襲撃と真実、そして一歩
騒ぎのある方へ行ってみると空飛ぶ巨大なドラゴンと交戦中だった。
「このままじゃ押し切られる!」
「もっと魔力のある人いないのか!」
ドラゴンの出す攻撃は凄まじく大人数で打ち返すのがやっとだ。攻撃が手薄になり、中々とどめを刺すことが出来ない。魔力切れを待つにしろ先にこっちが限界を迎えそうだ。
私にできることは……避難誘導、怪我人の介護……。
違う。もっと他にやるべきことがあるはず。
「失敗したら?」そんなことが頭をよぎる。
いや─────やらなければ
命をかけてまで守ろうとしてくれている人たちがいるのに私は何をしているんだろう。
きっと失敗しても大丈夫。
いつもそうだったじゃない。何度歌詞作りに、音楽作りに失敗してきたことか。
それでも諦めなかった。
ドラゴンがいる方に気持ちを落ち着かせながら歩み寄る。
「どうすれば……って君!危ないから下がっていなさい!」
「リリー様!危険です!」
「鈴?」
「私ね何故かずっと炎が怖かったの。だからまともに魔法使えなくてみんなに迷惑かけて……」
「もうこっちは魔力切れだ!もうもたない」
「でも原因が分かって、皆に会うことが出来てやっと向き合う覚悟ができた。」
先生の言葉を思い出す。
「魔法はイメージが大切なんですよ。でもまあ炎は少しイメージしずらいところがありますけどね」
ドラゴンに手をかざし唱える
「ファイアーボール」
ああ、今だけあの時の経験が役に立つ。
私達が死んだあの炎。
記憶を思い出したことで、何が怖いかの原因がわかった。
もう怖くない。
大丈夫だって私は
公爵令嬢リリー・アルベール
属性火
ランク
SS
炎の奔流が、ドラゴンを地に叩き落とした。
魔力が流れ出ていくのを感じながらも、私は目をそらさず、炎を見つめた。
「……こんなにも、炎って綺麗だったのね」
それは人を焼くものじゃない。
人を守るための、力。
ドラゴンが沈黙すると、皆の視線が私に注がれた。
驚き、畏れ、そして戸惑い。
「リリー様……?」
私は言葉に詰まった。
どう説明すればいいのだろう。
そこへ、国王が現れた。避難誘導が一段落したようだ。
「リリー嬢。やっと克服したんだね」
「陛下……」
「私から説明しよう。リリー嬢は──SSランクの火属性魔法保持者だ。七歳の儀式の時から、ずっと隠されてきた」
「SSランク……!?」
「馬鹿な……」
「実在していたのか……」
「昔から、火が怖かったの。今思えば……前世で死んだ原因が炎だったから。属性を聞かされた時、頭が真っ白になったのを覚えてる。ずっと怖かったの。この力で誰かを傷つけるんじゃないかって」
──けれど、もう違う。
この力は、守るためにある。
私ははっきりと言った。
「もう逃げません」
その時、怜央が一歩前に出て、私に手を差し伸べた。
「なら、一緒に旅をしないか?」
「……え?」
「目指すのは世界、なんだろ?この世界にも音楽の可能性はまだまだある。SSランクなら戦力は十分だ。どうだ?」
『目指すのは世界だ!』
──あの日、二人で叫んだ夢。
形は違えど、こうしてまた出会えたなら。
「行きたい……! 世界を目指したい!」
「決まりだな。明日には出発だ!」
「え、リリー様!? 行ってしまわれるのですか?」
「嫌です!そんなの!」
「ごめんね。でも、やっと夢が叶うの。私はこのチャンスを逃したくない」
「ジストにはどう説明するんだ?」
「とりあえずできる限りは説得するつもりです。。でも……許されなかったら」
リリーはいたずらっぽく笑って、ウインクした。
「──全力で家出します!」
『ええーーっ!?』
衝撃の言葉に、皆が凍りついた。
「聞き捨てならんな」
振り返ると、険しい顔の父──ジスト・アルベールが立っていた。
「お、お父様……」
「旅に出るのか?」
「……はい。世界を見て、音楽を届けたい。小さい頃からの夢なのです」
ジストはしばらく黙り込み、やがて右手を私の肩に置いた。
「家出は許せん。だが……勉強の一環としてなら構わない」
「……え?」
「お前は昔から外の世界に憧れていた。火を怖がるようになってからは内気になったが……それでも何かと理由をつけては外に出たがっていた。覚えているか?」
「そ、そうだったんですか……」
「リリーはこの狭い貴族社会に収まる器ではない。──行ってきなさい」
「……お父様……いや、父さん!」
リリーは勢いよく抱きついた。
「ありがとう! 大好き!」
頬にキスを落とすと、ジストは真っ赤になって固まった。
「旦那様は少々、喜びの余韻に浸っておりますので」
従者ナトが苦笑して囁く。
「ナト……父さんをお願いね」
「承知しております。お嬢様もお気をつけて。──でないと旦那様は、本当に地の果てまで追いかけて行きますから」
皆に見送られながら、私は笑顔で旅支度に戻った。
「ようやく夢が叶うのね……。楽しみだわ」
期待を胸にその日は眠りについた。




