食堂と言う名の戦場
僕は王道転入生を遠くから観察していたかっただけで、間近で見なくてもいいんですけど。
てか、本気でウザい。ちょっとぉ…キレちゃうよ?
「目が全然笑ってないぞ。」
あー…。ここが自室でよかった。こんな顔見せちゃ僕のファンががっかりしちゃうし。
机を挟んで向こう側に座っている灰の眉間にはクッキリとシワがよっている。そっちこそ人を殺しそうな顔してるぞ。ファンが、親衛隊たちが泣いちゃう。
僕は灰のその顔が心配してくれているものだと知ってるけど、学校のほとんどの人が知らないんだから自覚しなくちゃ!
それで、何で灰が僕のことを心配しているのかというと…そんなの理由は一つしかない。
そう、転入生君のこと。毎日毎日飽きもせずに話しかけてくる。いっつもシカトしてるんだけど、なかなか諦めてくれない。僕は脇役総受ポジションなんか狙ってないから!
んー、対策を練らなければ。
「そうと決まれば腹ごしらえだ!!」
「…いつの間に自己完結したんだ。」
ふふっ、いつまでも僕の心の声が聞けると思うなよ。時代は刻々と変化しているのだ。
「そんなことで時代がかわるとか壮大だな。」
なぬっ。まだ聞こえるのか!?お主どれだけのスキルを獲得しているのだ!?
「もはや何言ってるかさっぱりわからん。さっさと食堂に行くぞ。」宇宙人に会いたくないから本当は食堂行きたくないんだけど、あれに絡んでる生徒会は生で見たい。そのためだけに毎日毎日食堂に通っているとか、どんだけ僕は健気なんだ!将来良い家庭を築くよ、きっと。誰も褒めてくれないから自分で言う。虚しくてもいいんだから!!
食堂は丁度夕食時のため人が多い。しかも僕らが中に入るだけで黄色い悲鳴が飛び交うから、煩いったらありゃない。中には野太いのもあるが、勿論無視だ。
本当うるさいんだけど、席がないなぁと周りを見回すだけであちこちと席を譲ってくれる人が現れるから、まぁ許そうかなって気になる。僕は心の中だけなら上から目線になれるのだ!
ちなみに今日は和食な気分だから天ぷらうどん定食。天ぷらうどんに炊き込みご飯が付ててお得感満載。炭水化物ばっかりとか気付いちゃだめ。灰はたらこスパ。大のたらこ好きだ。もう、唇ぽってりな子とお付き合いすればいい!って何度言ったことか。その度にどっか遠くを見るような目をするんだけど…何故?やっぱり、たらこ好き=たらこくちび「おいっ!!」る好きじゃないってことか…。
「おいっ!俺を無視すんなよ!!せっかく話しかけてやってんだろ!!」
「ねぇ、たらこ唇と付き合う気がないなら、それ一口ちょうだい。」
「相変わらず意味わからんな。と言うよりわかりたくない。勝手に取れ。」
そのかわりにと炊き込みご飯を持って行かれる。やばっ。やっぱ美味いなここのご飯は。
「返事しろよ!俺ら友達だろっ!?」
「お前らいい加減にしろよ。」
「絢がせっかく話しかけてあげてるというのに無視するなんていい度胸ですね。」
「「調子に乗ってるんじゃない〜?」」
「……。」
上からご想像どうり、会長、副会長、会計、書記の順番だ。
相変わらずの転入生信者っぷりで。後ろにいる同じクラスの爽やか君と一匹狼君が発言はしないものの、コチラを睨んでいる。お前ら親衛隊に見せてやれその顔。それより前に転入生に見せてやれ。千年の恋も冷めるぞ。
なんて言うこともなく、さっさと食べ終わろうと灰とアイコンタクトをとり、目の前にある皿をキレイにしていく。そこで、とうとう我慢の限界がきたのか、宇宙人は声を張り上げて喚き、ただでさえ静まり返っていた食堂内の空気をさらに重苦しいものにした。信者たちは転入生を庇い非難中傷の言葉を発し、親衛隊たちはそんな主を見て何を思っているのだろう?苦虫を噛潰すような顔をする者、転入生を罵る者様々だ。
そんなカオスな空気の中、何も気にする様子もなく足を踏み入れる者がいた。
「絢ちゃーん、ここにいたんだね?探しちゃったよ!!」
あはははは〜☆とか言い出しそうなアホ面をして入ってきたのは、転入生信者のフリをしている啓斗だ。後ろに親衛隊隊長のほまれも見える。表情には出さなくても目が嫉妬を訴えている。萌えー!!部屋に帰って押し倒しちゃえばいい!!
