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清濁金剛!  作者: 楠原 日野
第三章 天使も悪魔も人間も
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エピローグ(小野視点)

エピローグ(小野視点)


「おーおー。ずいぶんズタボロだな。特に柴野」


 先に逃げ帰ってきた香田と高田から、大体の事情は聞いちゃいた。

 山崎が囮になって残った事も、それを柴野が助けに行った事も。

 今回は見積もりに失敗したかと思って、半分以上こいつらの生還は諦めていたんだがまさか生きて帰ってくるとはねぇ。


「ええ、まあ……今後、治癒系も覚えようと思ったほどにはズタボロです」


 肩と脇腹が特にひどいが、それ以外の部分も随分制服が傷んでる。もう全身くまなくやられたって感じで、少し滑稽だなと言ったら怒るだろうねぇ。

 回復力も人間の常識を超えてるこいつらで今もこんな状態なら、戦闘中はもっとひどい傷だったに違いないか。


「ま、がんばったな。山崎チームで倒せなかったのは計算違いだが、お前らで倒せたってのも計算外だ」

「でしょうね。誰1人欠けても、倒せないギリギリの状況だったんですが」


 そう見えるな。山崎も制服が破け放題、昨日来たばかりの天使と悪魔も、涼しい顔しているが服の所々に裂け目がある。


「先生」


 山崎が前に出る。心なしかすっきりとしていて顔が明るいな。


「いまさらなんですけど、チーム解散したいんです。

 多分このまま欠点がある状態では今回みたいな事態を引き起こしかねないので、再編成をお願いします」


 優等生っぽいだけあって、わかっちゃいたのか今回でわかったんだかわからねえが、欠点に気付いたみてぇだな。

 防御型の2人でチャンスを作り、一撃必殺型の山崎でトドメ。必殺できなかったら実に脆い。


「いいんじゃね? 行く当てがあるんだろ」

「はい」


 山崎が横の柴野に顔を向けると、山崎の横顔を眺めていた柴野の目が少し大きく開かれる。

 どうやらどんな提案をするか、察したか。


「透のチームに入ろうと思います。もともと3人チームで1人足りないから構いませんよね?」


 涼しい顔していた後ろのティーネとゲネスが露骨なまでに嫌な顔をしているのに、気づいてないだろうなこいつら2人。

 うん、こいつは面白そうだねぇ。外から見る分には楽しそうなチームになりそうだし。

 一応、柴野には聞かなきゃならんか。


「俺としては構わねえよ。バランスもいいしな。

 で、どうよ、柴野。こいつらのリーダーやっていけるか?」


 口を大きく開き何かを言おうとして、でっかい溜め息をつきやがる。若いくせして今のうちから溜息つきまくってると、将来ハゲるぞ。

 と、生え際に思わず手を添えてる自分がもの悲しい。


「やっていけると思います」


 が、と続ける。


「菜緒が来るなら、もっと努力しなきゃいけないんでとっとと帰って怪我の治療に専念します」

「おう、それがいい。きっかり明日の授業には出てこいよ」


 酷かもしれないが、動ける以上は休みはそうそう認められない。学校の体裁を保っちゃいるが、ここはれっきとした機関だからな。

 何よりもこいつらが生き残る確率を、少しでも増やすための授業だ。



 それを、わかっているらしいな。


「でますよ。もっと努力しなきゃって言った矢先ですしね。それじゃ、失礼しました」


 相当疲れてはいるんだろう。とっとと柴野が行ってしまい、3人が残った。

 面白い事に3人とも、柴野をずっと目で追っている。

 こういう時の第3者は立場関係なしに、見てるだけでも面白いねぇ。


「どうだ、ティーネ・サムエストさんにゲネス・ベセルススさんよ。初めて人間と一緒に行動してみて」


 水と油だと思っていたこいつらが、今や2人そろって小さく咳払い。行動がそっくりすぎて面白い。


「思っていたよりも、人間は面白いかもしれませんね」

「透となら、やってけそーかなーって、ティーネちゃん思ったり」


 柴野の名前が出ると、途端に渋い顔をしてティーネに顔を近づける。


「透さんと、上手くやっていくのはこの私ですから。そこはお間違いなく」

「なにおー!」


 アホ毛と触角が交差し、カブトムシとクワガタ対決をちょっと思い浮かべちまってこっそり吹き出す。


「まあまあ2人とも。仲良くやりましょう」


 山崎がにっこり微笑んでるが、アルカイックスマイルというか、この2人が手のひらで踊っているのを見ている、そんな表情にも見えるから小娘と言えど女は怖いねぇ。


 その余裕を感じ取ったのか、2人して山崎を睨み付け詰め寄る。



「その強者の余裕、正直言ってむかつきますわ」

「ちょっとばかり自分が有利だからってー!」


 強者はわざとらしく心外だという表情を作り、口に手を当てながら横を向くと空いてる手で髪留めに触れる。


「透からもらった大事なプレゼント、無事でよかったわ」


 おーコエ。正面切っての牽制とは、思ってたよりも豪胆でいい度胸してるねぇ山崎。

 むしろ吹っ切れたって感じもするか。


「今ここで、砕いて差し上げましょうか……っ」

「ティーネちゃんも参戦しちゃうぞ!」

「職員室では静かにしなきゃダメじゃない。ねえ、小野先生」


 結構黒いのか、それともいまどきの女子高生はこれが普通なんだか。

 正論も交えて人を巻き込むのだけは勘弁してもらいたいねぇ。


 仕方なしに腰を上げ、職員室の戸を開ける。

 山崎はキョトンとしているが、他2人はあからさまにギクリと運命を察して表情をこわばらせた。


 席に戻り、煙草に火を点け、一息――サンダルを脱いで3人の尻を押し出すように蹴りつけ職員室から追い出す。


「今のセクハラにならないんですか!?」

「蹴りはおやめなさい!」

「暴力教師ー!」


「聞く耳持つかっつーの」


 口々に文句を言ってくるが、かまわず職員室の戸を閉め煙草をゆっくりと味わう。

 廊下ではまだ何か言ってるが、まあ聞こえないと言う事にして。


 煙草を口から離し、ゆっくり長く、煙を吐きだす。

 宙の決して固定した形にはならない煙を見ていると、あいつらの顔が思い浮かぶ。



「この先どうなるか、楽しみだねぇ」


 人類の命運がかかっている、そんなのはあいつらには関係ない。

 ただひたすら、信念を持って成長していく様は、きっと人類の未来につながるだろう。


「なんてな」


 煙草を握りつぶし、まだ聞こえる廊下の喧騒に耳を傾る。




 ……今をとにかく楽しんでくれや、学生諸君。

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