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第一の腐男子




「キターーー!!!!」


ある静かな山奥。そこにヒッソリ…というより、ドドンッとそびえ立っている大きな建物。

広大な敷地面積をもっているそこは、とある高等学校、全寮制男子校である銘絖鳳学園。エスカレーター式で隔離された空間。そこにいる学生達の偏るのは当然のことで……。

ここにもある方向に思考が偏った生徒がいる。


「灰ー!!やった、ついに来たよー!この瞬間!!生きててよかった!!」


テンション高く部屋に入ってきたのは栗色猫毛の髪に大きな猫目をもった可愛らしい少年。

その少年の方を振り向くのは灰と呼ばれた金髪のこれまた顔の整った青年。


「うるさい、雅。何が来たってんだ!?」


雅と呼ばれた少年、月波雅(ツキナミ ミヤビ)はよく聞いてくれましたとばかりに腰に手をあて胸を張って説明を始める。


「何ってそりゃ〜決まってるでしょ!!王道転校生だよ!今日の朝仕入れたばかりの最新情報なんだから!!もうすこししたら着くはずだから張り切って観察しないと!!もちろん灰も協力してくれるよね?」


さも当然のように雅の趣味に巻き込まれそうな状況にいるのは、惟田灰(ユイタ カイ)。灰は諦めたようにため息をつくと渋々了承の意を告げた。

雅はその答に満足したようで鼻歌を唄いながら自分の部屋の扉を開け、灰に中に入るように促した。部屋の中は壁を覆うほどの機材が溢れている。

その大半を占めるのは大小様々なモニター。それぞれ別の場所を映し出している。そしてその中の大きな一つは校門に立つ二人の生徒を映している。


「よっしゃー、グッドタイミング!!音量、音量っと。」


カチカチっと機械をいじくるとガガーッと音が鳴った後、人の話し声が聞こえてきた。





『君が転校してきた神楽絢(カグラ アヤ)君ですね?』


にっこりと微笑みながら話しているのは細身の青年。静かに微笑む顔がとてもよく似合った美少年である。


『まぁ、そうだけ……そうです。』


対するこちらは先程の青年と同じような体格をした私服の少年。

しかし、その身体と頭のバランスが実に悪い。モッサリとした質量と体積の大きい髪に牛乳瓶の底みたいな眼鏡。

今では絶滅危惧種に認定されるような格好をしている。


『僕は副生徒会長をしている雛実凪(ヒナミ ナギ)です。それじゃあ理事長室まで案内します。』


にっこりした顔を崩さずにいう凪は正真正銘天使のようだ。凪がくるりと絢がぽつりと呟く。


『……その笑顔作り物みたいで気持ち悪い。』


『………。周りの子たちはこの笑顔にキャーキャー言ってるんですけど。…気に入りました、初めてですよ僕の笑顔が偽物だって気づいたのは。僕のことは凪でいいですから、絢。』


凪に腕を組まれ戸惑いながらもついていく絢。二人の姿が画面から消えたところで次の画面へと移り変わり、二人の行動を追っていく。

そこで何やらボタンを押して雅が立ち上がる。


「萌えぇーー!!やっぱり王道っ、ビバ王道!今では王道でもありえない変装チョイスだけど、やっぱり初心に帰るってのもいいもんだよね!キターー名前呼び、出たーー副会長の笑顔見破り!敬語攻め!!誰がどう聞いても『そうだけど』と言いかけて『そうです』に言い換えたよねっ!元は口悪いんだー!絶対どこかの族に入ってる?入ってた?だよ!!きっと理事長とも仲良しだ、溺愛されてるよっ、素顔が超美人だよーー!!あぁ、早く見たい!永久保存版だねっ!!」


両拳をフルフルと震わせ力説する姿は小動物のようで可愛らしいのだが、言っている言葉はがっかりである。もし彼のファンが今の姿を見たら幻滅間違い無し!


「うっせー、お前。テンション高すぎんだよ。」


酷く嫌そうな顔をして言う灰は、さも興味がないと言うように近くにある机に肘を乗せ寝ていた。


「ごめんね、ハニー!寂しがらせてしまって!!さぁ、僕の胸に飛び込んでおいで!一緒に萌えの世界に旅立とう!!」


「やっと気付いてくれたんだね、ダーリン!……お前一人であの世に旅立て!!」


バキッ、ガゴッと不気味な音が鳴り響き、辺りがシーンとしたころ……正確には雅が床とこんにちはして、灰が再び昼寝を再開したころ。画面の中では雅が予想した通りの展開になっていた。