「啓斗っ!聞いてくれよっ、こいつら俺が話しかけてやってるのに無視するんだ!!」
そこで初めて俺は視線を上げた。バッチリと啓斗と目が合う。とりあえず、これ以上めんどくさいことにならないように目線だけで訴えてみる。
「そんなの、どぉでもいいじゃんっ!絢ちゃんには俺がいるでしょぉ?」
ヘラッと啓斗が笑うと転入生が真っ赤に染まった。きたぁぁぁあ!総受フラグ第一弾!先ずは同室者に好かれなければ!!
ときめきがハンパないです隊長!!あんなにウザったかった宇宙人の存在を否定せずにすみそうです!呼び方を神楽君に戻そうと思います!!
「あっち行こー!!レッツラゴー!!」
うまい具合に神楽君を遥か遠くに連れていってくれた。ほまれが苦い顔をしているが、それがまた良し!!
生徒会メンバーも渋々啓斗に従っているようだ。さっきの反応で神楽君の気持ちを悟ったらしく、ほまれよりも表情を隠さず、苦々しい顔をしている。気付いてないのは啓斗本人くらいだろうな。
楽しいことになってきた。これだけでご飯三杯は軽いです!遠目で観察しながらうどんを啜る。今日は作戦会議だな。
今日は親衛隊たちとの交流会があって、終わった頃にはお外真っ暗。部屋に帰ったらもう絢ちゃんはいなかった。きっと食堂にでも行ったんだろう。お菓子が床にばらまかれている。意外と俺はキレイ好きなんだけど。俺が最終的に片付けるのは目に見えている。そのときはきっと、ほまれも手伝ってくれる。…しょうがない。今のうちに片付けておくか。ほまれも手伝ってくれるし。帰ってきたらまた汚されるんだろうけど。今のうちにと考えていたら、洗濯しとこう、食器洗っとこうと刻々と時間が過ぎていき部屋に帰ってきてから時計の長い針が一周してしまった。
もう、さすがに帰ってくるかと思ったけど、そんな様子はない。きゃーきゃーうるさいからあんまり好きじゃないんだけど、しょうがないから食堂に行くか。
食堂の空気ははっきり言って最悪。何が起こったらこんなことになるわけ?
そんななか明らかにおかしな場所がある。ちょっとした人だかりの周りには不自然にひとがいない。ドーナツ化現象の逆バージョンみたい。真ん中に人がいて、ちょっと離れた場所からまた人がいる。
「…啓斗様、お部屋に帰られますか?」俺も実際帰りたいよ?帰りたいけど!!俺のキャラ上こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだよね。頑張れ、俺!負けるな、俺!!
真ん中のところに近づくとだいたい状況がわかった。ようするに、脇役主人公総受物だね!それはそれでおいしいなぁ。もしそうなったら、俺も雅を追っかけようかな?
いや、でもここは灰×雅だな。下剋上で雅×灰も全然いける!!早くくっつかないかなぁ…?雅はノンケだからありえないなんて言ってるけど灰は本気だと思うよ?ナメてたらいつの日か意識しちゃってしょうがなくなっちゃうときがくるかもね?あれと一緒だ、ちっちゃな女の子、妹みたいな存在だと思ってたらいつのまにか女になってた感じ?うん、現実逃避はこのくらいにしよう。ほまれが心配したような顔している。
「絢ちゃーん、ここにいたんだね?探しちゃったよ!!」
探してなんてないけど。
「啓斗っ!聞いてくれよっ、こいつら俺が話しかけてやってるのに無視するんだ!!」
そこで一瞬雅と目が合う。その一瞬で全部悟れちゃう俺は凄い!!大丈夫。脇役総受にはならなくても灰とラブラブにしてあげるから!!
「そんなの、どぉでもいいじゃんっ!絢ちゃんには俺がいるでしょぉ?」
何気に食堂にきたら、雅と灰のやり取り見てたりするんだよね。人のことには敏感だけど、自分のことになるとほんと鈍感だからな雅は。これからのことを考え、楽しいことになりそうだと絢ちゃんの背中を押して雅から遠ざけながら期待に胸を膨らませた。
今日は作戦会議だな。
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まだスマホに対応できていません;
これからも遅くなると思われますm(_ _)m