほんの少しだけ硬く、踏みしめるたびに足が少しだけ沈む。

 その雪の下も雪だが、何度も踏み固められカッチカチに凍っていた。

 吐く息の白さも、まるで違う。真っ白だ。



「多少場所は違えど、ひどく寒いのは一緒だな」


 周囲を見回すと、ついさっきまでいた学園とはまるで違う景色が広がっている。

 一面の雪景色。

 別に雪原とかそういうわけではない。

 ややさびれた感のある町中は、どこもかしこも白く染まっていた。きっと今朝あたりにでも軽く降ったのだろう。

 道路も歩道も、舗装など見えやしない。

屋根に積もった雪も、まだそれほどの量ではないせいで落ちる気配もなく、軒先には大の男よりも大きな氷柱がぶら下がっていたりする。





 俺にとって見慣れた光景だ。





 向こうは雪とかほとんどないし氷もたいしてないと聞いてはいたけど、実際向こうに行ってまざまざとこの風景が独特なのだと改めて理解したものだ。



 それにしても昨日、内容も聞かずにほとんど勢いで引き受けたものの――










「まさか現場が北海道とはね」


 小野先生は知ってただろうな。担任だし。

 むしろ北海道だからこそ、菜緒に頼もうとしていたのだろう。その次点として、俺にまわってきたという気がしなくもない。

 経緯がどうであれ、チャンスには違いないからありがたいけども。



「にしても便利なもんだな、転移装置ってやつはホントに」


 今回北海道に来るのは飛行機かなと思っていたが、あの学校、こんな便利なものを作ってたんだな。

 原理とかはよくはわからんが、とにかく座標さえ決めてしまえばそこまで一瞬で行けるってのは、かなりすごいモノだと思う。

 わずか数秒で今回の現場である学校の校門前にたどりつけるとか、一般的な常識ではありえない事だ。

 依頼に出るのはこれで2回目だが、前回は近場だったから徒歩だったんだよなぁ。



「便利だけど、ティーネちゃんはあんま使いたくないかなー……」


「私もご遠慮したいですわね……」


 アホ毛の垂れ下がった天使が、青い顔でよろけている。

 よく見ると、背筋こそピンと伸ばしているが悪魔の方も触角がしょんぼりしてて顔が青ざめている。



「どうしたんだ、お前ら」


「気持ちわーるーいー!」


 ぷんすかと擬音が出そうな天使の訴え。その直後に口を押える。

 おいおい、気持ち悪いとかいうなら、叫ぶなよ。



「頭痛もしますわね……」


 こめかみを押さえ、伏し目がちにかぶりを振る。

 その姿が少しだけ色っぽいと感じてしまったりするが、まあ俺も一応男子高生。

 思うくらいは仕方ないよな。








 なんでか菜緒の怒った顔が目に浮かぶけども。



「あれか、今の転移で酔ったとかか」


「酔ったって感覚がわかんないけど、あれのせいだようぅぅぅ」

「あのような感覚、初めてでしたしねぇ」


 転移装置に乗ったのは俺も初めてだが、別に問題はない。

 そもそも乗ったのは、ほんの一瞬みたいなもんだ。エレベーターの奇妙な浮遊感に似たものを感じて、目を開けたらもう着いていたんだし。

 たったあの一瞬で、そこまで堪えたのか。苦手な人は確かに苦手な感覚だろうけど、そこまで極端には弱いのは珍しいのでは?



「お前らの所に、エレベーターってないのか」


「なーに、それ」

「存じませんわね」


 だよな。

 考えてみればこいつら空飛べるはずだし、必要性がない。

 でもこれまでにも、こいつら以外の天使と悪魔だって使っているはず。使うたびにこの調子ならと、なにかしらの改善が施されてもいいはず。


 ……やっぱり、こいつらが珍しいだけだろうな。



「とにかくしばらくは、まともに動けそうにないと」


 アホ毛と触角があたかも頷くようにピコピコと動く。

 本当に便利な機能というか、もはや自由自在に動かせる体の一部なのか?



