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楽園

9話 楽園

「もし良かったらこれからもここ来てくれませんか?」

アマネが言った。

 

「一緒に音楽やりたいです!」

 

嬉しい。

こんな風に誘ってもらえるなんて思ってなかったから。

 

「よろしいのですか?嬉しいです!」


それから放課後になると南棟の4階に向かい音楽を楽しむのが日常になった。

だんだん3人とうちとけていって呼び捨てや敬語を外して会話するほど仲良くなった。

いつも私を暖かく迎えてくれる。

楽器だけでなく最近は歌も歌うようになってますます楽しい。


「こんにちは」

「いらっしゃい、リリー!今日は何をする?」

「そうね────」

 

こうして貴族としての自分を忘れられるこの空間が好きだ。

みんなが好きなことを好きなだけとことんやる。



「ねね、ここの名前決めない?」

 

アマネが提案した。

 

「南棟の4階って呼ぶのなんか嫌だよ」

「じゃあなんて呼ぶ?」

「音楽室……はありきたりか」

 

4人で悩む。

 

「……じゃあ、楽園とかどう?」

「楽園?」

「ここは私にとって好きな物に触れられて、貴族としての振る舞いをしなくていい楽園みたいなところだから」

「いいね」

「僕もいいと思う」

「じゃあ今日からここの名前は楽園にしよう!」


楽園では色々なことを教えてもらった。

楽器の引き方や扱い方、ソウタの長い長い作り方の説明なども。

 

おまけに嫌な人がいた時の対処法まで

「嫌な人がいたらこうやってアッパーすればいいのよ」

「アッパー」と叫びながら手を握りしめ腕を上げ実演してくれるアマネ。

 

「僕はそんな嫌なことされても気にしないな」

と優しい顔をするソウタ。

アマネに「つまらない」と言われているが小声で

「まあ、地獄に落とすけど」

と言っていたのを私は聞き逃さなかった。

ソウタって意外と怖いのかしら……?

 

「私はそんなことできないけど少しイタズラしちゃうかも」

と今までのゾッとする体験談を語るリコに、全員が怒らせては行けない人と認識したりもした。


たまに

「リリーってすぐ上達するよね」

と褒めてくれる。

「初めてじゃないでしょー」と言われるほど。

私自身なんでこんなに早くできるようになるのかは分からない。

でも見たこと無い楽器ばかりだしもちろん触ったことも無い。

上手く言葉にできないがその楽器を触った瞬間何かが、頭に浮かぶ。

それが一体なんなのかはんからないけれど頭に、体に染み付いていることだけ分かる。

どうしてだろう。

才能だろうか。

正直、他のところにもこの才能が生かせればいいなんて思ってしまった自分がいる。

もちろん好きなことに才能があるのは嬉しいが、もっとほかにあったのではないかと思ってしまう。

もう少し何か貴族としての才能があれば落ちこぼれなんて言われなかったかもしれないと思うと少し悔しい。

けどこれは3人には内緒だ。口が裂けても言えない。



 

「そういば3人の故郷ってどんなところなの?こんなすごい楽器が沢山あるところ行ってみたいわ」

 

こんなに見たことの無い楽器がここ、王都に出てこないのは珍しい。市場に出回ってもいい。

 

「あー……」

 

3人ともこのような質問をするといつも歯切れが悪く、目を逸らしてしまう。

よほど故郷を教えたくなさそうだ。

何か事情があるのだろうか。


「いつか、ね……」

そう言うアマネの目はなんだか寂しそうに見えた。


━━━━━━━━━━━━━━━


「お嬢様、お手紙が届いております」

「珍しいわね。こんな夜に」

こんな時間にアリサが部屋を訪れるのはかなり珍しい。

なにか緊急のことなのだろうか。

手紙を見ると実家からだった。

「リリーへ。お前へ婚約の申し込みがあった。ゲルム公爵家次男だ。近々面会させるから」


……こん、やく?


その瞬間頭が真っ白になった。

婚約……いつかしなければ行けない貴族の役目。

魔法がまともに使えない私をもらってくれる人はそう居ないから、これは嬉しい知らせなのだ。

嬉しい……知らせ?

「お嬢様……」

「今度のアリーシャ姫の誕生パーティで紹介する。ですって。」

そこでお見合いするのだろう。

会ったことのない、顔も知らない人。

「手紙届けてくれてありがとう、アリサ。今日はもう休んで」

「承知しました。お休みなさいませ」

「ええ、お休み」

アリサが部屋を出たと同時に膝から崩れ落ちた。

「婚約……嫌だな……」

それは心の奥に眠っていた封じ込めなければいけない感情だった。


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