久しぶり、お待たせ
「リリー様、頑張ってください!応援してます!」
「きっと大丈夫ですよ!」
アンやミーシャ、セシルが朝早くから部屋を訪れ、応援の言葉を伝えてくれた。
「ええ、頑張ります」
今日は学園祭、そして“勝負”の日。
会場は貴族学園らしく広大で、まるで宮殿のような美しさだった。
私たちLily:noteの出番は、アリーシャ姫の演奏の後。
彼女は堂々とした態度で舞台に立つ……と思いきや、観客席で指揮のような真似をするだけで、演奏自体はプロのオーケストラに任せきりだった。
「なんじゃそりゃ……」
思わず、私たちは顔を見合わせて笑ってしまう。
──でも、演奏はさすがだった。
会場を包み込む壮大な旋律。上品で、圧倒的。
終わると同時に拍手が巻き起こり、誰もが“勝者”を確信していた。
「さっきのお姫様、すごかったね」
と天音がつぶやいた。
思い出すのは、リハーサル帰りにアリーシャとすれ違った時のこと。
「せいぜい頑張りなさいな。まあ、私には勝てっこないけれど♪」
高笑いを残して去っていったその姿に、莉子が小さくため息をついた。
「……もう勝った気でいるんだね」
「続きまして──」
進行役の声が響き、心臓の鼓動が早まる。
緊張と、ほんの少しの期待と。
「き、緊張するなぁ……」
「私たちなんかに、できるかな……」
天音と莉子が不安そうにささやく。
そんな中、颯太だけが真っ直ぐ前を見ていた。
「ようやく、僕たちの夢が叶うんだよ。胸を張ろう」
「夢……?」
「ステージに立つこと。僕たち、ずっと憧れてたんだ。形は違っても……こうして演奏できる、それだけで嬉しいよ」
その言葉に胸がじんわりと熱くなる。
「そうね……。みんな、手を出して」
「手……?」
「約束の形にして」
戸惑いながらも、小指を差し出す3人。
私はそっと小指を絡めた。
(やっぱり……)
日本にいた頃の“約束のしるし”。
この国にも3人が来たと言っていたアバンティ国にもそんな文化はない。
だけど、この子たちは迷わずそれを受け入れてくれた。
この子たちも、────異世界から来た人たち。
思い出の断片が、確信に変わっていく。
でも、今はこのステージに集中しよう。
「頑張ろう!」
『おっー!』
ステージに上がると、ざわめきが起こる。
「……何? あんな楽器、見たことない」
「たった4人だけなの?」
戸惑いと好奇心に満ちた視線を浴びながら、私はマイクを握る。
「こんにちは。これから演奏させていただきます。私たちは──Lily:noteです」
バンド名を発表した瞬間、記憶がよみがえる。
「絶対、Re:noteみたいな名前がいい!」
天音が目を輝かせて言っていたあの日。
「リーダーであるリリーの名前を入れようよ!」
「……私なんかの名前でいいの?」
「いいの! 私たち、ずっとリリーの歌に救われてきたから」
そんな風に言ってもらえたこと、忘れられない。
「私たちの音が、誰かの“新たな1ページ”になりますように──そんな願いを込めて、歌います」
そして──もうひとつ。
「今日は、私の大切な人たちに伝えたいことがあります」
客席を見渡す。あの3人がいるかもしれない。聞いていてくれるかもしれない。
「久しぶり、お待たせ。……たくさん言いたいことがあるけど、今は一つだけ」
深呼吸して、しっかりと前を向く。
「また、一緒に音楽をやろう。……《Re:note》として!」
──会場がどよめいた。
いや、正確には後ろの3人が大きく動揺した。
会場はほとんどが疑問の声に溢れた。
「今……Re:noteって言った……?」
「まさか……鈴……?」
ステージに立つ私は、静かに微笑む。
「それでは聞いてください」
『この音が君に届いたら』
空気が変わる。
ギターの一音目が空間を裂き、莉子のドラムが鼓動のように重なる。
颯太のキーボードが優しく包み込む。
そして、私は──歌いはじめた。
言葉ひとつひとつに、今までの想いを乗せて。
人に怯え、音楽に出会い、変わっていく自分。
音楽が、私を“私”にしてくれた。
サビが近づくと、客席のある一点に目がとまる。
──あの3人がいた。
思わず指を指す
驚き、涙ぐみながら、でも笑って、こちらを見ていた。
(来てくれた……!)
心の奥が熱くなる。
サビの直前、私はそっと心の中で呼びかける。
「……ありがとう。さよなら、リリー」
かつての“自分”へ。
傷つき、閉じこもっていた少女へ。
「もう、大丈夫。私は私を生きるよ」
涙を拭い、最後のフレーズを歌い上げる。
──全ての音が、心に刻まれる。
歌い終わった瞬間、静寂が訪れる。
一拍、二拍。
そして──会場を包むような大歓声と拍手。
「ありがとう」「すごかった!」
誰かがそう叫んだ。
天音と莉子、颯太と目を合わせ、笑い合う。
私たちは、Lily:note。
そして──私たちは、Re:note。
またこの音で、君とつながれる日まで。




