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秘密の時間


「──というわけで、協力してくれない?」


私が真っ先に声をかけたのは、あの3人だった。


ソウタとリコは少し戸惑っていたが、アマネは目をキラキラさせながら言った。


「何その激アツ展開! いいね、やろうよ!」


3人とも、快く引き受けてくれた。


──けれど、そのあと悩んだのは、どんな曲を演奏するかということだった。


バンドというものを教わってから、私はそれまでの貴族の世界では出会えなかった音楽に触れるようになった。

でも、その音が父に受け入れてもらえるか──正直、わからない。


それでも……今の私が心から奏でたいと感じているのは、この音楽だった。


「リリー、迷ってるの? どんな曲にするかって」


アマネの声に、私は小さくうなずいた。


少しの沈黙のあと、彼女はまっすぐ私を見て言った。


「たしかに、“バンド”って聞くと、派手で勢いのあるロックを想像しちゃうよね。私たちも、今までそういう曲ばっかりやってきたし。

でもね──音楽って、“見せる”んじゃなくて、“伝える”ものだと思うの」


「伝える……?」


「うん。リリーが、お父さんに見せたいのって演奏の技術じゃないでしょ?

ここまでどう歩いてきたか、音楽がどれだけ好きか──そういう気持ちを伝えたいんじゃない?」


アマネはふっと笑った。


「だったらさ、無理にロックじゃなくていいんだよ。

リリーが“綺麗だな”って思える音を選べばいい。

心が動く音って、それだけで伝わるものだから」


「勢いで押すだけがバンドじゃないよ。

静かに始まって、少しずつ想いが重なって、最後にひとつになる──それも、立派な“音楽”。

むしろ、それが“リリーの音”なんじゃないかな」


「アマネ……」


「大丈夫。誰がなんて思ってたって──

私は、リリーの音が“生きてる”ってちゃんとわかるから」


その瞳は、まっすぐで優しかった。


「……まあ、これ、私の憧れの人の受け売りなんだけどね」


「やっぱり。それ、聞いたことあると思った」


リコがすかさずツッコミを入れる。


「天音がそんな名言思いつくわけないよな」


ソウタも笑って続けた。


「ちょっと! 二人ともひどいー!」


アマネが頬を膨らませて抗議する。


「でも、リリー。曲を決めるのは、あくまであなた自身だよ。

気持ちを届けたいなら──自分が信じられる音を選んで」


(私の……気持ち)


私は──お父さんに伝えたい。

この気持ちを。


「……これがいいかな」


私は、一枚の楽譜を指さした。


「おっ、いいじゃん!」


アマネが目を輝かせて言う。


「最初はゆったりしてるけど、サビで一気に盛り上がる。

バンドらしさもあって、“伝える”にはぴったりの曲だと思うよ!」


「この曲を作った人も、“伝えたい”って気持ちで書いたんだって。

自分の音楽を、お父さんに認めてもらいたくて……って」


「私と……同じ、ね」


だからこそ、最初にこの楽譜が浮かんだのかもしれない。


今の私の想いを、ちゃんと届けられる気がしたから。


「よしっ! 残り少ないけど、全力で練習しよっ!」


────────


そこから学園視察までの約1週間、私たちはできる限りの練習をした。


授業が終われば真っ直ぐ“楽園”へ向かう。

朝起きても、授業中でも、いつも頭の中は音楽のことでいっぱいだった。


「なんだか最近のリリー様は楽しそうですね」


と、ミーシャが微笑んで言った。


「楽しそう」と言われたのは……いつぶりだろう。


たしかに、私は今、楽しいと感じている。


音楽に触れること。

仲間と音を作り出すこと。

重なるメロディーを、心から「美しい」と思えること。


「私、こんなに感情を出せるんだ……」


あの日から、ずっと私は自分の気持ちに蓋をしてきた。

感情は抑えるもの。出してはいけないもの。そう言い聞かせてきた。

だけど──世界はこんなにも、優しくて、あたたかい。


知らなかった。

こんなにも楽しいことが、私を待っていたなんて。


それを知れたことが、何より嬉しかった。


───


「へぇー、国王と父親に見せるのか」

「そうなの……緊張しちゃうわ」


静かな夜。

ふたつの影が、バルコニーに並んでいた。


あれからレオは、二日に一度の決まった時間に、静かに私の部屋を訪れるようになった。


ノックもしないし、声もかけない。

でも私は、なぜか彼が来たとわかる。

風の音が変わる。

空気の匂いが違う。

胸の奥で、何かが反応するように──気づくのだ。


レースのカーテンを少しだけめくると、そこに彼がいる。

変わらない無表情。でも、冷たさはなく、まっすぐな眼差しで私を見つめてくれる。


「こんばんは。いらっしゃい」


そう言うと、彼はほんの少しだけ口元を緩めた。

それが合図のように、私はそっと扉を開け、バルコニーへ出る。


この時間は、誰にも知られてはいけない“秘密の時間”。


『リリー・アルベール』ではいられない私にとって、唯一、素の自分でいられる場所だった。


レオは知らないことを沢山話してくれた。

別の国のこと、冒険者の生活や最近の魔物の活性化など。

最近は特に酷いらしい。

隣の 国の魔物がが何らかの影響で活性化してこっちまで押し込んでいるらしい

どんな話でも聞いていて飽きなかった。


「どんな曲やるんだ?」

「これ……」


楽譜を見た瞬間──目を見開いたのは、気のせいだろうか。

 

