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Two worlds~二つの魂~  作者: さくらめ
第3章 ~特別~
8/12

3-1 ~異常~

 眩しいほどの光の中で、咲き誇る花畑の中で、ゆっくりと目を閉じる。すると、次の瞬間には怖くて目を開けられなくなる。それを何度も繰り返すうちに、世界は消えたりしないと考えられるようになる。

 目の前に居る誰かが、消えて無くなることもない。そう思って目を開けた瞬間に、自分の体が宙に浮かんでいく感覚があって、逆に周囲が低く沈んでいくような錯覚。目の前にいる誰かが、悲しそうに泣いていた。手を伸ばして、泣いていたんだ。

 これは夢だ。気持ちの悪い夢だ。起きれば、君は確かに居るはずなんだ。あれは悪い夢に違いない。あんなことが起きるはずがない。

 自分が伸ばした手が、何かに叩き落とされて、見れば、目の前に居る誰かが、笑っていた。これは、夢だ。怖い夢だ。


「………」


 もう一度目を瞑れば、再び訪れる暗闇の世界。この闇が怖いんじゃない。その後に訪れる出来事が怖い。

 幸せはすぐに壊れるから嫌い。でも、楽しいから、無くならないでほしい。


「………」


 名前を呼んでも、返事は無い。どうして、居なくなってしまうの?

 夢から覚めても、目を開けない。現実になるのが怖くて、遠くから呼びかけることしかできない。

 居なくならないでほしいから、誰かが居なくなろうとするのを疎ましく思う。誰かも同じような思いをしてるんじゃないかな。

 手を伸ばしても届かない場所に、その誰かが居る。


「………、ごめんね」





 冷えた空気がダルクの頬を撫でる。松明の光だけが、眠り続けるダルクを照らし続ける。

 ダルクの意識が戻る頃には、炎の祠での一件から数十分が経過していた。


(……ここは何処だ? かなり暗いな……地下か?)


 窓が一つも存在せず、一定の間隔で松明が設置されている。部屋には本棚がたくさんあり、どこまで続いているのかは分からない。

 ここに留まるべきか、移動するべきか……ここに連れてきたのはレティオで間違いないだろう。どうしてこんなことになったのか。

 理由はダルクも分かっていた。炎の祠に関すること以外には考えられない。咎めるつもりなのか、調査するつもりなのか……どちらでも構わないと思っているダルクは本棚に目を通し始めた。

 決して現実逃避などではない。ここが何かの施設だと言うのなら、まず間違いなくレティオの研究施設か何かだろう。炎の祠の文献でも調べているのか。

 棚の中には古そうな本が詰まっている。レティオの家にあった本は読めそうにもなかったが、目の前にある本は何故か読める。背表紙に書かれた文字が、分からないはずなのに読めるのだ。

 王族の歴史が纏められた本から治療に関する本……多岐にわたる種類の書物が所狭しと並んでいる。その一つ一つが分厚く、とても読む気にはなれない。


(どうして突然、読めるようになったのだろう……何かあったと言えば、フィレントだが…………)


 フィレントは急に消えてしまった。まだ祠に居るのかもしれない。


『呼んだ?』


 突然に聞こえた声に、周囲を見回すがどこにもいない。気のせいとも思えないので、精霊というからには、姿を見えなくすることもできるのだろう。


(フィレントなのか? 突然消えたのはどうしてだ?)


 ダルクは声に出さずに問いかける。フィレントは、祠に居た時とは違う雰囲気を纏って話し始めた。


『えっとな、触ったら無理やり契約させられた、みたいな? その影響で、お前の精神の中に一時的に閉じ込められちゃった、って所かな?』


 精神の中ということは、数日前までダルクが居た場所だろう。精神世界に無理やり閉じ込められるのも、ダルクは経験済みだった。


(精神の中だと? そこにもう一人居なかったか?)


