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友人達


ミーシャが部屋を出てしまってから、「どうしようか」と悩んでいると――

ドアを叩く音が聞こえた。


「はい」


「セシルです。入ってもよろしいですか?」


「どうぞ」


入ってきたのは、金色の髪をした青年だった。


「お久しぶりですね、セシル様」


セシル・サムジール。

この国の第2王子だ。


「さっきミーシャとすれ違いましたが……ここにいたんですね?」


「はい。お話をしてたんです。夕食まで時間がありましたから」


「なるほど。なら、今からは私とお相手願えませんか?」


「喜んで」


彼とは、親同士がよく顔を合わせていたこともあって、昔から一緒に遊んでいた。

成績優秀で容姿端麗。しかも誰に対しても優しい彼は、こんな私とも対等に接してくれる、数少ない心許せる友人だ。


「早いものですね。初めて会ったときから、もう十年は経っているんですよ。信じられません」


「そうですね。初めて会ったときの王子は、今とは違って泣き虫でしたね」


「それを言うなら、リリーも────」


こんなふうに笑って話せる時間は、あとどれくらい残されているのだろうか。

第2王子でありながら、未だに婚約者のいない彼を、裏で悪く言う者も少なからずいる。

きっと、最後の自由時間として学園の3年間が与えられたのだろう。卒業すれば、否応なく政略結婚をし、王子としての務めが待っている。


「……そろそろ時間ですね。リリーと話すのは楽しいです。時間が早く感じます」


「ふふっ、そう思っていただけると嬉しいですわ」



食事は基本的に、学園の大食堂で一斉に取ることになっている。

学年を問わず、広い食堂で好きなものを、好きなだけ取って食べる形式。

これは、様々な人と自然に交流できるようにとの、学園の方針らしい。


まだ新学期前だからか、人は少なめだった。

すると、聞き覚えのある声が背後から響いた。


「あら?リリー様ではないですか」


「久しぶりね、アン。あなたも来ていたのね」


彼女はアンハール・ミューエント。伯爵令嬢で、私の親友。

幼い頃から噂好きで、たくさんの話を聞かせてくれる、話し上手な子だ。


「よろしければ、一緒に食べませんか?」


「もちろんよ。先に座ってて。すぐ行くわ」


────────


「自分で食事を取るのは初めてなので、新鮮ですわ。楽しいですね」


「そうね。貴族にとっては珍しいことだけど……これも学園の方針なのね」


それからアンと談笑しながら食事をとり、各自部屋に戻った。


「明日から、学園生活が始まるのね……」


不安しかない、この気持ち。

でも、いつか「楽しい」と思える日が来るのだろうか。


目を閉じると、いつもの夢の光景が浮かび上がる。


隣にいるあなたは――誰?


どうして、こんなにも……





 


心が、苦しいの?


 



 


─────

時を同じくしてとある森で1人の青年が焚き火を眺めていた。

 

――火薬と血のにおいが混ざった、乾いた風が吹き抜ける。


剣を地面に突き立て、足元に転がる魔物の死体を見下ろして鋭く、深く、息を吐いた。


「……相変わらず面倒な奴だったな」


返り血に染まった頬をぬぐいながら、鼻歌を歌う。

旋律は、自然と口をついて出てきた。

昔、よく“あいつ”に聴かせてたっけ――


音程を確かめるように、静かに旋律をなぞる。

少しだけテンポを落として、優しく。

まるで誰かの耳元で、囁くように。


「どこにいんだよ……」


焚き火が、パチ、パチと小さく爆ぜる。


炎の揺らめきの向こう、もういないはずのあいつの笑顔が、一瞬よぎった。


彼女の名前を口にしたのは――いつぶりだろう。



風が吹き抜ける。

それさえも、懐かしいあの日の音に聴こえた。


「また、一緒に……」


夜空を見上げると、星がひとつ、静かにまたたいた。

まるで誰かが、それに応えたかのように。

 

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