文化祭後
「ねえねえ知ってる?Re:noteってバンド!」
「知ってる!あの文化祭のやつでしょ!?」
「今度テレビ出るってよ!」
「ソロコンサートしてくんねえかなぁー!」
私たちのバンド――Re:noteは、文化祭の動画が学校公式SNSに掲載され、大バズりした。
一気に知名度が広がり、なんとテレビ出演の話まで舞い込んできた。
「なんか……信じられないね」
私のぽつりとした言葉に、みんなも頷く。
「まさかこんな有名になるなんてね」
明里は、あれ以来母親と和解し、今は堂々とピアノとキーボード、両方を弾いている。
「俺も最近、電車でやけに視線感じんだよな~」
隼人はチームメイトから散々褒められたらしく、「これで俺のモテライフ到来かー!」と、ちょっと調子に乗り気味。
「…………」
怜央だけは、何一つ変わらない様子で、今日も曲を作り続けている。
――そんなふうに、周囲からは見えているかもしれない。
けれど、私はわかる。
怜央は今、心のどこかで、ぽっかり穴が空いたままだ。
「ねえ、どうしたの?」
いつもの公園で、パソコンをいじっている怜央に声をかけた。
「何が? 別に何もねえけど」
いつも通りのクールな声。でもわかる。無理してるの、バレバレだよ。
「私に嘘は通用しないよ。怜央はわかりやすいからね」
(……え? わかりやすい?? 私全然わからないよ……)――by あかり
「……何かあったの?」
静かに、けれど逃さぬように、私はもう一度聞いた。
しばらくの沈黙。タイピング音が止まり、風の音だけが聞こえる。
やがてぽつりと言った。
「……あの文化祭、父さんも来てたんだ。」
「………うん」
「感想を聞いたんだ。ひと言だけしか言ってくれなかった。“くだらない遊びはもうやめろ”って」
私は息を飲んだ。
「……信じられない。あれだけの演奏を聴いて、どうして……」
怜央はうつむいたまま、小さく笑った。
「俺さ、あの日……文化祭で演奏することで、何かが変わるかもしれないって、ほんの少しだけ思ってたんだ。音楽で父さんを振り向かせられるんじゃないかって」
「怜央……」
「でも、ダメだった。俺がどんなに頑張っても、あの人の中じゃ、俺の作った音楽なんてただのお遊びなんだ。」
怜央の声は淡々としていたけれど、その奥にある悔しさと寂しさが、痛いほど伝わってくる。
「怜央」
私は言った。まっすぐ、彼の横顔を見つめながら。
「私たちは、ちゃんとわかってる。怜央の音楽が、どれだけ素敵か、どれだけ心を動かすか。みんな、あのステージで感じたよ。きっと、演奏を聞いてくれた人たちも、これからも、そう思うはず」
怜央は何も言わなかった。けれど、ほんの少しだけ、肩の力が抜けた気がした。
「だからね、私は信じてる。怜央が信じる音楽を。いつか、ちゃんと届くって」
風が吹いた。木々がさわさわと揺れる。
「……ありがとな、鈴」
やがて絞り出すように、怜央が言った。
「俺、もうちょっとだけ、頑張ってみるよ」
「うん。一緒に、頑張ろう」
いつか……いつの日か認めてもらえますように。