『絢ーー!!よく来たね!長かっただろう?とりあえずそのカツラと眼鏡を外して素顔を見せてくれ。』


理事長室に入った途端抱き着かれ、そのあとソファーに座らせられたが『素顔を見せてくれ』と言われたときには、すでにそれらのものは外されていた。


『これ取ったって意味ないじゃないか。』


『いや、目の保養になる。』


『?』


そこに映し出されていたのは紅い髪に金色の瞳を持つ美少年。先程の姿からは想像も出来ないような美しさだった。


『いいか、絢?絶対に他の人に素顔を出しちゃいけないからな。同室者にもできるだけ隠し通せ。困ったことがあったらここに来ればいい。』


『…?わかった、ありがとう。』


絢は学園の説明を受けたあと、念を押すように言われ戸惑いながらもコクコクと頷く。

パタンと理事長室の扉が閉じられると、いつの間に復活したのか、雅が大声で叫んでいた。


「やっぱり、萌えーー!!理事長溺愛キター!!しかも、無自覚美少年!!王道だよ、もう王道過ぎて飽きちゃったってくらい王道だよー!!いや、僕は飽きないけどね、三度の飯を抜いたって君を追いつづけるからね!!」


「……。」


追いつづける宣言を受けたとも知らず、寮に行っては管理人に気に入られさらには寮長にも気に入られた絢は雅を興奮させるにはもってこいの人材だった。


『ここが俺の部屋か……。』


理事長から貰ったカードキーを差し込み中に入ると、そこには金髪に近い茶色の髪の誰がどう見たってチャラいお兄さんがいた。

お兄さんは絢に気付くと一度大きく目を見開き、へにゃりと笑って話しかけた。


『だぁれ〜?』


話し方がすでにチャラい。絢はため息をつきそうになるのをなんとか堪え、あまり関わらないようにしようと心に決めた。


『お…僕は神楽絢。一様今日から同室者になります。』


あえて『よろしく』とは言わなかったが、もともとよろしくするつもりはない。叔父さん(理事長)にも言われたしね。

チャラ男は考えるように顎に手をあて、ぶつぶつと何か言っている。それを気にせず自分の部屋はどっちか、絢が悩んでいると、突然チャラ男が絢に近づき両手を突き出した。


『俺は岳知啓斗(タケチ ケイト)、啓斗でいいよ。同室者来てくれて超カンドー!仲良くしようね。』


勢いに押され出してしまった絢の両手を嬉しそうに振り回す啓斗を見て、何となく無害そうだと思った絢はしばらくされるがままになっていた。

ようやく手を離してくれたときにずっと疑問だったことを聞いてみる。


『ところでさ、お、僕の部屋はどっち?』


『ん〜?あっちー。ねぇ、絢ちゃん喋り方無理してない?不自然だよ?俺達友達だから言葉遣いとか気にしなくていいよ。』


絢は指差された方に向かおうとしたところ、投げられた言葉に身体が硬直する。それから少し考え結論に至ったのか啓斗の方に向き直る。


『おぅ、そうする。実は俺自身違和感感じまくりだったんだよなぁ。この格好にこの喋り方は合わないだろ?』


『確かにそーだねぇ。でも、それも絢ちゃんだし俺は気にしないよ?』


『ん……ありがと。』


荷物を片付けるため、部屋に入ろうとした綾を啓斗が呼び止める。


『あ、忘れてたけど、俺ってこの顔だから超モテるんだよね。だから、セフレとか連れて来たり遊びに行ったりするけど気にしないでねぇ〜。』


それを聞いた途端絢は眉をしかめて啓斗を睨み、幾分キーの下がった声を出す。


『寂しいやつ。一人の相手と向き合ったことがないのか?そんなふうに大勢と関わりを持ったってむなしいだけだろ。』


『……。そんなこと言ったの絢ちゃんが初めてだよ。そう、みーんな俺の顔ばっかり。…ねぇ、絢ちゃんは俺と真剣に向き合ってくれるの?』


絢が見た啓斗はさっきまでの表情とは違い、なんとも痛々しい顔だった。


『俺は啓斗を顔だけで判断しない。』


『ありがとう、絢ちゃん。』





「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!来ましたぁ、ついに出ちゃいましたよ、王道総受けと見せかけてのチャラ男受け!!チャラ男フラグ立ったぁぁぁぁぁ!!」


雅は拳を真上に突き出しフルフルと震えている。その姿を間近で見た灰はため息をつき、一度部屋を出て冷蔵庫からオレンジジュースを注いで戻ってくると自分だけ飲みはじめた。雅はそれにも気づかずにずっと叫び続けている。


「啓斗には悪いけど、ここは俺の萌えのために犠牲になってねぇ!!よっ、チャラ男腐男子総受けナイス!イカしてるよ!!君の総受け加減を遠くから見守ってるからねぇー!!!」


そう、啓斗は実は雅と同じ趣味を持った腐男子仲間。しかし、雅は友情より自分の萌えを優先した模様。


まだまだこの物語は始まったばかり。




.

アホっぽいなぁ。

ここまでするつもりはなかったのに…。

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