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清濁金剛!  作者: 楠原 日野
第一章 派手な奴らと、地味な理由の結成
2/14

序文2 あの日の出来事



2・あの時の出来事


 入学式が終わり、高校に入って初めてのホームルーム。

 生徒が化物とやりあうための教育機関として作らえたずいぶん風変わりな学校のわりに、ここまではごくごく普通だ。

 まずは自己紹介と言う流れも、もっともだと思いつつ自分の番で立ち上がる。



「柴野 透です。女性に優しくがモットーなんで、よろしくお願いします」


 いくつかの失笑が聞こえる――なんか変な事言ったか?


 ちょっとだけ釈然としないが着席し、順次自己紹介が進む。

 そして髪の一部をバレッタで留め肩ほどの長さで切りそろえた、よく知る後姿が席を立った。



山崎 菜緒(やまざきなお)。あまり可愛げがないですけど、よろしくお願いします」


 人の事は言えないが、菜緒は短い自己紹介で済ますとすぐに席についてしまう。



「あいかわらずだなぁ……」



「ちょっと、柴野君。今の子は知り合いか何かかい?」


 すぐ隣のヒョロッとした感じの男子に聞かれ、まあねと短く返す。この手の質問は久しぶりではあるけど、ままある事だ。



「彼女とか、そういうのかい」



「その類もよく聞かれるな……」



「なに?」


 と、口から漏れてたか。


「なんでもないさ――質問だけど、答えは『NO』だ。同じ中学校で少し家が近かったから、ちょっと仲がいいだけかな」



「じゃあさ――」



「彼氏とかはいない。作った事もないな」


 次に聞かれるであろう回答を前もって言っておくと、隣の男子は少しばかり口を開けて停止したのち、ありがとと短い礼を述べ、前の男子と何やら話し始める。



 目立たないようにしてるけど、やはり菜緒は目立つんだな。



 物静かで理知的な雰囲気ながらも目はパッチリしていて、活発そうな雰囲気も持ち合わせている。体型はそんなに気にしてはいなかったとは思うが、特に悪いわけではないし、声もよく澄んでいて、聞き取りやすい――まあ可愛いとは思うけどさ。


 そういえばなんだかんだで、誰とも浮いた話は聞かなかったなぁ。バレンタインとかイベントのたびに、渡そうかどうか悩んでるくらいは聞かされるけど。



 結局渡したのか、渡せずに終わったのかも知らないや。



 少しだけ昔を振り返っているうちに、いつの間にか自己紹介も終わり、学校としての本分と、化物退治の教育機関としての役割について説明していた。

 そこらへんは入学前にさんざん説明受けた事だし、いまさらなので聞き流していたが聞き流せない部分が。



 そう、チームを組んで動くと言う話だ。



「やはり菜緒と組むのがいいか……」


 チームについての説明を受け、ちろっと菜緒の席に目を向けると、ばっちり菜緒と目が合った。

 すぐに菜緒は視線を黒板に向けてしまったが、どうやら思った事は同じらしい。

 慣れないうちは4人以上でチームを組み、そして討伐の依頼にあたると聞かされては組みやすいというか、ある程度でも知っている人間同士で組んだ方が色々好都合だろうな。



 ただ問題は4人以上、か……俺と菜緒、互いに知っている人間はお互いくらいしかまだいない――はず。


 多少、他の生徒と挨拶くらいしたがまだそこまで親しくはなっていないし、菜緒もまだそんなものだろう。

 中学まで俺と菜緒は北海道の、しかもごく普通の学校に通っていた。

 親達とちょっとしたことがあって、ちょうど能力も開花したからと親元を離れ、2人してこっちの学校に行く事を決めた――まあここで菜緒と会うまで、菜緒もここに通うと決めていたなんて知らなかったんだが。





