第二話 予想外の攻撃
熾音視点ですっ
穂月は案外普通の青年だった。
ご飯も食べるし、冗談もいう。
そして、何度も彼が元居た世界の話を語ってくれた。
日本という国の話をーー
百歳まで生きる人がいるというのは本当に驚いた。
魔族なら時折いるけれど人間の平均寿命は50歳に届かない。
「熾音!これは?」
穂月は書庫を読み漁っていることが多い。
勉強は苦手だったんだけどね頭が日本にいる時よりも良くなってるんだ……ちぃとだよな。
穂月がつぶやくように言った最後の言葉はこの世界に存在しない。
穂月は、書庫に案内してから一日に数十冊のスピードで本を読んでいた。おそらく、寝る間も惜しんで。
穂月は勇者で強いけど、人間だ。
穂月が無理しているのをみると不安になる。
穂月のめくっている本を覗き見ると、古代文明の書だった。
500年以上前、魔族と人間は同じ地の共存していた。
魔族は力を、人間は技術を持ち協力しあっていたため、今よりも生活レベルが高かったのだ。
その記憶は代々受け継がれてきた魔王の記憶のなかでも御伽噺みたいなとても優しい記憶だった。
「書いてあるとおりなの。昔は人間と共存できていた」
驚いている穂月が急に後ろの窓を見た。
遠くに人間の人影が見える。
数十人の人がいて、剣や槍を持っている。
「また、お客様みたい」
「そうだな」
「……殺さないで」
「あぁ」
「傷つけないで……」
「大丈夫だよ、離れてて」
いくら穂月が強くても、人間に怪我させないように戦うと穂月が不利になってしまう。
即答してくれる穂月は優しい。
穂月は私と穂月の間に結界を張ってしまった。
こちらの術だけが届く特殊な結界を。
向こう側から私を傷つけることは出来ない。
窓からぞろぞろと侵入してきた人間達は剣を振りかざす。
穂月は前に出て右へ左へと交わしながら人間を引きつけていた。
私は急いで術を編んでいた。
攻撃系の術ならすぐに編めるけれど、今使いたい術は編むのに多少の時間がかかる。
指から出しているマナの糸を使って複雑な花の形に作っていた。
魔力の元であるマナは魔族も人間も持っている。
……マナが異常に多かった人間の一族が大昔、魔族になったのだ。
魔族と人間はマナの量しか変わらない。
マナの花を作り出すと花びらにして人間の上から降らせた。
体力を回復する薬を混ぜた眠り薬だ。
次々と絨毯の上に人が倒れこんで行く。
その中で数人倒れない人間がいた。
違う、よくみると魔族だった。
人間の剣を手にして異常なスピードで穂月に向かって行く。
マナの花びらは人間用の眠り薬など効かない魔族にとっては、戦力増強の薬になってしまう。
それも魔王である私の術。
「穂月……っ!」
最初の一人は間一髪で避けた。
2人目が攻撃しようと迫っている時三人目が穂月の後ろに回り込んだ。
結界があって近づけない。
穂月のわき腹に赤い血が滲んだ。
結界はくずれた。
「穂月っ!」
感情が高まっていく。
穂月が守ってくれている人間をたとえ魔族であろうとも殺してはいけない。
殺したくない。
穂月に駆け寄ると魔族が剣を私の首筋を狙って振り下ろす。
穂月の剣それを止めた。
よかった。穂月の傷は致命傷ではないみたい。少し冷静になれた。
「逃げよう」
小声で言って穂月の手を引いてかけ出す。
走り回ってまいた後、空き部屋に入ると何重にも結界をかけた。
ちょうどベットがあったので穂月を寝かす。
治癒魔法は治りを早くしてくれるだけで瞬間的に怪我が治るものじゃない。
「大丈夫」
とか笑おうとする穂月に睡眠魔法をかけた。