 陵のことを尋ねてみるが、返って来るのは曖昧な答えだけだ。


『ああ? 居たような、居ないような? 俺だって自由に動き回れるわけじゃねぇんだぞ。お前が呼ぶまでは返事も出来ねぇし』


 精霊なのだからといって、ダルクよりも自由に動けまわれるようなことは無いようだ。むしろ、ダルクの方が活動出来ていた。


(そうなのか? 祠に封印されるくらいには強力だったのだろう?)


 封印されるということは、それなりに人々の脅威だったということだろう。何をしたのかは知らないが、迷惑がかからなければそれでいい。


『……なんで封印されたと思う?』


 わざとらしく聞いてくるのにイライラしながら、ダルクは適当に返事をする。その一方で、本棚の端から端までを調べていく。


(危険だったからだろうか。そこまで危険には思えないのだがな。それで答えは?)


『教えな~い。ほら、怒るなよ。俺も覚えてないんだってー……こっちは寝起きなんだぞ、頭がぼんやりしてんだ』


 何年前から封印されているのか分からないが、伝説になっているくらいだ。それなりに厳重に封印されていただろうし、思い出せなくなるのも無理はない。もしかしたら、記憶の方は石の方に封印されていたのではないか。


(俺の頭に流れ込んで来たのは、お前の記憶で合っているか?)


 あの石を触った途端に流れてきた記憶。あれがフィレントのものだとすれば、四大精霊が記憶に繋がるという可能性は低まる。


『ん? あれ? お前の方に行っちゃった? まぁ、契約者の精神に寄生してるようなもんだから、別に普通か……』


 フィレントにも分からないようだったが、ありえないことでは無い、と言って黙り込んでしまった。

 ダルクは数個目の棚の確認を終えて、休憩もかねて契約について聞いてみることにした。


(寄生しているとはどういうことだ? 契約についても教えろ)


 するとフィレントはより黙ってしまった。

 教えてはいけないのだろうか……と不安に思いながらも、ダルクも黙って返事を待つ。


『難しいこと聞くんじゃねぇよ! 寄生って言うのはー、あれだ……契約者の精神世界に住ませてもらう代わりに、強い力を授けるっていう感じの!』


 精霊が精神世界に住むことにメリットはあるのだろうか。現実世界よりも住み心地が良いのかもしれない。


(なるほど……その強い力というのは?)


『お前、なんでそんなに知らないんだ? 俺は教えるの苦手なんだよ! 俺は戦闘担当だったんだぜ? なんなら、お前の前に立ちふさがる敵をブッ飛ばして……』


 敵が立ちふさがるかどうかは分からないが、その時はフィレントが何とかしてくれそうだ。


(戦闘しか出来ないのか?)


 確認のつもりで言ったダルクだが、バカにされたと思ったのか、フィレントは怒ったように叫んだ。


『悪かったな! でもよぉ、炎は大事だぜ? かなり応用が利くからな?』


 偉そうなことを言っているが、そんなことは誰にでも分かる。逆に炎が使えなければ、不便なことこの上ない。


(ああ、暗い所では電気の代わりになるな。この世界なら調理をする時にも使えそうだし、野宿の時の焚火にも便利だな)


 言おうとした事を取られたのか、再び静かになったフィレントが電気という言葉に反応した。


『は? 電気? この世界には無いだろ? 俺だって聞いたことぐらいしか……』


(誰から聞いたんだ? この世界には無いのだろう?)


 俺以外の神隠し被害者にでも会ったのだろうか。それとも、精霊には知られている異世界への移動法があるのだろうか。


『覚えてねぇけど……たぶん神』


 予想の斜め上を行く回答にダルクは溜息を吐く。流石に、神となるとどうしようもない。フィレントを通じてなら神とやらにも会えるのだろうか。


(神、か……神なら、色んな世界を行き来できるのだろうか)


 人間が同じようなことをしようとしたら、とんでもないことになりそうだが。フィレントはダルクが別世界から来たことを把握したようで、真剣に考えてくれているようだ。


『そうだな……世界への干渉は原則禁止なんだけどな、その時は緊急事態ってことで地上に来てたんだよ。なんだったかなぁ……』


 そうなると、神を通じて地球に帰ることは不可能なようだ。肩を落としたダルクが、呆れたように呟いた。


(それが封印された理由だったりしないのか?)


