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パーティーにて


大きなシャンデリア、豪華なドレスに身を包んだ人々。


ワインを手に持ちながら俺――怜央は国王が主催するパーティーに来ている。

冒険者である俺が、なぜこんな場所に――。


─────


事の始まりは、三週間前。

討伐帰りに立ち寄った本屋でのことだった。


「本屋なんて、前世以来だな」


そんな軽口を叩きながら、三人で本を眺めていると――ふと一冊の本が目に留まった。


「物語……じゃないな。詩か?」


何気なくページを開いた瞬間、胸の奥がざわついた。

あいつを思い出させるような表現が、そこかしこに散りばめられていた。


「なあ、これ――」


二人は気づかなかったが、俺には確信に変わっていった。

これは、あいつの言葉だ。文字は違っても、感じるものがある。


著者名は────ない。


店主の話によるとどこかの高貴な貴族がお忍びで書いたものらしい。

最近人気で出回ってる数も少なく、見つけたらラッキーとの事。

 

「兄ちゃん!お目が高い!ついに見つかっちまったか!」

 

それが本当なのかそれとも買わせるための策略なのかは分からないがとりあえず買ってみることにした。

貴族が書いたにしては、驚くほど値段が安い。

誰にでも手が届くように設定された価格に、金儲けではなく“読んでほしい”という気持ちが伝わってきた。


会えば、何かわかるかもしれない。

そう思ったが、冒険者である俺が貴族に会えるわけもなく、時間だけが過ぎていった。


そんな中、街に魔物が現れた。

偶然居合わせた俺たちが討伐し、その功績から王が主催するパーティに招かれた――というわけだ。



─────


「……暇だな」


国王への挨拶も、貴族たちとの形式的な会話も終わった今、俺にはもうやることがない。

どうやら平民の俺には、誰も興味を持っていないらしい。


少し離れたところでは、エルフとウルフ族の二人が、貴族たちに囲まれていた。

エルフの明里。

ウルフの隼人。

2人とも前世からの付き合いだ。

珍しい種族である彼らは、貴族にとって“関係を持ちたい対象”なのだろう。……にしても、少し同情する。


「がんば」と口パクで伝え、俺はその場を離れた。


この招待、俺たちを称えるためというよりも――

“どんな奴らか見ておけ”というお披露目だったのだろう。

まあ、別にどうでもいいか。



――その時。


「あれがアルベール嬢か」「美しいな」

「才能さえあればな……」「惜しいよな」


周囲のざわめきに耳を傾けると、その名前が聞こえてきた。


「リリー・アルベール……」


見ると、青髪の青年と白髪の美しい令嬢が立っていた。

だが人だかりで、よく見えない。


「リリー・アルベールは、魔法が使えないのですわ」


突然、声をかけられた。

振り返ると、派手なピンク色のドレスを着た少女――この国の王女、アリーシャ姫だった。


「あなた、確か冒険者の方でしたわよね?」


「はい。レオと申します。アリーシャ姫とお話できるなんて光栄です」


そう返すと、姫は「ドヤっ」とした顔で、満足げに頷いた。


(こんなんでこの国、大丈夫か……?)


ただ形式的な挨拶をしただけでこの威張りよう。

思わず口に出しそうになった言葉を飲み込み、代わりに気になっていたことを尋ねた。


「魔法が使えないというのは?」


「そのままの意味ですわ。魔法を生業としている家系なのに、リリーは魔力を持たず生まれた“出来損ない”なのです」


「……なるほど」


「ねぇ、あなたのこと気に入りましたわ。私の執事になってくださらない?」


「……は?」


(今なんて言った、この姫)


出会ってまだ一分も経ってないのに執事って。


「大変光栄ですが、俺は冒険者です。ただの平民にそのような大役は……辞退させていただきます」


(……こんなんでこの国、大丈夫か)


思わずもう一度口に出かけた言葉を飲み込む。


まだ何か言おうとしていたが、急いで退散することにした。

アリーシャ姫から逃げるように会場を歩いていると、バルコニーに人影を見つけた。


リリー・アルベールだ。


月明かりの下、海を眺めるその姿は美しく、どこか寂しげだった。



風に乗って、歌声が聴こえてきた。


優しくて、澄んでいて、懐かしい─────


……ああ、この歌



 

知ってる


他の誰も知っているはずがない。

あれは、俺たち“二人だけの秘密”だ。


(間違いない……目の前にいるのは――)


月明かりに照らされた白い髪。

彼女はまるで女神のように綺麗だった。

 


 





 

──────────ここにいたんだな




 


話しかけようとした瞬間、彼女と目が合った。


「あっ……聞いてました?」


静かに頷くと、彼女は顔を赤らめ、風で崩れた髪を直しながら名乗った。


「はじめまして。リリー・アルベールと申します。以後、お見知りおきを」


「怜央と申します。冒険者をしています」


「レオ……」


(お願いだ記憶があると言ってくれ、頼む……)


彼女はしばらく考えたあと、手を叩いて思い出したように言った。


「あっ!」


(……すz……)


「ゴブリン討伐をしたパーティの!」


「………………そうです。俺たちのパーティです」


「すごいですね。民を救ってくださり、本当にありがとうございます」


(――ああ、やっぱり。記憶は、無い)


「さっきの歌は、なんていう曲ですか?」


「え?」


「とても素敵でしたので」


彼女は海を見つめながら、少し寂しそうに言った。


「……分からないの。急に頭に浮かんできたの」


あいつもそうだった。

どんなときも音楽のことを考えているからか日常の色々な場面で急にいいものが浮かぶらしい。


「もしかしてアリーシャ様に無茶を言われたのではないですか?」

 

思い出にふけっていると急に言われた言葉に驚いた。

 

「どうしてわかったのですか?」


「さっきおふたりがお話されているのを遠目で見まして。困っていらっしゃったようなのでアリーシャ様のことだからきっと何か無茶を言ったのではないかと」

 

「ええ。執事になれ、と言われてしまって」


「やっぱり……。もし困ったら、私にも言ってくださいね。何とかしますから」


そして、ふと真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。


「あの……どこかでお会いしたこと、ありませんか?」


「……え?」


「最初にお会いした時から、なんだか懐かしくて。初対面じゃないような、そんな気がしたんです」


その瞳は、あの日と変わらない。

音に真摯に向き合う“鈴”そのものだった。

いつも隣にいた――相棒

 

───もう一度、話したい。

───もう一度、音楽を作りたい。

───もう一度、一緒に。



だがその思いは、誰かの声に遮られた。


「い、嫌よ!!!絶対いやっっ!」

 

「おい、どうするんだ……」


会場が騒がしくなった。


「少し様子を見てきます」

そう言って、彼女は丁寧に一礼をし、会場へ戻って行った。


(俺は……なんて言えば正解だったんだろうか)


記憶がないと知っていながら、まだ期待していた自分がいた。


……これで良かったんだ。これで――


「俺も、戻るか」

 

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