図書室探検
「テスト勉強しませんか?」
ミーシャの一言で、アンと私たち三人は図書室に向かった。
夕方の図書室は静かで、日の光が傾いた書架の間を金色に照らしていた。
「詠唱呪文学の入門書は、あちらの棚だったかしら。リリー様、そこにありますか??」
アンの言葉に、私は奥の棚へ向かった。
──その時だった。
何気なく伸ばした手の先で、古びた革の装丁が指先に触れた。
背表紙もほとんど摩耗して読めないそれは、どこか懐かしい匂いがした。
そっと引き抜いて、ページをめくる。
文字が、見たこともない記号のようなものだった。
けれど──読めた。
意味が、まるで風に乗って流れ込むように自然と入ってきた。
それは詩だった。音にならない音が、胸の奥に広がっていく。
作者は─────分からない
元々書かれていたのか、無かったのかすら。
「リリー様、何か面白い本でも?」
ミーシャが小首を傾げながら、ひょこっとのぞきこんだ。
「ちょっと変わった詩集を見つけたの」
「詩集??わあ……見たことない文字ですね。全然読めません……!リリー様は読めるのですか?」
「ええ、どうしてかしら。」
「昔習ったことがあるから……とかですかね?」
2人で首をかしげているとアンがこっちに来て私の持ってる本を見て言った。
「なんという言葉で書かれているのでしょう……。さすがに、それは私にはちょっと……」
アンも苦笑する。
確かに昔から勉強はやっていたがこんな文字は見たことがない。
「……借りてみようかしら。ちょっと気になったから」
「さすがリリー様、こんな難しそうな文字のものを選ぶなんて。」
二人の言葉に微笑みながら、私はその詩集を胸に抱えた。
──それは、ただの好奇心ではなかった。
その夜。ベッドの上でページをめくると、詩が音になって胸の内に響いた。
言葉というより、記憶のかけらのような。懐かしさが心に降り積もる。
どうして私はこれが読めるのかしら。
気づけば、私はノートを開き、そっと詩を書いていた。
“歌じゃない、でも音のような何か”
それは、私の中から零れ落ちる静かな旋律。
私はこれを手放してはいけないと、そう思った。
──────────
「まあ!この詩とても素敵ですわ!」
ココ最近ずっと詩を書いていて上手くできたと思うものを2人に読んでもらっていた。
「リリー様にこんな才能があったなんて。世界とれますよ!」
とミーシャが褒めてくれた。
「言い過ぎよ」
世界なんて……
────世界
何故かこの言葉が引っかかる。
「…………」
隣を見るとアンが独り言を呟いていた。
「どうかしたの?」
「リリー様その本……もっとたくさんの人達に読んで貰いたくはないですか??」
「……………へ?」
──────────
学院近くの小さな本屋。冒険者用の魔導具や雑誌に混じって並べられた薄い冊子。
何気なく通りかかった1人の視線が、ふとそこに止まった。
“無記名の詩集”。
古語で綴られた詩が並ぶその本を、彼は手に取った。