「……そうか。いいんじゃね?」

 

「そう言ってもらえて心強い。」

 

「なんでらこの曲選んだんだ?」

 

「んー……なんでだろう。同じ気がしたからかな。」

 

きっとこの人も認められたかったんだろうな。

 

「この曲作った人も同じ気持ちだったんですって。なんだか背中を押してもらった気がするの。」

 

「……その人はどうだったと思う?認められたと思うか?」

 

少し泣きそうな悲しそうな顔でレオが聞いてきた。

 

「分からないけれど……大丈夫だったんじゃないかな。だってこんなに素敵なんだもの。これで心動かない人はいないと思うわ。だからきっと大丈夫。たとえその人に見せなくても心の中では認めてるはずよ。」


「……そうか。」


 


「何かコツとかない?」

私は、彼に聞いた。

何度もステージに立ったことのある彼なら、何かヒントをくれるかもしれない。


「それなら──」


彼はしばらく考えたあと、静かに口を開いた。


「手、出して」

言われた通り手を前に出すと、レオは私の手を丸めて小指だけ立たせた。その手を自分の小指と絡めて結んだ。

 

「俺たちの故郷で約束をする時にするやつなんだけど、俺の相棒はこれで緊張が和らいだらしい。チームみんなでよくやったよ」

懐かしそうに目を細めて言った。


「それに緊張してるのは、みんな同じだ。違いがあるとしたら、それを“楽しみに変えられるか”ってこと」


「楽しみに……変える?」


「そう。お前が“好きなことをしてる”って思えるなら、それだけで充分。」


落ち着く……なんだろうこの気持ち。

「ありがとう。やってみるわ」


「ああ、頑張ってこい」

───


学園視察日


国王が学園にやってきたことで、校内はざわついていた。

軽く手を振ると、校長が案内役として陛下と共に学園内を歩く。


「今日は君の娘が演奏するんだったな。楽しみだよ」


と、陛下は笑いながら言った。


「音楽をやっていると聞いたときは正直驚きました。音楽なんて、この先必要ないのに……」


私は娘の将来を案じている。それは間違いない。

だが、あの目は……初めて見るものだった。

娘とこんなに長く視線を交わしたのは、いつぶりだろうか。


「お前は昔からそうだな。いいじゃないか、寄り道したって。それがもしかしたら、彼女の人生になるかもしれない。寄り道はいいぞ!」


「陛下は寄り道ばかりですからね」


「おお、国王に口答えか?」


と、ふざけ気味に返される。

昔から変わらぬ無邪気さに、私はつい微笑んでしまった。


この方は、誰よりも人の心を見ている。

そう思える、国王だった。


「音楽など、ただの遊びに過ぎません。将来には必要ないのです」


それが、私の本心だった。彼女にはふさわしい未来を与えたいと願っている。


「どうして“ない”と言い切れる?」


陛下の言葉が、鋭く私の心に刺さった。


「結婚するだけが幸せとは限らんぞ。親なら──応援してあげるべきではないのか?」


それだけ言うと、陛下はさっさと歩いて行ってしまった。


私は、取り残されたようにその背中を見つめながら……国王の言葉を、ずっと考えていた。


───


「久しぶりだね、リリー嬢」


「お久しぶりです、陛下。お越しいただきありがとうございます。」


ガール・サムジール。この国の王様。


人当たりがよく、いつも笑っていて──

だが、政にも長けており、この国を支えてきた立派な君主だ。

「今日は演奏をしてくれると聞いて楽しみにしてたんだよ。見た事のない物が沢山あるようだけど……」

と言って用意してある楽器をながめる。

 

その目は一見優しそうに見えて奥は鋭い。

 

「異国の楽器です。この国にはまだない面白い物ばかりですよ。今日はこれを使って演奏したいと思います。」

「ほぉ……異国か。そのもの達が用意したものか?」

アマネ達に視線を送る。

「おっしゃる通りですが……何か?」

「いや、なんでもない。では早速演奏をお願いしようか。」


「はい。」


 

見てほしい。

聴いてほしい。

私たちが奏でる“想い”を。

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