光
それから、鈴に家への帰り道を教えてもらいながら「作戦会議」と称して話し合うことにした。
「どこで曲作りする?」
「うちの家は無理だな。父さんがうるさい」
「私もー。静かにしないといけないの」
聞くと、鈴の父親は有名な小説家で、テレビにもたびたび取り上げられている人らしい。
「普段は優しいんだけど、書いてるときに話しかけるとすごく怒るの」
「じゃあ、さっきの公園は?あんまり人いなさそうだし」
「さんせー!あそこ、ほんとに誰も来ないもん!」
それからというもの、学校の日も休日も、俺たちは毎日あの公園に集まって曲作りをした。
俺が外に出るようになってから、母さんが泣くほど喜んでくれた。
「怜央に……友達が……!」
鈴はノートを、俺は父さんから譲ってもらった古いパソコンを持ち寄り、作ったものを見せ合いながら、一音ずつ丁寧に形にしていった。
意見がぶつかれば、納得するまでとことん話し合った。時には喧嘩にもなったけど、次の日には何事もなかったかのようにまた話し出す。不思議と、嫌じゃなかった。お互いに譲れない気持ちがあるからこそだったし、気持ちはいつも一つだった。
──────────
数年が過ぎ、俺たちは中学生になった。
関係は変わらなかったが、大きな違いといえば門限が延びたことくらいだ。あの日、家に帰ったあとに母さんの雷が落ちたのは言うまでもない。だが、曲作りの時間が増えたことは素直にうれしかった。
中学に入ってすぐの頃は、学校で鈴と話すことは少なかった。鈴は明るくて誰にでも好かれるタイプで、すぐにクラスの中心人物になっていたからだ。俺はというと、教室の隅で一人、本を読んでいることが多かった。
「ねぇー、なんで喋ってくれないの?」
ある日、鈴がそう聞いてきた。
「あ?別に、どうでもいいだろ。そんなことよりテスト勉強しろ」
その日は鈴の家に行き、期末テスト一週間前の追い込みをしていた。
「えー、怜央が喋ってくれないとやだー。手が止まる〜」
「中間テスト、やばかったんだろ?」
「ぎくっ……」
鈴の成績はとても悪く、得意教科以外は赤点スレスレだった。
「なんで国語と英語だけは高得点なんだよ。他も頑張れよ」
「だって〜」
国語は簡単だったから、英語は洋楽にハマっていたから勉強した。他は興味がないので頭に入らない、とのこと。
「おい、それ勉強してないだけじゃねーか!」
「えーーーー」
なんで俺の方が国語の点数低いんだよ。こいつ落としたの全部漢字の問題だったし。
国語は勉強すれば満点だって狙える。
「バカと天才は紙一重って、本当なんだな……」
考えろ、どうすればやる気になるか――。
「……次の期末で全教科、平均点を超えたら考えてやる」
「なにを?」
「さっきの話。学校での会話ってやつ」
「ほんと!? 約束だからね!」
「いや、“考える”って言っただけな」
──────────
テスト返却日。
黒板に平均点が書かれ、鈴はものすごく明るい顔で俺の前の席に座った。
「どお?全部平均点超えたよ!」
見ると、得意教科以外はほぼ赤点ギリギリだったが、確かに超えている。
「ふっ……」
俺もテスト用紙を見せた。
「なっ……!?」
「まだまだだな」
全教科90点代の答案を広げてやる。
「うっわ、すご。でも、約束は約束!」
「いや、俺は“考える”って言っただけで……」
ふと教室中の視線を感じて顔を上げると、クラス全体が俺たちのやり取りを見ていた。
「鈴ちゃん、一ノ瀬くんといつの間に仲良くなったの?」
「ん? 怜央とは元から仲良いよ?」
当然のように言う鈴に、みんなが驚いていた。
「でも、学校ではあんまり喋ってなかったじゃん」
「学校ではねー! ほんと、ツンデレだよねー」
「おい……」
鈴は俺のほっぺたを引っ張って言った。
「怜央は私の相棒だもんね!」
「……あいぼう?」
“相棒”――。そんなふうに言われたのは初めてだった。ずっとそう思ってくれてたのか。嬉しさが込み上げる。
「いや、ライバル……かな?でも親友でもあるよね! どれがいい?」
「どれでもいいよ。ばーか」
「なっ!? バカじゃないもん! ほら、国語は怜央より高いし!」
「でも他の教科、ちゃんと点取らないとおばさんに怒られるぞ?」
「げっ……だ、大丈夫だよ、きっと。頑張ったし……!」
「怒られても庇わねえからな」
「ひどっ!」
──────────
それから、鈴と一緒に過ごす時間がもっと増えていった。
最初は周りも戸惑っていたけれど、次第に誰も何も言わなくなった。
俺も鈴といることで“話せるやつ”と認識されて、クラスメイトと話す機会も少しずつ増えた気がする。
鈴は、俺にとって……なんというか、特別な存在だ。ずっとそばにいたい、そう思える人。
隣を見ると風に髪をなびかせて
(なんだよ、記憶ないって。ふざけやがって……)
もう一度、一緒に音楽を作りたい。語り合いたい。……会いたい。
星空を見上げながら、心の底からそう願った。