 ……菜緒は知ってたようだけど。





 知らなかった事を伝えると「へぇ……」と、それ以上は何も言わず表情も変えなかったが、怒ってたなぁ。

 付き合い長いから、それくらいはわかる――何に対して怒っているのかはイマイチはっきりとはわかんないが。



「ほんじゃまー、今からチャイムが鳴るまで軽く、この中で組む相手さがせや。チームに所属していないのなんて、ここにいるお前ら新入生のみだからなぁ」


 担任の小野先生がそう言ってからほんの少しの間、腰を上げる者はいなかった。

 だがこういう時も臆することなく真っ先に菜緒が立ち上がり、俺に顔を向けゆっくり机を縫うようにまっすぐ向かってくる。


 誰かが立ち上がると、連鎖して他の生徒達も動き出す――教室内は一気にざわつき始めた。



「透」


 俺の前にやや半身で立った菜緒。表情は変えていないけど、少しだけ大きな目が泳ぎ気味だ。

 これは少しだけ、照れてるな。



「チーム組むか、菜緒」


 言い出しにくそうだったから先制攻撃――目を丸くしたのち、やや半眼で口をとがらせる。



「チームなんて別に、いらないんだけどね」



「でもいるんだろ?」



「……そりゃあ、いるけどさ」



 なんでもまず「いらない」と言うのが、菜緒の口癖だ。最初はただの遠慮から始まった口癖なのに、いつの間にかまず最初に言うようになったっけな。

 世にいうツンとかと違うのは、それが必要かどうか関係なしに言う事、ではなく反射的に言ってしまうという点か。だからいまみたいに、すぐいると答えてくれるからわかりやすい。

 別の言い方をすれば、本当にいらない時はいらないと言い続けている時だと言う事だから、わりと見分け方はシンプルだったり。


 そっぽを向いたまま、俺の机を指でトントン叩いている。犬みたいな尻尾でもあれば振ってるんだろうなぁ。


 肘を立て顎を乗せ、口元をほんの少しだけ吊り上げていると「何笑ってるのさ」と、ますます口をとがらせる。



「いや、別に……それにしてもあと最低でも2人か」



「ねえ君達」


 そっぽを向いていた菜緒が声のした方――俺の横に顔を向けた。どうやら君達と言うのは俺らに向けたものらしい。

 顔を向けた方向に身体を捻ると、さっき会話したヒョロっとしたノッポな男子とワカメ頭の男子が俺を見ずまっすぐ菜緒を見ている――どうにも『達』はおまけで付けたって気配が。

