音楽のとの出会い
昔から、父が書く“言葉”が好きだった。
深くて、あたたかくて、ときに切ないその一行一行が、読むたびに胸に染み込んでくる。
気づけば私も、そんな言葉を書きたいと思うようになっていた。
本の中なら、言葉の中なら、私は誰にでもなれる。
優しくも強くも、どこかの国のお姫様にも、空を飛ぶ鳥にも。
──だからずっと、本を読んでいた。
昔から、人と話すのが苦手だった私にとって、本は心を預けられる“世界”だった。
文字さえあれば、話さなくてもいい。
誰にも否定されず、誰かにならなくてもいい。
ただ、ありのままの私でいられた。
そんなある日、お母さんが私にチケットを差し出してきた。
「ねえ鈴、ここ行ってみない?」
差し出されたのは、とあるバンドのライブチケットだった。
音楽にはあまり興味がなかったし、正直、戸惑った。
けれど母の熱心な誘いに押される形で、私はその小さなライブ会場へ足を運ぶことにした。
会場はこぢんまりとしていて、お客さんの数もまばら。
でも、演奏が始まった瞬間──空気が変わった。
ギターの音が鳴ったとき、ドラムが刻まれたとき、
ボーカルの声が空間を満たしたとき……
それまで味わったことのない衝撃が、私の全身を駆け抜けた。
言葉が“音”になって届く。
それは、本で読む物語とはまったく違う熱だった。
──この人たちは、自分の想いを、音にしているんだ。
その瞬間、私の中にひとつの気持ちが芽生えた。
音楽をやりたい。
そう思ってからの行動は早かった。
けれど、何をすればいいのかわからない。
自分にできることはなんだろう、と考えたとき思い出したのは父の言葉だった。
「鈴は言葉を書くのが上手いなぁ。言葉の神様に愛された子なんだよ」
──歌詞なら、書けるかも。
そこから、毎日ノートに歌詞を、自分の気持ちを書いた。
誰にも見せない、自分だけの世界。
文字で音を鳴らすことが、こんなにも楽しいなんて知らなかった。
けれど──だんだんと、物足りなさが出てきた。
どんなに言葉を重ねても、音がなかった。
音がなければ、届かない。
書くだけじゃ、誰の心にも触れられない。
──そんな気がしていた。
でも、出会ったんだ。怜央に。
初めて彼の音を聴いたとき──
あのときライブ会場で感じた熱と、まったく同じ衝撃が胸に走った。
音と出会い、言葉と重なった瞬間。
私の中で、何かが始まった気がした。
そのときの気持ちを、今でも私は、はっきり覚えている。




