悲しい再会
12話 悲しい再会
会場に戻ると使用人がアリーシャ姫に土下座していた。
「大変申し訳ございませんっ!!!」
「……何があったんだ?」
近くにいた隼人に尋ねる。
「今日ここで演奏するはずだった有名な音楽団が、手違いで来られなくなったらしい。アリーシャ姫はそれをすごく楽しみにしてたみたいで、今めちゃくちゃキレてる」
確かに、姫は周囲のなだめにも耳を貸さず、泣き喚いていた。
国王が沈痛な表情で言う。
「不手際があったようですまない。今日は――諦めてくれ」
「いやよっ!楽しみにしてたのに!!今日は私の誕生日よ!」
アリーシャ姫は近くにあったグラスを床に叩きつけた。
あんな高そうなやつ、よく割れるな……
感心してる場合じゃない。割れた音と彼女の金切り声が頭に響く。国王ですら困り果てている。
「アリーシャ様、落ち着いてください。誰にだって失敗はあります。今夜は美味しいお料理と、皆さまとの会話を楽しみませんか?」
リリー嬢が、真っ青な顔の使用人をかばいながら、姫の前に立った。
けれど、ヒートアップした姫には届かなかった。
「なによ、それ!まるで私が悪いみたいじゃない! あんたは黙ってて!出来損ない風情が!!」
バリバリ、と割れたグラスの上をヒールで踏み鳴らし、地団駄を踏む。
「……そうですね。出すぎた真似をしました。申し訳ありません」
「ふん、わかればいいのよ」
⸻
「……どうするんだ、これ」
「うわぁ……思ったよりひどいね」
明里も騒ぎを聞きつけてやって来た。
俺は用意されていた楽器を一瞥し、決意を固める。
……これなら、いける
「なあ、お前ら……腕は鈍ってないよな」
「?なんの話だよ」
「怜央くん、まさか……!」
その時、俺は皆の視線を一身に浴びる中で手を挙げて言った。
「よろしければ――音楽団の代わりに…………
俺たちが演奏させていただけないでしょうか」
「……えっ?」
「はあ!? おまえ何言って――!」
「やっぱり……」
「そこにある楽器を少しお借りできれば」
使用人は戸惑いながらも答える。
「……楽器をお使いになるのは構いませんが、演奏は陛下のご許可が必要かと」
再び視線が国王に集まる。
「構わん。だが、本当にできるのか?」
できなければ首をはねられそうな迫力だな
「……できます」
「ならばやってみよ。この場にいる全員を満足させてみせよ。アイザック!楽器の用意を。これが名誉挽回の好機だ!」
「は、はいっ、ただいま!」
さっき土下座していたアイザックと呼ばれた使用人は、俺たちに使用楽器を確認すると猛スピードで走っていった。
「おい怜央、本気かよ……!」
「俺たちならできると判断した。それに……」
視線の先。リリー嬢がこちらを見ていた。心配そうな、どこか切なげな瞳。
明里も同じ方向を見て、驚きの声をあげる。
「ねぇ、見間違いじゃないよね? そっくりさんとかじゃないよね?」
目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「二人して何の話――」
「隼人、よく見て」
「……まさかっ」
─────鈴?
「間違いない。少しだけど話した。大分見た目は変わっているがあれは、鈴だった」
「やっと見つけたんだね……」
「でも……記憶がなかった」
「……」
2人が暗い顔をする。
しばらくの沈黙の後明里が笑顔で言ってくれた。
「でもやっと見つけられたね。記憶ないのは残念だけど、見つからないより全然いい!」
「……だな俺もそう思う!怜央!よく見つけたな!すげーよ」
2人が納得したように深く頷いた。
「ああ、ありがとう」
「もし……もし俺たちの歌を聴いたら、思い出すかもしれない。あいつの中に“音”が戻るかもしれない」
「……そっか。だから、もう一度」
「もう一度、あいつと――曲を作りたい。叶えられなかった夢を、今度こそ」
「うん!」
「それには明里、隼人、2人の力が必要だ。協力……してくれるか?」
「もちろんだ!やってやろうぜ!俺たちの音をあいつに届けよう」
3人で顔を見合わせる。
──────────
「じ、準備できました!」
「ありがとうございます」
その時、後ろから声がした。
「あの……!」
振り返ると、リリ―嬢
─────いや、“鈴”が不安そうに立っていた。
「そんなに心配しないでください。俺も昔、音楽をやっていたんです。皆さんの好みに合うかは分かりません。でも、今から歌う曲は、俺と……もう一人の仲間、俺の“相棒”が作った曲です」
まっすぐ彼女を見つめる。
⸻
世界は、無音に包まれている。
私は、たった一人取り残されたまま、
この色のない世界を彷徨っている。
何かが足りない。
あの、耳に残るような――
心を揺さぶるような“何か”が。
うまく笑えなくても、
言葉にならなくても、
この音が、君に届いてくれさえすればいい。
響け、名もなき願いよ。
闇を裂いて、君の元へ。
⸻
「それ……!」
「俺、この詩、好きです。今から、心を揺さぶるような歌を歌います。期待しててください」
どうか、届いてほしい。
この音が、君に。