 本棚の確認を再開していると、歴史書のスペースに辿り着いた。ここで何かが分かったりはしないだろうか。

 ダルクは慎重にタイトルを読んでいく。フィレントの封印に関する本……四大精霊の伝説について書かれた本を見つけようとするが、どれも女王の凶行を批判的に見るものばかりだ。


『そうなんだよ! 多分だけど、その神に封印されたんだよ!! 普通の人間が俺に敵うはず無いもんなぁ』


 ダルクは流れ込んで来た記憶を確認してみた。何かに追われている記憶だった。

 その何かが神だったのかもしれない。


(……思い出せないなら、今は置いておこう。契約について注意すべきことはあるのだろうか?)


 起こってしまってから言われても仕方の無いことだからな……ダルクの問いは、多くの出来事を短期間で経験したダルクにとっては当然のものだったが、フィレントは答えようとしない。

 答えにくそうな雰囲気が伝わるだけに、何かとんでもないデメリットがあるのかもしれない。


『……一つ謝りたいことがあるんですけどー』


(なんだ? 早く言え)


『封印されてるような精霊は、色んな意味でたちが悪いんだよ。もちろん悪さするような奴も居るんだけど、俺の場合は燃費が悪いというか、なんというか……下手に契約すると、精神力を奪いすぎて相手が死ぬ。契約した瞬間に……な』


 契約した瞬間に死ななかったら大丈夫なのか。ダルクは妙な所で安心していた。フィレントが力を使いすぎれば酷い目に遭うだろう、と推測したが、使わせなければ大丈夫だと楽観視している。

 フィレントは祠でも、ダルクの魂が人なのか精霊なのか……とにかく分かりにくいと言っていた。


(どうして俺は死なないのか分かるか? 祠で会った時も変なことを言っていただろう?)


 冷静なダルクとは逆に、フィレントの方は興奮気味にまくしたてる。これが伝説にもなっている精霊なのか、と思うと、ダルクはこの世界の適当さを憐れむことしかできなかった。


『お前の精神力がヤバいことしか分かんねぇよ! お前ほんとに何なの? 触ったら強制契約だし、精神世界が想像以上に真っ暗だし!』


 自分にも分からないことで八つ当たりされても困る。そんなに不可解なことなのだろうか。むしろ真っ暗じゃない精神世界があるのだろうか。

 ダルクは普通とはずれた所に居る存在なのかもしれない。


(あれが普通ではないのか?)


『あれ? 精神世界に入ったことあんのか? そもそも入れんのか? 記憶が少ししか戻ってないから分かんねぇけど、精神世界ってのは、その人の本質を表すからな。それぞれ違う世界が広がってるのさ……もしかしてみんな真っ暗?』


 それはダルクの本質が黒、もしくは闇のようなものを暗示しているということだろうか。


(俺に聞くな……それに、俺にとっても、この体は借り物だ)


 ダルクとしては、早く持ち主というか本体に返したい所なのだが、本体が行方不明な上に、さらに厄介なことに巻き込まれてしまっている。

 ここで戻してしまってもいいものか……そんな葛藤がダルクの中にある。


『借り物? そういえば、さっきも誰か居なかったか聞いてたな。本体は引きこもり中?』


 空気を読まない……というよりも、記憶や感情を読めないフィレントはぐいぐいと触れてほしくないことを問い詰めてくる。

 よくよく考えてみれば、他人に記憶や感情を読まれるのも気持ち悪いことだが、12年にも及ぶ生活で感覚が麻痺してしまったダルクは、いっそのこと読んで黙ってくれと思ってしまう。


(二重人格もどきだ……この話は後でいいだろう。それよりも、お前が俺について分かることを正確に、全て言え)


 はぐらかされてしまったが、魂がどうのという答えは聞いていない。


『かなり冷静だな。普通ならパニックだぜ? 封印されている精霊には近寄るな! これが人として生きるための第一歩だ』


 それは間接的に、ダルクが人ではないとでも言っているのだろうか。それとも、契約した瞬間に変わってしまったとでも言いたいのだろうか。

 少なくとも、精霊が寄生した人間というものを人間ではない、というのもおかしくないような気がする。


(誤魔化すな……何か知っているだろう?)


