堂々と自分の好きを
急に教室のドアが開き、中から同い年くらいの女の子が勢いよく飛び出してきた。
俺も向こうも何が起こったのかわからず、しばらくその場で固まっていると──
「どうした?」
奥から男の子が顔をのぞかせた。
「何か用でも?」
背丈の近いその男は、じっと俺を見据えてくる。目が鋭い。
「い、いや……音楽が聞こえてきて……なんとなく気になって」
俺がそう答えると、最初に出てきた女の子がパッと表情を明るくした。
「えっ、音楽に興味あるの!?」
「いや、まあ……」
「ちょうど今ね、人手が足りなくて困ってたの! 一緒にやってみない!?」
「え、いや、でも……」
「今時間ある? だったらとりあえず入って!」
強引に手を引かれそのまま教室の中へと連れて行かれた。
「鈴ちゃん、その人は?」
教室の中にはもう1人、眼鏡をかけた大人しそうな女の子が座っていた。床には楽譜と楽器が散乱していて、部屋は少し雑然としていた。
「なんだここ……めっちゃ散らかってるじゃん」
「ようこそ! 私たちの楽園へ!」
「ら、楽園……?」
「勝手に言ってるだけだから気にすんな」
男の子が呆れたように言った。
そのあと、簡単に自己紹介を受けた。
鈴、明里、そしてさっきの男が怜央。
3人で音楽ユニットのようなものを組んでいるらしい。
「でね、隼人君にはドラムやってほしいの」
「……俺、ドラムなんてやったことないけど?」
「大丈夫大丈夫! 明里だって、キーボード始めたの最近だし」
「別に、鈴が勝手に言ってるだけだから。無理はしなくていい。でも、人手が足りないのは事実。手伝ってくれると助かるよ」
「あたしも最初に触ったとき、すっごく楽しくて、それで入ったんだよ。だから、隼人君も一回やってみようよ」
気づけばドラムスティックを手渡されていた。
「……マジかよ」
とりあえず構えて、試しに軽く叩いてみる。
最初はリズムもテンポもぐちゃぐちゃだったけど、何度か繰り返すうちに、少しずつ音が形になってきた。
「どう? 楽しいでしょ?」
ニヤニヤしながら聞いてくる鈴に、少しムカつきながらも──
「……まあ、悪くない」
そう答えていた。
「よしっ、じゃあ決まりね! 隼人君も加入決定〜!」
こうして、半ば勢いだけで話は進み、10月の文化祭に向けた練習が始まった。
放課後は音楽室か、怜央の家。
曲作りの日は、練習はお休み。
最初は不安だったけど──
気づけば、3人と打ち解けていて、ドラムを叩くことも、みんなと音を合わせることも、楽しく感じていた。
「目指すのは世界」
最初は冗談かと思ってた彼らの目標が、いつのまにか俺の中にも芽生えていた。
⸻
ある日──
その日は、楽器屋に寄ってから帰ろうとしていた。
たまたま立ち寄ったその店の前で偶然、かつての部活仲間たちに出くわした。
「うわっ、隼人じゃん! 久しぶり!」
「元気してたか?」
久々の再会に、自然と笑顔がこぼれる……はずだった。
「……お前、楽器とかやってんの?」
そのひと言を皮切りに、みんなが口々に言い出す。
「似合わねー! 隼人が音楽とか、マジで?」
「いやほんとそれ、意外すぎる」
きっと軽いノリだった。悪気はなかったんだと思う。
けど、俺の中には、何か鋭いものが突き刺さっていた。
「……まあ、俺もそう思うよ」
そう笑って返したけど、心の奥では、そうは思っていなかった。
楽器は意外と面白い。
サッカーと同じように、努力して上達していくのが楽しい。
それをちゃんと伝えたかった。
でも──口に出す勇気がなかった。
「まあ、楽器なんて柄じゃないしな」
そんな言葉を吐いて別れたあと、ふと思った。
(……俺、何やってんだろ)
それから数日、練習にもあまり身が入らなかった。
叩いても音が響かない。
何をしていても、あの時の声が、頭の中で繰り返される。
「似合わねー」
「音楽なんて、お前っぽくない」
別に、あいつらが悪いわけじゃない。
──問題は、俺の心だ。
鈴も、怜央も、明里も。
それぞれ何か事情を抱えているのに、真っ直ぐ音楽に向き合ってる。
明里だって、何かあったらしい。
でも、少なくとも俺には、ちゃんと音と向き合っているように見える。
音楽が好き。
楽器が好き。
──そんな「好き」を、俺も堂々と言えたらな。
(……俺は、このままあの3人といていいんだろうか)