 たしか自己紹介の時、コウダとコウダでダブルコウダです、字は違うけど同じ苗字ですから間違えないでくださいねなんて事を言っていた奴だった気がする。



「僕らも2人しか決まってないんだけど、よかったら組まないかな?」


 ま、このタイミングでならそういう話だろうな。

 菜緒に視線を向けると菜緒も俺に視線を向けていた。

 どうしたらいい、そんなところか。

 こいつらの下心は見え見えだけど、どうせ誰かと組まなければいけないし、誰と組んでも今の段階では、大差もないだろう。

 むしろ声をかけてきた分、ましかもしれんし。

 小さく頷くと、菜緒も小さく頷く。



「いいですよ、これからよろしくお願いします」



「よろしくね、山崎さん」


 やっぱり俺には言ってこないか。予想の範疇だけどね。

 しばらくダブルコウダの2人トークショーが続き、ちょっとだけ俺がうんざりし始めると、顔には出していないが菜緒も小さなため息をついていた。



「そろそろ決まったかー? 決まったんなら今日は帰ってもいいぞ。親睦でも深めるこった」



「チャイム鳴ってませんけど」



「気にスンナ」


 ……適当な先生だな。



「おーし、そんなら今言ったお前のいるチームと、すぐ横で机に座ってるやつのチーム残して、帰っていいぞー。お前らはここ残って時間まで掃除でもしてくれや」


 やべ、余計な事言ったか。ダブルコウダが初めて俺に目を向ける――睨みつけてるだけだけど。

 机に座ってる隣の女子まで睨んでくるし。


 さすがに菜緒だけは睨んでこないか。多分俺のセリフはそのまんま、菜緒の代弁だったと思うし。

 雑談でざわついていた教室内が、帰宅の準備でさらに騒がしくなる。



「こうしててもしかたないし、始めよっか」



「そうだね、山崎さん」



「うん動こうか。君達も諦めて、早く帰るために協力し合おうか」



 菜緒が動き出すとダブルコウダも動きだし、ワカメ頭が隣のぐちぐち文句たれている女子に声をかけてくれる。

 こういう時、菜緒のリーダーシップが頼もしいのと、軽い感じのダブルコウダがちょっとだけ羨ましい。




 まあだからといって、こうなりたいとかないが。特にダブルコウダのような感じにはなりたくはないなぁ。



「どうせ柴野君のせいだし、柴野君1人でやればいいんじゃない? 時間あるし、余裕でしょ」


 もっともかもしれないが、それじゃだめだろう。



「巻き込んだ形なのは悪いと思うけど、机に座ってたところを注意されたって所も忘れちゃいけないだろ」



「それはとばっちりっでしょ。しかもなんでチーム単位なのさ。うちら全然関係ないんだけど」


 机に座っていた女子の近くにいた女子まで、文句をたれ始める。その言葉に周囲の3人の女子も頷いていた。



「連帯責任、だろうさ。高校生にもなれば、それくらいは分かってもいいと思うんだけどな」



「……全然、優しくないね。柴野君て」



 それも久しぶりだな。まあ自己紹介のあれだけじゃ、わかる方がおかしいか。

 菜緒や中学時代の連中なら、もう俺の信条も分かってはいるんだけどね。



「優しいさ。明らかに間違っていると思ってるから、ちゃんと正そうとしているのは優しさだろ?

 ま、連帯責任がどう感じるかは人によるけど、少なくともこれからチームで動くなら必要な事だろうし。責任がもてないとかいうなら、チーム抜けろってな」



「透っ」


 菜緒に名前を呼ばれ、ハッと気づく。優しくないと言った女子が目に涙を溜めていた。

 きっとこういう言葉を言われ慣れてないんだろうな――それが幸せな事なのか、不幸なのかはわからないけど。



「……悪い、ちょっと言い過ぎた」


 結局その日のギスギスした空気は治す事が出来ず、初日だと言うのにそのチームとの関係は最悪なものになった。

 幸いなのは俺1人だけとの関係だと言う事だが、ただ困った事に女子の中でも大きなグループの女子だから、その女子に嫌われたと言う事は、クラスの女子のほとんどに悪いイメージを植え込まれるだろうな。


 それはまあいい――そういった女子とはあまり仲良くできないし――それよりも、他の男子にもなにやら変なイメージが伝わっている。




 何となく予測はつくけどね。


 今もすぐ横で訓練を共にしているダブルコウダを横目で見ると、脳天に衝撃が走る。



「透、よそ見しない」



「……悪い」


 槍の柄か……けっこうイテェんだな。



「おー、やってんな」


 珍しいな、訓練所に小野先生が顔出すなんて。



「そんなお前らに、討伐依頼が回って来たぞ」


 やっと、か。

 順々に巡っているとは言っていたが、もしかしてリーダーの名字順だったりしてな。



「回ってきたと言いますか、私達で最後ですよね」



「山崎、だからなぁ。リーダーの名字が」


 正解かよ。



 何はともあれ、初めての討伐依頼。

 依頼なだけあって、ちゃんとしかるべきところから俺達に報酬が与えられるはずだが初めての初心者向けだけあって、微々たる金額だったりする。

 そこは仕方ない。何よりもまず、経験だろうし。



「まあ小物だし、手ごろじゃねーのか? 見た目はそこらのワンコロと一緒だけど、一応侮るんじゃねーぞー」


 小野先生の説明はだいぶ適当だが、いくらか訓練した俺達は緊張しつつも多少の余裕を持って挑んだ。

 現場にたどり着き、獲物を見てワカメ頭が呟く。



「なんだ、本当にワンコロそのものじゃないか。これなら余裕だね」



「早く終わらせよう、山崎さん」


 ヒョロノッポといい、その油断もどうかとは思ったが、俺も確かに思わなくもない事だ。

 見た目は本当に、そこらへんに居るような雑種の野良犬。違いはと言うと、ちょっとばかり目が光り輝いているくらいか。

 犬達は俺らを見据え、牙を剥き出しウウウと低く唸り、敵意をむき出しにする――ただそれだけなのに、先ほどまでの余裕はどこへやら、ダブルコウダは青ざめて一歩だけ下がる。