『ほんと何者だよ、お前……ハッキリ言うぜ? 俺を養っても余るほどの容量持ってる人間なんて奇跡だ。この分だと、俺の力も使い放題じゃないか? お前は天才、いや神様に愛された存在、いやいや、神様が自ら人間世界に降りてきなさったに違いない。崇めさせてくださ~い……ってな?』


 きっと、他の人に気付かれるとそうなるのだろうな、という見本を見せて、フィレントは満足げに鼻で笑った。


(茶番はやめろ……とにかく、俺は人じゃないかもしれないんだな? だが、精霊でも神でも無い。ある意味、中途半端な存在らしいな……)


『あれ? あんまり驚いてねぇ……気付いてた?』


 つまらない、とでも言いたげなフィレントの言葉が響いた。真面目にやってもらいたいものだ。


(……俺はあくまでも人間だと思っている。だが、神隠しで異世界に飛ばされて、変な頭痛に襲われて、変な声まで聞こえ出して、さらにお前と契約までしたんだ。俺の意識のある限りだと1日で起こったようなものだ……2日間は眠り続けていたらしいがな)


『それだけあれば耐性も付くってか? かなりハードな生活だな? やっぱり、それで正気保ってるのは変だって!!』


 そのハードな生活に耐えるために生み出されたのかもしれないダルクだ。本体の陵さえ無事なら、どうとでもなるのだろう。


(12年前には記憶喪失だ……そこからは何も無かったんだ)


 そのまま何も起こらなければ良かったのに……そうすれば、陵も居なくなったりしなかったのに。

 少し落ち込んだようなダルクの様子に気付いているのかどうなのか、フィレントは楽しそうに言葉を紡いでいく。


『様子見されてたって所かな? やっぱり神に愛されてんだろ。干渉されてるんだって!』


(神がそんなに暇だったとは思わなかった)


