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学園へ


時々、夢を見る。


どこか懐かしくて、胸がぎゅっとなるような夢。


 

聞こえる。

重なり合う、心地よい音。


優しく包みこむように。

時には、心を打つように力強く。


音が、世界を満たしていた。


 


まぶしい光。

私たちを見つめる、たくさんの瞳。

そして――鳴り止まない歓声。


 


隣には、いつも「あなた」がいる。

名前も、顔も思い出せないのに。

でも、わかるの。

あなたが隣にいてくれると、私は……心から楽しいと思えるの。




 

 

「……ここは? 眩しい……」


大きな馬車の揺れで、目が覚めた。


「いつの間にか寝てしまっていたのね」


「お嬢様、もうすぐ着きますよ。大丈夫ですか?」


目を開けると、心配そうな顔のアリサと目が合った。


「どうかしたの?」


「こちら、ハンカチです。これでお拭きになってください」


「え?」


顔に触れると、目元に温かい雫が伝っていた。


最近、目が覚めると涙が出ていることが多い。

それは決まって、同じ夢を見た時。

どんな夢だったかははっきりしない。けれど、どこか懐かしい気がする。


手に、まだ感触が残っている――忘れてはいけない何かの。


「お疲れなのですね。すぐ部屋に行きましょう」


──────────

 

案内されたのは、バルコニー付きの広々とした部屋だった。


「広いわ。十分に休めそうな部屋ね」


「お気に召したようで良かったです。それでは、私も荷解きがあるので、これで失礼いたします。何かあればお呼びください」


「ありがとう。アリサも休んでね」


ドアが閉まると同時に、思いきりベッドに飛び込んだ。

夕食まで、あと三時間ほどある。


 

(暇だ……)

 


さっきまで寝ていたから、眠気はすっかり消えてしまっていた。


「何しようかな……探検とか?」


そんなことを考えていると、ドアを叩く音が聞こえた。


「到着されたと聞いたので、来ちゃいました。入ってもよろしいですか?」


ドアを開けると、淡い水色の髪の少女が立っていた。


「ミーシャ!久しぶりね。会えて嬉しいわ」


「私もです!」


ミーシャ・シャトルーズ伯爵令嬢。

小さい頃から仲の良い友人のひとりだ。


「今日も相変わらず可愛いわね」


「そ、そんなことないです!」


この、少し照れた顔がまた可愛い。


ミーシャの使用人にお茶を淹れてもらい、お話することになった。


「にしても疲れたわ。もっと早く快適な移動方法はないのかしらね」


「馬車は早いですが、体が痛くなりますものね」


「車とかがあれば楽なのにね」


「くるま?って何ですか?」


ミーシャが不思議そうに首をかしげる。

車を知らないなんて珍しいと思いながら、口を開いたが、言葉に詰まる。


「それは…………何だったかしら、“くるま”って」


自分の口から出た言葉なのに、意味がわからない。

思い出せない。頭にモヤがかかったような、変な気分だった。


「昔、どこかで見たような……」


「きっとお疲れなのですね。以前、あまり眠れていないとおっしゃっていましたが、その後はどうですか?」


薬草に詳しいミーシャには、以前から眠れるようになる薬を調合してもらっていた。

その効果はすさまじく、最近はよく眠れるようになった。


「とてもよく眠れているわ。でも――」


「同じ夢を見ていらっしゃるのですね」


眠れるようになった分、夢を見ることも増えた。


「そうなのよ。けれど、内容はほとんど思い出せないの。だけど……懐かしいって感覚だけが、いつも残ってるのよね。だからお医者様にも『分かりませんね』って言われてしまって」


「困ったわ」と肩を落とすと、ミーシャは勢いよく立ち上がり、胸をドンと叩いた。


「なら私が、夢を操れるような薬を調合してみせます! 待っていてください!!」


そう宣言すると、ミーシャは颯爽と自室に戻っていった。


……あとで使用人に「無茶しないよう見張っておいて」と伝えなければ。

私のためを思ってくれているのは嬉しいけれど、ミーシャは昔から、集中すると周りが見えなくなる癖があるから、少し心配。


それに――あと二時間ほど、時間が余ってしまった。

どうしようかと悩んでいると、またドアを叩く音が聞こえた。

 

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