あの日
とある宿屋でレオの冒険仲間であると同時にRe:noteのメンバーである隼人と明里が食事をしていた。
「今さらだけど、よく再現できたよな」
隼人がぽつりといった。
「何が?」
「パーティーの時のこと」
「ああ、楽器のことね」
あの時は、レオが急に言い出したから正直驚いた。
この世界には、俺たちが使ってた楽器そのものが存在しない。
だからこそ、明里──エルフである彼女の魔法を借りた。
エルフは、人間や他の種族では使えない、特別な魔法を使える魔法種族だ。
この世界に元々ある楽器に特殊な魔法をかけ再現してくれた。
「あれは本当に驚いたよね」
「……ってか、肝心のレオはどこ行ったんだよ。最近、夜まったく一緒に飯食ってねぇし」
あれから、レオは夜になるとどこかへ行ってしまうようになった。
仕事が終わって宿に戻ってきても、荷物を置くだけでまた出ていく。
「どこ行ってんだよ」って聞いても、
「別に」って一言だけ。
何も話してくれない。
「なあ、レオってどこ行ってると思う?」
まさか、ヤバい組織にでも入ったとか⎯⎯
いや、あいつがそんなことするやつじゃないのはよく知っている。
「きっと、鈴ちゃんのところじゃない?」
明里は迷いなくそう言った。
「でも記憶、ないんだろ?あいつ、自分でそう言ってたし」
パーティーで会ったとき、鈴は明らかに俺たちのことを覚えていなかった。
「でも、音楽には反応してたでしょ? きっとレオくん、その可能性に賭けてるのよ」
「……なるほどな」
鈴は、誰よりも音楽を愛していた。
もしかしたら、何かのきっかけで俺たちのことを思い出すかもしれない──
「でもさ、いっそ『俺たち、バンド組んでたんだ!』って直接言えばいいじゃん」
「レオくん、きっと迷ってるんだと思う」
「迷う……?」
「あの子はさ、生まれてからずっとこの世界で生きてきたんだよ?
いきなり『前世』のことなんて言われても、混乱するに決まってる。
……それに、思い出したくない過去があるかもしれないし」
「……ああ。確かに、それはあるな」
今でも、あの日のことだけは──思い出したくない。
──────────
──俺たちRe:noteに、初めて海外の仕事が決まった日のことだった。
音楽で世界に行くこと。
それはあの二人にとっての夢だった。
それが叶うと知らされたとき、普段はあまり感情を出さないレオが嬉しそうにガッツポーズをしたのが今でも印象に残っている。
「いよいよ3日後だね!私海外行くの初めて!楽しみ!」
鈴がウキウキしながら笑っていた。
「だな。でも…………なんでこんな直前まで何も準備してねぇんだよ!」
『ごめんなさい』
レオが呆れたように言う。
現地で使う生活用品も、まだ揃っていなかった。
レオ以外の3人はまだ全然準備が終わってなく、さっきまでこっぴどくレオに怒られたばかりだ。
あの時は、ただ笑ってた。
未来しか見えていなかった。
なのに、どうして──
「じゃあ、買い出し分担して回るか」
レオの一言で、俺たちは二組に分かれることになった。
俺とあかりは日用品と小物系まわり、
レオと鈴は機材や衣類を担当することに。
「じゃ、また後でなー」
「うん、終わったらフードコート集合ね!」
笑って手を振り合い、それぞれの方向へと歩き出した。
──そして、それからほんの数分後のことだった。
どこかで強烈な破裂音が響いたかと思うと、地響きが起き、天井から煙が流れ込んできた。
「火事だ! 火事だーっ!」
誰かの叫び声。
一気に広がるパニックの波。
「……うそだろ……!」
煙の匂いがどんどん濃くなる。
照明がちらちらと明滅し始めた。
「隼人くん?!」
あかりの手を引いて、俺は迷わず出口を目指した。
その途中、レオと鉢合わせた。
「レオ! こっちだ、逃げ──」
「鈴が……鈴がまだ中にいる!」
レオの目は、焦りと恐怖で揺れていた。
あかりが、不安そうに俺を見る。
「行くな」とは言えない。
「必ず、無事で戻れよ。二人でだ」
レオの背中にそう声をかけると、あいつは一瞬だけ振り返って──
「ああ。また後で」
それだけを言い残し、火元の方へ走っていった。
黒煙に包まれて、あいつの姿はすぐに見えなくなった。
──レオの中には、鈴しか見えていなかった。
それが、あいつだった。
──そして俺たちは、この世界で再び出会った。
あの火災で、あかりと俺も命を落としたらしい。
気がつけば、見知らぬ空と、見知らぬ街。
異世界転生。
前とはまったく違う場所。
でもまた、出会えた。
レオとも、鈴とも、そして音楽とも。
あの日、すべてが燃え尽きたはずだったのに──
物語は、まだ終わっていなかった。
Re:noteの物語は、あの火災で終わったんじゃない。
俺たちは、違う形でも、今を生きている。
そして、
「必ず……」
必ずまた、四人で──
あの音を、奏でるんだ。