「下がるな。普通の野良犬も一緒だけど、気圧されしたら一斉に来るぞ」


 俺や菜緒は北海道の田舎育ちなせいとでもいうか、野犬に襲われた経験はさすがにないものの野良犬やらに唸られた事はある。だからこれくらいではさすがにビビったりはしない。

 ただこの2人は東京育ちと言ってたから、こういうのも初めてなのかもしれない。



「2人とも、前に出れる?」


 菜緒の問いかけに、ダブルコウダは首を横に振り、武器を構えたままじりじりと後ろに下がっていく……まあ初めての事だし、しかたないか。

 むしろ菜緒の落ち着きようが凄いかもしれないな。俺だって少し緊張してるし、ちょっとなりとも怖いとは感じてるんだが、どう見ても菜緒は平然としている。



「仕方ないわ……透、数が減るまでこっちから攻めないで、来たのだけを退治しよ」



「わかった」


 飛びだしてきた1匹の顔めがけ菜緒が槍を突きだし、頭を下げてかわす犬型。その横から俺が縦に刀を振り下ろし、胴体を2つに分ける。

 地面を踏みしめ、振り下ろした刀をやや強引に跳ね上げ2匹目の追撃を阻止しようとした。





 ――が。





 犬型はかわさず、刃はやすやすと2匹目の腹を切り裂き、通りきらずに途中で止まってしまった。ずっしりと手に来る重み。

 切っ先が下がって、柄が手から滑り落ちる。




「やべぇ……!」




 案の定、3匹目が武器を落した俺に跳びかかってきた。

 喉だけでも守ろうと腕を突き出すが、それよりも早く俺の視界を背中が塞ぐ。



「ぐっ……」


 呻き声――俺のではない左肩に犬型が噛みつき牙を深々と突き立てられ、制服の肩口がドス黒く染まっていく。




 噛まれたのは――菜緒だ。




「菜緒!」


 菜緒の肩に噛みついている、犬型の鼻を力任せに殴りつけて怯ませる。


「ンなろっ!」


 菜緒の襟を引き寄せ、犬型の胴体を下から腕を回してつかんで、ぶん投げる様に菜緒から引っぺがした。



(菜緒は!?)



 ばっと後ろを振りむいて菜緒の肩を見ると、見た目の牙よりも大きい穴が無数に開いていて、犬の噛み痕とはまるで別物だ。

 予想以上にひどい……あいつら、口の中の構造が全然違うのか……。



「悪い、菜緒……」



「気にしないで。痛いけど、戦えないほどじゃないし――動きそのものは犬と変わんなさそうだし、前に出るわ」


 脂汗は浮かんでいるが、槍を構えた菜緒はその言葉を証明するかのように犬型の群れへと駆け出す。



「無理はするなよ!」


 刀を拾い上げ、菜緒の後を追いかけようとしたが……足がすくむ。

 今になって気付いたが、心臓がバクバクいってる。しかも呼吸もなんか乱れてる。



(今のでビビったてのか!)



 動かない自分の身体に怒りを覚えるが、それでも呼吸が整わないし足も動かない。

 正直言えば確かに、今のはかなり怖かった。死への恐怖ってほどではなかったが、怪我する事を恐れてしまったんだ。




 こんな状態になるのもしかたないはずだ――。






 だが、菜緒は?





 彼女は実際に肩を噛まれ、血を流して痛みに耐えつつも、前へと踏み出した。今も動けない俺達の代わりに、不慣れな戦闘で傷つきながらも1人で戦っている。


 なんであんなに動けるんだ……これじゃ、俺のいる意味がないじゃないか!


