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目覚め


「おはようございます、お嬢様。」


カーテンが開き、部屋が朝の光に包まれる。

眠たい目をこすりながら、重たい頭を持ち上げた。


頭の中に残る旋律を、思わず口ずさむ。

初めて聴くような、けれどどこか懐かしい――そんな心を揺らすメロディだった。


「なんの曲を歌って……って、お嬢様、泣いているのですか?」


「え?」


鏡を見ると、白い髪に灰色の瞳の少女が、涙を流していた。


「私……こんな顔、してたかしら」


部屋を見渡す。

誇りひとつない、大きく整った寝室。

隣には、メイド服を着た女性が心配そうにこちらを見ていた。


「……アリサ?」


「はい。どうかなさいましたか、リリーお嬢様」


「リリー……」


そうだ。私はリリー・アルベール。サムジール王国の公爵令嬢。

「なんでもないわ」



「おはようございます。遅くなり申し訳ございません」


食堂に入ると、すでに家族は着席していた。


「おはよう」


母はいつも通り、優しい笑顔で出迎えてくれる。


「……」


父は無言のまま。

宰相として日々忙しい彼と、まともに会話をした記憶はほとんどない。

いつも眉間にしわを寄せて、何かを考えている。


家族に挨拶を済ませ、席に着く。

メイドが手際よく、ひとりひとりに朝食を並べていく。


静かな朝の食卓。

美しいテーブルマナーに、背筋を伸ばして黙々と食事をとる家族。

見慣れた、いつもと同じ光景。


食べ終えると、父は席を立ち仕事へ向かう。


「なんだか元気なさそうだけど、大丈夫かい?」


隣を見ると、青い髪をした兄が心配そうにこちらを見ていた。


「そんなことありませんわ、カールお兄様」


カール・アルベール。アルベール家の次期当主。

その端整な顔立ちと穏やかな性格で社交界では大人気。

まだ婚約者がいないことから、彼を狙う令嬢たちは多い。


「私は元気です」


「本当に?」


今度は、母がこちらを心配そうに見つめていた。


「……少し緊張してしまっていて」


「そうだね。もうすぐで魔法学園の入学式だ。緊張するのも無理はない」


兄が納得したように頷く。

この国には、貴族ならば誰もが通う魔法学園がある。

実力主義のその場で、私は三年間過ごすことになる。


――けれど、魔法がまともに使えない私には、それがただ憂鬱だった。


「きっと大丈夫だよ。何かあれば頼っていいからね」


二つ年上の兄と一緒にいられるのは、あと一年。

それまでに慣れなければならない。


「そうね。お友達もたくさんいるでしょ? そんなに心配しなくて大丈夫よ。寮生活なんて寂しいわ。アリサ、頼んだわよ」


「もちろんでございます、奥様」


────────


持っていく荷物を確認し、馬車に積み込む。


「これで全部かしら?」


「はい。それでは、そろそろ出発いたします」

 

馬車に乗り込むと窓の外から母と兄が見送ってくれた。


「気をつけてね。頑張るのよ」


「はい」


「僕は後から行くから、また向こうで会おうね」


寮に早めに慣れるため、私だけ先に向かうことになっていた。

家族とはここでしばらくお別れだ。


馬車が動き出す。振り返ると、母が涙ぐみながら手を振っていた。


「お父様は……見送りにも来てくださらないのね」


せめて、ひとこと――なにか、言ってほしかった。


心地よい馬車の揺れに誘われ、私はいつの間にか眠りについていた。

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