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最初の出会い


「素敵なメロディー! なんて歌?」


振り返ると、同い年くらいの女の子が滑り台の階段に足をかけて、こちらを見ていた。


「え、あ……オリジナル……」


「すごい! 自分で作ったの?」


「うん……」


彼女は目を輝かせながら近づいてきた。

しばらく俺をじっと見つめてから、「うーん」と考えるように首を傾げ、思い出したようにパッと手を打った。


「あっ!たしか隣の家の……怜央くんだよね? 私のこと、わかる?」


「え?」


困惑する俺に、彼女は自分を指さして言った。


「な・ま・え。私の!」


「えっと……ごめん」


「もー、覚えてよねっ。鈴!私、如月鈴っていうの!」


思い出した。引っ越しのあいさつで、一度だけ顔を合わせたことがある。隣の家の女の子だ。

そう思った瞬間、彼女――鈴は右手を差し出して、思いがけない提案をしてきた。


「ねぇ、一緒に音楽作らない?」


「音楽……?」


「うん。私、歌詞は書けるんだけど、メロディーを作るのはどうしても無理だったの。だから――私が作詞、怜央くんが作曲!」


「俺が……作曲?」


「そう! 楽しそうじゃない?」


「いや……でも、俺は音楽の才能なんてないよ。俺の音楽なんて、下手くそだから……」


“下手くそ”――父さんの言葉が頭をよぎる。

心のどこかで、まだ引きずっていた。

自分の作った音に、自信なんて持てなかった。


けれど、鈴は力強く言ってくれた。


「そんなことない! 私は怜央くんのメロディー、すごくいいと思う!」


「え……?」


「私は好きだよ。もっと聴きたいって思ったもん」


その笑顔に、目が釘付けになった。

あたたかくて、まっすぐで――初めて、認められたような気がした。


胸の奥に、何かが強く響いた。

初めて感じる、不思議な気持ちだった。


「やろう!ねっ!」


差し出された右手を、俺は迷わず強く握り返した。


空が赤く染まるその瞬間、俺の中にも、真っ赤な何かが芽生えた。


「そういえば、なんでこんなところにいるの?家から結構遠いよね」


「それは……」


俺は、メロディーを父さんに聴かせたこと、下手くそだと言われたこと、全部を話した。


鈴は一言も口を挟まず、じっと俺の話を聞いてくれた。

話し終えるころには、なんだか情けなくなってしまって、俺はうつむいた。

どう声をかけてほしいかなんて、自分でもわからなかった。


そのとき――手に、ぽつんと水滴が落ちてきた。


「……雨?」


顔を上げると、涙を流している鈴がいた。


「えっ、な、なんで?」


「だって……すっごく悲しいもん。怜央くん、頑張って作ったのに……」


ああ、鈴は――俺のために泣いてくれているんだ。


鈴は俺の手をぎゅっと握って、真剣な顔で言った。


「絶対、絶対見返してやろうよ! 褒めてもらおう! 怜央くんの曲はすごいんだって、世界にだって伝えてやろう!」


「世界って……ずいぶん大きな夢だね」


でも、不思議と、その言葉に胸が熱くなる。

悔しかった。認めてほしかった――本当に。


視界が、滲む。


「やってやる……!父さんよりすごくなって、見返してやる!」


「うんっ! そうと決まれば――」


「うわっ!」


突然、鈴が俺の背中を勢いよく押した。

涼しい風が涙を拭い去り、同時に、俺の心も少しだけ軽くなった気がした。


砂場に着地した俺は、あとから滑ってきた鈴に手を差し出す。


「俺たちの目指すのは“世界”だ! 作曲は任せろ。絶対いい曲作ってやる!」


「うんっ!作詞は私に任せて。よろしくね!」


いつのまにか、あたりはすっかり暗くなっていた。

夜空に浮かぶ星の輝きが、俺たちをやさしく照らしていた。

 

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