 ぎりッと歯を食いしばり、柄を握る手に力がこもる。



 だが、だめだ。



 俺が自分の身体と葛藤しているうちに、菜緒が最後の1匹を貫き、全てが終わっていた。




 犬型から引きぬいた槍を地面に突き立て両手でもたれかかると、目を閉じ、長いまつ毛を震わせながらも大きく息を吐きだす。

 制服は所々裂け血も滲んでいるし、肩の傷痕もまだ血が止まっておらず、制服のシミがまだ少しずつ大きくなっている。

 もっとも、それすら気にならないほど制服は血まみれだ。




 犬達の血と……菜緒の血で。






 それなのに俺は無傷――。





「……なんでそんなに動けるんだ?」


 聞くまいと思っていたのに、つい口から出てしまう。

 ゆっくりとした動作で俺に血の気が無い顔を向け、微笑んだ。



「透を護りたいと思ったから、かな」



「怪我するのとか、怖くないのかよ」


 ――途端、菜緒の顔が曇り、微笑んだままだが唇を噛みしめ、今にも泣きだしそうな雰囲気のまま、言葉を絞り出した。






「だって、私はいらない子みたいだから。いつ死んでもいいかなって」



「そんなことはない」



「そうならよかったんだけどね……」


 それ以上何も言わず、黙りこくってしまう。

 菜緒がその考えに至った理由はよく知っている。だからこそ俺も、それ以上下手な事が言えなかった。

 中途半端な優しさがどれほど残酷か、俺も菜緒も知っているから。

 帰り道、空気も読まないダブルコウダはまるで反応がないにもかかわらず菜緒を褒め称え続けていた。


 ……ほんの少しだがありがたい。

 小野先生へリーダーの菜緒が報告すると、無精髭をなでながらも俺達をまじまじと眺め、口を開いた。



「あー……まずはお疲れさん。よく無事だったなぁ」


 もう傷口が随分塞がったとはいえ、血まみれの菜緒を見てよく言えるな……。



「小物っつたけど、うっかり小物よりちょびっと上のランクに位置する奴らだったんだよねー。お前らに頼んだの」



「それほど手ごわくはありませんでしたけど」


 実質1人で片づけた菜緒が事もなげに言いのける。

 肩の傷がひどい以外、ほとんどが爪によるかすり傷だから、菜緒の言葉は間違いでもないかもしれない。



「言うねぇ……駆け出しのお前らじゃ、ビビッて体も動かずに殺されかねんレベルだったんだが、どうにもお前さんはそうでもなかったみたいだな。肩は結構ふけーけど」


 ビビッて動けなかった俺らがいるけどな。そこはこの先生も、御見通しっぽい。



「本当なら噛まれても傷なんかつかないのを回す予定だったけど、今後もお前さんらのとこだけは少し特別扱いすっかね」


 危険度が上がればそれだけ報酬も増えるし、色々な経験も一足飛びに積む事ができて美味しい話だが……。






 やはり、伝えよう。





「先生」



「んー?」



「一番ひどい肩の傷は俺を庇ってできたもので、俺は今回足を引っ張っただけで終わりました」



「ま、それは仕方ねーわ」


 仕方ないで済ます気にはなれない。今のままでは確実に、俺はただの邪魔者だ。



「だから俺がチームから抜けても、3人で問題ないと思うんです」



「透っ」


 すぐ横の菜緒がどんな表情で俺を見ているかはわからない。が、今は顔を合わせれない。



「しばらく俺1人、自主トレを続けようと思うんで――こいつらの3人チーム、認めてくれませんか」



「あーいいよ」


 ……予想外にあっさりだな。まあいい。

 弱い俺のせいで菜緒に負担を強いる結果、菜緒が怪我、もしくはそれ以上の事になったら、今の俺では責任がとれない。





 そう、今の俺では。





「ありがとうございます。では失礼しました」


 深々と頭を下げ、菜緒の顔を見ないように踵を返すと職員室を後にした。

 誰かが職員室から飛びだす――誰かがって事もないか。



「護らせてよ! 透ぅ!」


 すがりつく声。だがそれに応える事は、優しさじゃないんだ――。



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