本当の再会
「ここが……魔法学園か」
俺たちは、ある依頼を受けて学園祭へと足を運んだ。
想像以上の賑わいに圧倒されながら、なんとかホールの席を確保できたが──
ステージからはかなり離れた場所だった。
と、そのとき。隣に座っていた令嬢たちの声が聞こえてくる。
「アリーシャ様とリリー様の対決、楽しみですわよね」
「もちろん! 勝てっこないでしょうけど」
……対決?
気になって、営業スマイル全開で声をかけた。
「すみません。対決って、どういう意味ですか? 僕たち、外から来たばかりでして……」
すると令嬢たちは頬を染めて、嬉しそうに話し出す。
曰く──アリーシャ姫がリリーに突っかかり、今日の学園祭で“音楽対決”を申し込んだのだという。
(……もしかして、この依頼って鈴から……?
いや、アリーシャ姫って可能性もある。あの執事にスカウトされた時、逃げたしな)
そのことを隼人と明里に話すと、2人とも目を見開いた。
「リリーって、あの鈴だろ? あいつが依頼したんじゃね?」
「いや……アリーシャ姫かもしれない。前に話したろ、執事にスカウトされて、逃げたって」
「あー、あれか……」
「でも、やっぱり鈴ちゃんだと思うな。この間会った時、なんか言ってなかった?」
「そういえば……って、お前なんで知ってんだよ」
「バレバレだよ。怜央くん、鈴ちゃんのことになると周り見えなくなるもんね〜」
「なっ……!」
2人が顔を見合わせて笑う。
「そんなこと……まあいいや。あのとき確かに、鈴の雰囲気は変わってた。少ししか話せなかったけど……思うところはあったんだ」
「信じよう。鈴ちゃんなら、きっと大丈夫」
「だな──……あ、始まるぞ」
ホールの照明が落ち、ステージの幕が上がる。
最初はアリーシャ姫側の演奏らしい。
だが姫本人はステージに現れず、観客席で鑑賞するという。
(……どんだけ身勝手なんだ)
そう呆れた矢先、音が鳴った。
──圧倒された。
オーケストラによる演奏。
緻密で、重厚で、力強く、そして優しい。まさに“格の違い”を感じさせられる音だった。
演奏が終わると、ホール中に盛大な拍手が響いた。
「さすがアリーシャ様」
「これは勝負になりませんわね」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
(大丈夫か、鈴……)
「続きまして、リリー・アルベール嬢率いる音楽団の演奏です。どうぞ!」
幕が上がると──息を呑んだ。
ギター、ベース、ドラム、キーボード。
見慣れた、けれどこの世界には存在しないはずの楽器たちが並んでいた。
ざわつく観客席。
(やっぱり……あの3人、日本人か……)
鈴から少しだけ聞いていた話。推測はしていたが、確信に変わった。
「こんにちは。これから演奏させていただきます。私たちは──Lily:noteです」
「リリーノート……?」
「なんか、めっちゃ似てるな」
似てる、なんてもんじゃない。
《Re:note》──俺たちのバンド名。
リリーの名前と組み合わせた“リリーノート”。
まさか……まさか本当に……!
「今日は伝えたいことがある人たちがいます。直接来て欲しいと伝えたわけではないので、本当に来てくれてるか分からないけど……」
ステージの中央で、鈴がマイクを握る。
「──久しぶり。お待たせ。ずいぶん、遅くなっちゃったよね」
一拍置いて、まっすぐ前を見て言った。
「話したいこと、言いたいことは山ほどあるけど……今は一つだけ。
──また、一緒に音楽をやろう。
《Re:note》として──!」
『……え?』
3人の声が、ぴたりと重なった。
「は? い、今……Re:noteって……」
「鈴……ちゃん?」
隼人と明里が戸惑っている中、俺はただただ鈴の姿を見つめていた。
──あの日の、貴族“リリー”じゃない。
そこにいたのは──俺たちの、“鈴”だった。
「……思い出したんだな」
そして、音楽が始まった。
イントロを聞いた瞬間、心が震える。
俺たちが最初に作った曲。
最初に4人で歌った、あの曲─
(懐かしい……)
サビに入る直前、鈴と目が合った。
鈴は嬉しそうにこっちを指さした。
驚きと、喜びが溶け合ったような笑顔で、まっすぐに──語りかけてくる。
「怜央……!」
気づけば俺は、立ち上がり、走っていた。
ホールを抜け、ステージ裏へと全力で。
──明里と隼人も、息を切らしながらついてきている。
ライトに照らされたステージ。
その中心で歌う鈴を見て、確信した。
(本当に……帰ってきたんだ)
彼女の歌声は、すべてを包み込むように優しく、温かかった。
演奏が終わる。
だが、歓声と拍手は終わらなかった。
それどころか──手拍子、歓声、「もう一度!」の声が、どんどん重なっていく。
「な、なにこれ……」
「これって……まさか、アンコール……?」
鈴たちは顔を見合わせる。戸惑いながらも、胸の奥に火が灯る。
──届けたい。もっと、この音を。
そのとき、スタッフが声をかけてきた。
「皆さん、まだ歌えますか? どうやら……観客は、帰す気がないようです」
「ど、どうする……?」
戸惑いの中、鈴がふと観客席の端を見つめる。
そこで──ひとりの少年と目が合った。
その少年は、静かに微笑んで言った。
「僕たちの出番じゃないよ」
──と、指さした先にいたのは。
「……怜央?」
ようやく、目が合った。
そこにいたのは“リリー”ではない。
過去でも、今でもなく──
あの頃の、“鈴”だった。