 もっと他にするべきことがありそうなものだが。たとえば、異世界に飛ばされる現象を無くしたり、元通りに戻したりするのも、やらなければいけないことではないのか。

 フィレントの言葉を正しいとすると、神隠しは狙って起こされていたことになってしまう。


『そんなことも無いんだけどなぁ……天界は天界で人間の世界みたいになってるし、神様も本来は人間だしな。違うのは寿命と性能だけか』


 寿命は人より長く、より優れた術を使える、といったところか。人間の考え方でいくと、神が寿命で死ぬ、とは思ってもみなかっただろう。

 次の本棚に移動しようとしたダルクが、ふと、近くに状態が異なる本が並んでいるのに気付いた。


「……ここから新しい本が並んでいるな…………2000年前の悲劇、2000年の歴史、2000年前の裏側……」


 これだけ2000年前を押されると、多少は興味を持ってしまうことも仕方ないだろう。


『似たような本ばっかりだなー……あ、この本なんか、俺のこと書かれてそうじゃね?』


 フィレントのことを調べようとしていたダルクは、すぐに本を引き出す。


「祠の伝承? これも2000年前か……女王の暴虐と時期を同じくして現れた四体の精霊…………扱える人間の死をもって封印……お前のことか?」


 2000年前にも、ダルクと同じような人物が居たようだ。


『うーん……微妙なとこ。俺、2000年も寝てたのか』


「長かったな……お前、実体化は出来ないのか?」


 祠の時みたいに……という前に、目の前が赤く染まる。空中に現れた炎の中から、あの時と同じような容姿の男が飛び出してきた。


『できるぜ』


 その表情が少し鬱陶しいようにも思う。


「しばらく実体化していろ……独り言を言っているみたいで気持ち悪いからな」


『それは気にするの!? 良いんだけどさ、死んでもしらないぜ』


「大丈夫そうだ。特になんともない。むしろ契約してから頭痛が消えた」


 ダルクを脅すつもりだったフィレントだったが、力を使い放題だと言ってしまっていた事と、契約してからの体調の回復に後押しされたダルクには通じなかった。


『……もう何も言わねぇ…………ちょっと向こうの方行ってくる……呼べばすぐに分かるからな』


 拗ねたように、本棚をすり抜けて遠くに飛んで行ってしまった。


「ああ、分かった。ついでに部屋の外も見てきてくれ」


『気が向いたらなー』


(さっそく外に行ったか……戦闘担当と行っていたから、あまり頭を使うようなことは向いていないようだな)


 戦闘担当というのは四大精霊の間での役回りだろうか。他の3人にも役割が振られているのだろすれば、4体とも同じ人間に憑いていたということか。


(それにしても2000年前か……俺の記憶と四つの力、四つの力と四大精霊、四大精霊と2000年前の女王…………俺は人間だ。人間のはずだ)


 フィレントには強気に答えたが、ダルクの心の中では、自身を人間だと確信しようと必死になっていた。何故かは分からない。本当に理解できない何かが、ダルクの中で、人でありたい、と呟いているのだ。


(他に2000年前の出来事はないだろうか……うまく繋がらないだろうか……)


 それでいて、本当のことを知りたいと願う。人ではないと感じ始めている自分と人でありたいと思う自分。

 そのどちらが真実であったとしても、関係ないはずだった。どちらでもいいはずだった。

 背表紙を眺めるダルクの視線が止まる。


(この本は……読めない…………そういえば、本が読めるようになったのはフィレントとの契約のおかげだろうか)


 何かが書かれていることは分かるのだが、どうしても言葉にならない。


(…………中は少しだけ読めるな……だが、読めない部分の方が多い)


 文字はしっかりと書かれていて、汚れているわけでも、違う言語が書かれている訳でもなさそうだ。


(久しぶりの旅……久しぶりの仲間…………一人居なくなった……また居なくなった……俺のせいで…………楽しかった……これは日記か)


 本当に途切れ途切れだが、かなり悲惨な人生を送ったようだ。


(本のタイトルだと思っていたものは名前だろうか……)


 改めて見返してみるが、どうにも読めない。フィレントにでも聞いてみるか。


(少し気が引けるが、これは持っていってみよう……一つだけ読めない本というのも気になるしな)


 その本を手に持ち、別の本棚を探す。他にも何かが眠っていそうな量の書物だ。

 かなりの数の本棚を見たと思ったが、半分にさえも遠く及ばない。誰かに手伝ってもらいたいところだ。


(フィレントはどこまで行ったのだろうか……そろそろ戻って来るか?)


 その言葉に反応したのか、フィレントが慌てたように飛んできた。悪いことをしたかとも思ったが、どうやら違うようだ。


『ダルク! こっちに誰か居たぜ? お前の知り合いだろ?』


「知り合い? レティオかもしれない……案内してくれないか」


 フィレントが真剣そうな顔になる。その人物と何かあったのだろうか。それにしても、表情の出やすい精霊だ。


『分かった……ついてこい』


 扉の向こうにも似たような部屋が続いていた。そんな部屋を何回か通り抜けた先に、少し大きめの扉があった。


(俺をここに運んだ理由を聞かなければな……)


『この部屋に居たと思う……たぶん、まだ居る』


 少し重く感じる扉を開けば、来ることを分かっていたように、レティオが扉の前方にある椅子に座っていた。


「よく来たね、ダルク。君に聞きたいことがあるんだ」


 優しい笑みの影に小さな威圧感が顔を出しては溶けるように消えていく。


「君は異世界から来た人間だね?」


 俺は長く深い沈黙の中でやっとのことで首を振った。

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