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和解


着いてきて、と言われて向かった場所は一軒家だった。


「おじゃましまーす!」

「お、お邪魔します……」


家に入ると、怜央くんが「遅かったな」と、当然のように出迎えてくれた。


怜央くんは学校でも“人と話さないことで有名”な存在だったから、正直かなり驚いた。でも、鈴ちゃんと仲良さそうに話しているのを見て、二人が幼なじみだという噂は本当なんだと納得した。


「よく来るの?」

「うん、最近はほぼ毎日。怜央の家、たくさん楽器あるからね」


案内された部屋にはギター、ベース、ドラム、シンセサイザーといった楽器が並んでいた。


「これがキーボードね。普段のピアノとは少し違うけど、基本のやり方は同じだから。弾いてみる?」


勧められるままに触ってみたキーボードは、鍵盤の感触も音の広がり方も、何もかもが新鮮で、いつものピアノとはまるで別物だった。


「……楽しい」


思わずそう呟いた私に、鈴ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。


「よかった〜!」


「改めて、一緒にバンド組まない?」

差し出された右手に、一瞬だけ迷って、でもすぐに頷いた。


「私が入っても……いいの?」

「そんなことより、楽しかった?」


「うん……」


「なら大丈夫!楽しかったら、そのうちちゃんとできるようになるよ!決まりっ!」


 

それから、放課後はいつも鈴ちゃんと一緒だった。怜央くんの家で楽器に触れたり、公園で音楽の話をしたり。


最初はあまり会話に加わらなかった怜央くんも、いつの間にか私たちの輪の中に自然と溶け込んでいた。無口だけど、ちゃんと私たちの話を聞いていて、鈴ちゃんが話を振るときちんと返してくれる。二人の間にある信頼感は、言葉より深く、強かった。


 


「私、明里の演奏、本当に好きなの」


ある日、鈴ちゃんがぽつりとそう言った。


「えっ、私の?」


「うん。一音一音が優しくて、心に響くの。まるで作曲した人の想いを、明里が丁寧に届けてるみたいで─────すごく綺麗」


その言葉に、胸の奥が温かくなった。いつも重くのしかかっていたものが、ふっと軽くなる気がした。


私はこの子と、ずっと音楽を続けていきたいと思った。


 


夏になる頃、隼人くんがバンドに加わった。


初心者だった彼も鈴ちゃんの熱烈な応援とスパルタな怜央君の指導のかいあって1ヶ月程で1曲弾けるようにまでなっていた。

明るく場の空気をパッと変えてくれるからあの二人が喧嘩してしまっても上手く止めてくれた。

彼が加わったことで、バンドは一気に「本物」になった気がした。


放課後の練習も、夜遅くまでの曲作りも、全部が楽しかった。


だけど─────


 


「バンド? そんなもの、今すぐやめなさい」


ある日、私の母が怒鳴り声を上げた。


母はプロのピアニストだ。私は小さい頃から母のもとでピアノを学び、プロになるための教育を受けてきた。母にとって、音楽は“仕事”であり“競争”であり、人生そのものだった。


「あなたのその才能を、そんな子供の遊びで潰すつもり?」


母の言葉は、鋭く、痛かった。


けれど、もう引き下がれなかった。

あの音の楽しさを知ってしまっから。


「私、ステージに立ちたい。私の音を、私の仲間と、届けたいの」


私たちは文化祭の舞台に賭けることにした。母に認めてもらうため、逃げないと決めた。


夜遅くまでの練習。時にぶつかり、支え合いながら、私たちの音を磨いていった。


文化祭当日。


緊張で指先が震えた。でも、ステージに立ち、仲間と音を重ねた瞬間、すべてが消えた。


音だけが、そこにあった。


 


演奏が終わり、会場に拍手が響く。


客席の母と目が合った。母は、しばらく無言で私を見つめていたけれど――


「……いい音だったわね」


それだけ言って、少しだけ微笑んでくれた。


 帰り道。


「お母さん、ありがとう」


「……勝手にしなさい。ただ、やるからには中途半端は許さないわよ」


それは、母なりの「認める」という言葉だったのだと思う。


 


私、知ってるよ。お母さんのハンカチが少し濡れてたこと。


「私、頑張るね」


聞こえないくらい小さな声で言った。


それが聞こえていたのか、お母さんが少し微笑んだのは――気のせいだろうか。


 


その日から、私はピアノと、バンドと、そして自分自身と向き合えるようになった。


もう迷わない。音楽は、私の道だ。


そして、仲間となら――どこまでも進んでいける気がした。

 


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