「それならとりあえず休んでろ。少し現場見てくるからさ」

 さすがに俺に全部任せろとかは言えないが、このくらいは大丈夫。

 たぶん。



「では敷地内くらいには入らせていただいきますが、しばし休憩させていただきますわね」


 ゆっくりと歩きだし、閉まっている校門に向かって歩を進め――するりと敷地内に入っていた。








「んん?」


 はて、今違和感が……








「ティーネちゃんも―……」


 そう言った天使も閉まっている校門を、あたかも門が開いてるかのごとく、ごく自然にするりと入っていった。

 柵に積もっている雪すら、そのまま。





 校門の柵を触ってみる。








 硬くて冷たい、普通の鉄製だ。









 あ。



「そうか、今のが透過能力ってやつか」


 天使や悪魔は任意で物質をすり抜ける事が出来る、と習ったっけ。









 でも確かそれって。



「学園に所属する天使や悪魔は、使ったらダメなんじゃなかったか?」


 柵の向こうで雪の上に直接へたりこむ天使のアホ毛と頭が、ゆらゆらしている。

 頭の揺れとアホ毛の揺れが連動していないあたりは、もはやさすがと言っておこう。






 それよりも。

 あんな薄着でというか、ほとんど生脚のくせして雪の上に直接へたり込むとか、なんかなぁ。

 寒さを感じないといっても、やはり違和感しか感じない。




 俺がそんな事を考えてるとも知らずに天使は首を傾け、アホ毛でクエスチョンマークを作り上げてこっちに目を向ける。



「そだっけー? なんか許されてた気がするなー」


「任務中などは許可を頂いてますわよ、お馬鹿さん」




 また余計な一言を……




 塀に背を預けている悪魔をジト目で見てしまうが、今回は天使も噛みつかない。

 そんな元気もないか。



「ま、それならいいか」


 刀を柵の隙間から放り投げ、ちょいとばかり高すぎる校門に手をかけてよじ登る。

 こちとら、透過なんて便利能力のない人間様だからなぁ。


 雪の上に足を降ろし刀を拾い上げると、顔は青いが天使に比べると余裕を感じさせる悪魔が口を開いた。



「貴方の武器は、小さくならないのですか?」


 へえ、珍しく俺の方に少し興味が沸いたか。しかもそれを聞いてきたのは悪魔が初めてだ。







 というかまあ、そんな質問してくるほど親しい奴もまだいない。

 俺からはっきり「友人」と呼べる奴は菜緒以外にまだ誰もいないし、それが問題あるともあまり感じてないからなぁ。


 知人位なら、少しはいるが。





 まあいいさ。まずは悪魔の疑問に答えるとしよう。





 目を閉じ、少しだけ集中――。




(収まれっ)




 俺の意思に連動し、刀は菜緒達が持っていたような小さな円筒状の物へと、一瞬にして変化する。



「小さくはできるのですね」


「まあね」



 念じて再び刀に戻すと、鞘を手に持ち、柄を肩に乗せてから悪魔に視線を向けた。



「ちょっとでも手に馴染ませたくてな」


「殊勝なことですわね……」



 そう言ったきり目を閉じて、会話終了。

 まあ別に会話したいというわけでもないが、短すぎるだろう……まあ、気分が悪いんだろうな。



「とにかく行ってくるか。休むのはいいんだが、いきなりこっちに目標が現れるとも限らないから気をつけろよ」


「言われるまでもないよーだ。情報の通りなら、ティーネちゃん1人でも片付いちゃうしねー」



 むう、大した自信だ。

 でもきっと事実なんだろうなぁ。

 小野先生もこいつらなら1人でもなんとかなると言ってたし、ダブルコウダとのひと悶着でも随分余裕だったし。

 ここらへんがまだデビューしたての人間と、こいつらの差か。



 間違いなく、この中では俺が一番弱いな。

 それはまあ仕方ないか。どうせ俺の経験はまだまだだ。

 気分のすぐれない天使と悪魔を置いて、強くなるための第一歩を踏み出した――





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