表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

葬儀

会合で、全員が着席したその瞬間の、いの一番に和泉は言う。

 「朔望団としてはナガイの葬儀については喪に服する場として、全面的に軍に協力する。」

我々は恭順派じゃない、とか、何故ですか、とか、それでは団が持ちません、とか、相変わらず訳の分からないことを言う者がいるが、最早関係ない。両の手で机を力の限り叩き言う。

 「理屈じゃない!我々は活動家でもない!軍人である!軍に貢献した者の葬儀で!己が主張をべらべら述べるのは!人の!軍の!尊厳を!踏み躙る行為だ!そんなの認められる訳がない!文句があるなら俺を切ってから言え!いいな!」

 言い終わるや否や、朔望団幹部より下の、いわゆる下士官クラスの団員が数十名部屋に入って来た。彼らの顔にも怒りが滲んでいる。

 「団長の言うとおりだ!活動家じみたテメェらなんか出ていきやがれ!」

そうだ!出てけ!と下士官たちが吠える、思わぬ援軍に驚きを隠せないが、静かにしろ!と嗜める。幹部の安藤、五十嵐、山形、川崎は席を立たずにいる。

 「承知しました、団としての方針には従います。」

安藤がいつものトーンで言う、下士官たちは何か言いたそうだがグッと堪えているのがわかる。

 「理解してくれて、感謝する。」

その日の会合は、ナガイの葬儀の際に団員がどこに配置されているのかを確認し、危険な行動を起こしそうなメンバーの洗い出しを行い、複数名で対応することを決定した。


 葬儀当日、旅団本部の一室に詰める千里は外を眺める。ミカさんが03小隊を率いて旅団本部での葬儀、朔望団の筆頭和泉さんが移送と納骨。布陣としては妥当だよね。と思う。

 04小隊は今日については小隊3人で旅団本部待機となっている。何かあった時用というわけではあるが、旅団本部自体は落ち着いたものだ。04小隊の部屋は講堂と旅団本部入口両方が見える。講堂ではナガイさんの葬儀が執り行われている。

 正しくはない表現ではあるが盛況という言葉が当てはまる様な人の出入りだった。実際死から2ヶ月も経っている、遺族はどうか別として、各人の中で折り合いがつくには充分な時間かもしれない。

 「ねぇ、ヴィル?」

 相変わらず銃の世話に忙しいヴィルに声をかける、返事はないが気配で応じたとわかるので続ける。

 「今日は何かありそうかな?」

 一瞬の間を置いてヴィルが答える。

 「ない、と思う。」

 そうよね、と思いつつ外に目をやる。窓際にはレイがいて、じっと外を眺めている。

 予定通りよりは少し早く、和泉率いる中隊の車列が敷地内に入ってくるのが見える。屋根がないジープを先頭に装甲車が数台、黒塗りに乗用車が続き、また装甲車、ジープと続く。ジープと乗用車の両脇にはバイクに乗った兵士がいる。皆、いわゆる礼装だ。

 先頭車両後部座席に控える男性、あれが和泉さんかぁ、初めて見た。黒髪短髪、鍛えていることがわかる体付き、過度な筋肉ではない実用的な姿。膝の間に軍刀を立て前を見据えている。その目つきからは緊張や警戒心というものは感じない。車列は講堂の入り口に止まり、ナガイさんの骨壷を待つ。


 来訪者が多く少しだけ進行が遅れている様だ。出棺の時間を少し過ぎた頃講堂の扉がガラガラと開き、03小隊員の案内に従い、出棺を見届ける参列者が粛々と出てくる。

 車列側も迎え入れる準備をする。遺族は乗用車に乗るのだろう、というかナガイさんって家族いるのか?あ、上層部か。

 参列者の移動が終わり、骨壷の受け渡しが始まる。ナガイさんの骨壷を持つのはミカさんだ。そのすぐ後に伊織ちゃんと茜さんだ。さらにその後03小隊の副隊長格の男性が二人が並び、それに続く様に軍上層部が続く。

 白布に包まれた四角い箱状の中におそらく骨壷が入っているのだろう、伸ばした白布を首から下げ、落とさない様に下から支えて、車列の中央、乗用車の前まで歩いて行く。


 公然の秘密、朔望団筆頭の和泉、対するはマナ社会に愛された女性ミカ。対峙、というには穏やかな空気感、正午近い日差しが二人を照らす、その表情には笑みに近いものが宿っていた。

 表情を真剣なものにして和泉が敬礼し、ミカが応える。敬礼が終わり、骨壷を受け渡す。ミカは首から下げた布を取り、骨壷を和泉に渡す。受け取った和泉は一歩一歩踏み締めるように歩き先頭車両に向かい、後部座席に座る。

 和泉の着席を見届けた後、上層部とミカが乗用車に乗る。

 「あ、ミカさんも埋葬に行くんだ、そうだよね総括班班長だもんね」と千里は呟く。

 車列の体制が整い、03小隊員による数発の礼砲が雲一つない空に響く。礼砲の余韻が消え去ってから、車列は動き出す。

 車列が敷地外に出たのを見送ってから、伊織、茜が動き出す、03小隊副隊長も含め、整然と撤収作業が始まっていく。

 「これで一つ、区切りなのよね」窓から眺める千里は呟く。


 車列の真ん中にある乗用車の中は無言だった。今日は何にもあらへんのになぁ、とミカは思う。車列が敷地を出た直後、沿道には人だかりがあった。ナガイさんを見送りに来た人がこんなにもいる、この人たちは皆、マナを持っていないのか、そうでもないのかも知れない。多種多様な雰囲気を纏い、皆、自分で考え、感じ、生きている、当たり前だが、それがいま迸っている。その中でも、目を引いた者がいた。

 「あ、あの着物の二人、かわええなぁ」ミカはポツリと呟く。車列は整然進むが、名残惜しく進んでいるようだった。

 長い群衆を抜け、共同墓地に着く。納骨も滞りなく終わった。軍の行事ということで宗教的なものはなく、墓に骨壷を納め、各人が敬礼し終わる。

 「これで終わります。」と告げ、葬儀に関する一連の行事は終了した。


 軍上層部は乗用車で軍の、ミカと和泉はジープで旅団の本部へそれぞれ帰ることになった。ミカに送りますよと声をかけたのは和泉だった。

 髪が乱れますもんね、と和泉が言いながら彼はいそいそとジープのホロを準備する。すぐに覆いが完成し、どうぞと促されミカは後部座席に座る。その隣に和泉が乗る。一拍置いて、和泉がふーっと大きく息を吐いた後、彼はハッとしてからミカに照れくさそうに笑顔を向ける。ミカも笑みを向けて応じる。

 前を向いた和泉は運転手に良いぞと合図し、ジープが走り出す。

 「ガソリン車はマナ車より揺れますからね」と先ほどとは違う軽い笑顔で和泉が言う。

 「そうですね、でも乗り慣れてはいますから」ミカが返す、それからはお互いを労いつつジープは旅団本部へ向かう。お互いを風の噂同士でしか知らない二人の初めての対話。しかし、その内容は他愛のないものだった。たまに談笑も混じりながらジープは進む。

 すでに群衆は解散した道を進み、旅団本部へ帰ってくる。正門をくぐり、敷地を跨ぎ、ジープは本部の車寄せに向かう。

 「これでひと段落ですねぇ」とミカが労い、そうですねと和泉が応じる。

 車寄せでジープが停車する。では、また。とジープを降りる際に互いに挨拶を交わし別れる。時間はまだ昼下がり、夕方すら少し遠い。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