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召喚



「最近の流行は〜……」

「すごいですわね!」


花々が咲き誇る庭園で開かれる、華やかなお茶会。

けれど香る紅茶も、甘い菓子も、絶え間ないおしゃべりも──


今日は、アンもミーシャもいない。

話題はいつも通り、ドレスのブランド、舞踏会の相手、社交界の噂話。


「どう思われます? リリー様?」


「……ええ、とても素敵だと思います」


──正直、聞き飽きた。


同じような話ばかり。けれど、それが貴族としての“正しい日常”。


けれど、私は――


音楽がやりたい。


この思いを言えば、笑われるだろうか。

礼儀作法よりも、心が震える“何か”に触れていたいなんて。

そんな私は、貴族失格なのかもしれない。


「そういえばこの間魔法を……あらリリー様、失礼いたしました。別の話題に致しましょう──」


「そうね。その方がありがたいわ」


「えっ……」


驚いたような顔。悔しがらなかったから、拍子抜けしたのかもしれない。


けれど、不思議と傷つかなかった。

私には、音楽がある。

心が帰れる場所が、ちゃんとある。


そう思える今の私は、少しだけ強くなれた気がした。



 

「そういえば──」

誰かが、ポロッと話題を変えた。


「人間、エルフ、ウルフ族の3人が組んでいる冒険者パーティの噂、聞きましたの」

「まあ、珍しい組み合わせね」


「別種族がパーティを組むのは一般的になりつつありますけれど、ここまで違うのは珍しいですわよね」


種族同士の争いは過去のものになったとはいえ、まだ根深い偏見は残っている。

それなのに、違う種族の3人が対等に組んで共に旅をしているなんて──恐らく、史上初。


「全員まだ若くて、私たちと歳もあまり変わらないそうですわ。けれどとても強いんですって」


「私も聞きましたわ! そういえば今度のアリーシャ様のお誕生日パーティーに、その3人が招待されているとか」


「パーティーに? 冒険者を?」

「はい。この間、街に現れたゴブリンの群れを討伐したそうですわ。その功績を称えるために、と」


──功績を称える、という名目。

けれど本当の狙いはきっと、彼らの存在を早いうちに王家の影響下に置いておきたいのだろう。

陛下はそういう“先手”を決して怠らない。


「そうなの……」


私は、静かに紅茶の表面を見つめる。

映り込んだ空は、晴れているのに、心はなぜか落ち着かない。


──なぜだろう。


ただの噂話。

なのに、胸の奥がふっと騒がしくなる。


「……リリー様?」

隣の令嬢が、私の顔を覗き込む。


「なんでもないわ。」

私は微笑んだ。


なぜか──その“違う種族の3人組”の話がどうしても頭から離れなかった。


「そういえばリリー様。婚約の申し込みがあったと伺いましたが……」

もうそんな噂が広まっているだなんて、令嬢の世界は恐ろしい。

「え、ええ。今度初めて顔合わせするのよ。」

「リリー様を選ばれるのだからきっと素敵な趣味をお持ちの方なのですわね」

みんながくすくすと笑う。

こんな落ちこぼれを貰うぐらいなのだからきっと と私には聞こえる。

家のため仕方の無いことだとわかっていながらもどうしても拒絶してしまう私がいた。

──────────


一方その頃、“楽園”で3人の演奏が静かに響いていた。


ふと、天音が口を開く。


「……そろそろ話したほうがいいんじゃない?

 私たちが異世界人だってこと」


「それは……」

颯太が曖昧な表情でうつむく。


「別に言わなくてもいいんじゃないかな。特に今は」


「でも、なんか……嘘をついてるみたいで嫌だな」

天音が、ぽつりと呟く。


「天音ちゃん……」


「2人とも感づいてるでしょ? リリーは多分……」

「うん。そうだと思う。」

「わ、私も……」


「でもギターやドラムを初めて見るような目だった。

僕たちが話しかけても“違和感”はあっても、“記憶”は感じなかった。

なら、わざわざ言う必要は……今は、ない」



 

「……わかった。リリーが自分で気づいたら、その時に言おう」




 

「そういえば全然連絡ないね。……みんな元気にしてるかな」

莉子が、ぽつりとつぶやいた。


──────────


 

──半年前。

僕たちは、ただの高校生だった。


放課後の帰り道。

軽音部の仲間6人で文化祭に向けて最後の練習を終えたばかりだった。


「文化祭、楽しみだね!」

「私たちにできるかな……」

「きっと大丈夫さ。」


伝説のバンド──Re:noteに憧れて結成した、僕たちのバンド。


けれどその日、運命が変わった。


突然現れた強い光、歪んだ空間。

気づけば、見知らぬ場所に立っていた。


「ここは……?」


そこで待っていたのは、アバンティ国の“聖女”を名乗る人物だった。

「皆さんは、この世界を救うために召喚された勇者です」

聖女によると魔物の活性化の影響で甚大な被害が出ているのを召喚した伝説の勇者に止めてもらおうという魂胆だった。

加えて召喚は一方通行で、もう二度と前いた世界に戻ることはできないとも伝えられた。


戸惑い、混乱し、泣き出す者もいた。

「文化祭だって近かったのに……」


聖女は、魔力のステータスを見て勇者役を選んだ。

広野、日比野、岩田──の僕ら以外の3人がその役に選ばれた。


そして残された僕達にはこう言った。


「あなたたちは……魔力量も能力も低い。勇者の役には不適格です」

「そ、そんなっ!私たち帰れもしないし、みんなと一緒にもいられないの?」

「はい。勇者一行の邪魔になるわけにはいきません。代わりに、サムジール王国の魔法学園に“留学生”として入学できるように手配します。あそこは我が国の教育機関よりも魔法が進んでいます。

教育を受ければ、将来の仕事には困らないでしょう。慈悲をありがたく受け取りなさい。」


そう言って、僕たちはバラバラにさせられた。


─────


「……ほんとに行くのか?」

出立の日、広野たちが見送りに来てくれた。


「うん……ここに居場所はなさそうだから。流れに身を任せてみようって」


「そうか……また会おうな」

「うん。絶対にね」


サムジール王国に着いた僕たちは、同情され、自由を与えられた。

楽器を作ってもらい、演奏する場所も用意された。

それが──今の“楽園”。

3人の想いが詰まった場所であり、リリー……いや







Re:noteのボーカル、如月鈴と出会えたところ。



 

「……みんな元気にしてるかな」

莉子が、そっと空を見上げる。


「大丈夫。きっと、また会えるよ」

天音が優しく笑う。


「うん。だから……今は、自分たちにできることをやろう」

 

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