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実験ログ

やっぱりバレてるよねぇ、私が「実験ログ」探し回ってるの。本気の圧じゃないけどやっぱり総括班の圧ってキツイよね。

 1ヶ月前の怪人2人の目線よりは怖くない、だって今回はまだ命を取られるわけじゃないから。訳の分からない威圧ではない、明確な目的がある圧力。

「千里ちゃん、それはレイちゃんの指示なん?独断?」

 無粋なことを聞きなさる、レイは基本的に私の行動は容認だ。

 せやんなぁ、と言い、ミカは指を組んでその上に顎を乗せる。あ、顔に出てたかな。

「ごめんなぁ、実験ログが要るって言うて連れて行ったのに空振りやったもんなぁ。」

 そうなのだ、あんな設備で実験なんか出来るわけがない、1ヶ月前に足を踏み入れた怪人とミュータント、そしてナガイさんの棲家。都会のど真ん中にあった森、湿気と日陰に埋もれたあの場所で、人体実験やちゃんとした記録なんか出来やしない。

「ですから、せっかくなのでありそうなところを探してるんですけどねぇ」

 今日この場に来るまで、探せとも探すなとも言われていなかったこと、自分の中の口実にして悪びれもなく言ってみる。事実、棲家や憲兵隊本部だけでなく、この1ヶ月03小隊近辺を洗ってみたが、何も手掛かりが無く行き詰まりを感じてもいた。加えて、私はあの怪人たちの亡骸も見てはいない。


 ミカが目を細める、厳しいとも優しいとも取れる目つき。

口角を上げて言う。

「そうなんよ、無いんよ、実験ログなんか」

 そんな訳ない、と自分が言う前に、ミカは机に突っ伏して、いつもの口調で言う。

「そーなんよぉ、女神の勘も外れるんよ」大仰に悔しがっているが本気のトーンではない。     

総括の他2人の気配も緩む。


ただ、千里はそうもいかない。

そんなことある?

「そこにあるドッジファイルもそうですけど、メモ魔のナガイさんが何かしらの記録も残さないってことはないでしょう。」

 その問いに答えたのは茜だった。

「同じことを憲兵隊と軍の本部からも言われるのよ、知ってると思うけど、03小隊総出で探したの。棲家も旅団本部も全部探したの。」でも無かったのよ、茜がため息混じり言う。


だから03小隊の誰かがと、言う前に気づいた、だから面談を?将を射るならまず馬から?ほんと?あちゃー、と千里は理解する。


こちらの理解と共にミカが顔を上げる、ほっぺを膨らませている。

「せやで、ただでさえ動揺してるところで他の小隊のオペレーターがうろちょろしてたらどうかなぁ」

もう!っと、総括班長の威厳はどこへやら。

「あなた方04小隊さんとは、うまく、やっていきたいのよね」と茜も続ける。

もっと早く言って欲しかったと千里は顔を赤らめ総括班居室を後にするのだった。


「千里さん、まだ何にも掴んでないみたいですね。」伊織が千里が出て行った後の扉を眺めながら言う。悪く言えば1ヶ月も泳がしてやったのに、と言うニュアンスが滲む。

言い過ぎじゃないのかと、茜が驚いた顔で伊織を見る。


「伊織ちゃん、意地悪はあかんよぉ〜、伊織ちゃんはちゃんと千里ちゃん見守ってたもんなぁ」

いつものトーン。頬に手を当て机に肘をつく。

「でももう限界やんなぁ、これ以上は二人とも危ないもんなぁ」

ワ、タ、シ、は!大丈夫です!と伊織は言うがミカは微笑んで返すだけだった。


実験ログ、ナガイさんの性格上、絶対に、当然に、膨大な量のそれはあるものとして考えていた。

ナガイさんの死後、茜がまとめた書類を提出してから、当然憲兵隊も改めてナガイさんの関係箇所を洗ったが、何も見つけられず、実験ログは出てこなかった。結局は、ナガイさんの裏切りの証拠は、03小隊の的を得ない証言と、彼らが棲家で発見したという大型の生体培養槽だけだった。

そこで何をしていたかは分からずじまい、ナガイはそこで死んでいただけとなり、状況証拠のみとなった。


私が現場におらん時に生体培養槽発見の報が入って来たんよねぇ。ミカは回想する。


そして、軍及び憲兵隊本部は出揃った状況証拠とナガイの勤続年数を天秤にかけ、自身の身内を裏切りと断罪するまでには至らなかったため、ナガイは証拠不十分として、純粋な殉職者となり軍の葬儀の対象となった。それが3週間前のことだった。


ただ、ナガイが純粋な殉職者であるとは誰も信じてはいない。


そしてつい先週から、行動派で異変が起こった。先の襲撃犯の同期に当たる人物が、実験ログの存在を喧伝していると言うのだ。

ただしその内容は事実とは異なっている部分が多く、事実を知った人間からすれば、整合性も欠いているように見えた。ただ、下手に刺激すると、事実として認定する証左と捉えかねられず、行動派、恭順派の両派執行部及び憲兵隊本部は静観を決めた。


「実際に03小隊が戦死率高いと言うことと、実験についてほぼ黒ですからね」

と茜は嘆息する、自分が実験ログまで抑えていればと言う後悔が滲む。

フィクションの中にほんの少しだけ真実が混じることにより、出鱈目は存在感を持ち、上層部の静観は逆に正統性を与え、何も知らない無垢な人間にとっては、相当な真実として受け入れられるようになってしまった。


「03小隊は大丈夫でしょうか」

と伊織が心配する、ただ彼女の心配はミカに対してだ。

そこは大丈夫やと思うよ、と、ミカが評した通り、03小隊は大きな動揺は無かった。

それが今回の判断の一つの根拠だ。


せやから、千里ちゃんを03小隊の近くに置くのは、もう限界やからなぁ。


翌日、「朔望団の筆頭、和泉さんは実験自体は把握していた様ですが、末端までは何も」

茜が慌てて報告する。行動派でも内々には知っていた。我々は知らなかった、その事実が総括班に驚きを与えるが、立ち止まっては居られない。そして次なる混沌について思いを巡らす。

初めて実験の事実(と言っても、デマではあるが)を知った行動派はマナ無し兵士を実験の消耗品にされたと憤り、恭順派を刺激する、何も知らない03小隊を除いた恭順派はそれに対して不満を募らせる。


その日の夕方、「ナガイさんならどうするん?」と、ミカは03小隊員に訪ねるが、「行動派さんには、何もしないじゃないっスかねぇ、それより違うこと考えてるんじゃないですか」と簡単にあしらわれてしまう。これも個人の意見というより、03小隊の総意に近い。

マナ無し同士で争う意味のなさを一番理解していたのはやはりナガイだった。


じゃあ恭順派から行動派に仕掛けていた工作や挑発は誰が?

03小隊のこの達観具合はナガイさんだけに寄りかかったものではない?

周りの状況と目の前に現実の食い違いに違和感を覚える、これはそもそも1つのパズルを解いているのか?


千里が総括班に呼び出されてから1週間、行動派と恭順派が所場所構わず罵り合う出来事が増えるくらい対立度合いが可視化され、このままでは何かしらの事件が起こると考えた憲兵隊本部が動き出す。実験ログの存在を喧伝していた彼を拘束、勾留した。そしてその警備に04小隊を指名した。


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