知らない意識
「団長!こんなんで本当にいいんですか!?」声を荒げる若手がいる、すまないが、君は意識はあるが、能力はないんだ。だから、無駄なことはしないでくれ。
ナガイの死は思った以上に影響があったようだ。あの枯れた人でも、教えは生きていたそうだ。そもそも彼の死に様は単純な戦死とされているが、実際はそうでないという噂は流れている。他人にとっては荒唐無稽な話だが、和泉自身にとってはおそらくそれは本当の事のように思えた。
ナガイは03小隊を裏切り、そして討たれた。教え子に討たれるなら、本望ではなかろうか。フィクションのような話だが、噂が意外にも現実なのだろう。
先程の彼は、和泉には正論を吐くが、自分では特段行動起こすことはなかった。まぁ今回もそうだろう。
自分と周りの熱量の差を認識はしているものの、それをどうするかはこちらに丸投げするようなやつだった。
意識と評した点も彼の残念さを加速させるものだ。軍、朔望団、それ以前に軍人としての意志という観点から逸脱したよくわからない「意識」で彼は生きているようだった。
意識を訂正するために何度も彼の話を聞いたが、やっぱり彼が団の中で浮く理由がよくわかった。この調子では、所属する隊でも浮いているのだろう。
ただコイツは自分で何かすることはない、大上段からモノを言うだけだ、大勢に影響するものではないはずだ。
戦死という扱いであるため、ナガイの後任はすぐには決まらず、暫定として旅団総括班班長が03小隊長を兼任する形となった。昇任人事の時期ではないし、他から持ってくるには時間がかかる。加えて現副隊長も野心的ではないから、内部統制としては非常に妥当。総括班班長の彼女なら抑えが効くだろうという、酷く合理的に見える妥協の産物。
ただ、和泉の個人的な懸念事項は、なんだかんだ恭順派というのは、理性的な集団であり、こちら行動派が暴発しないようにあえて妨害工作や、敵対行為を行っている節があったことだ。結局はマナがないもの同士の諍いで、全体が不利益を被るくらいなら、自らが嫌われる度量はあったようだ。
問題はそれをナガイがやっていたのかそうでないか、総括班班長はそこまで介入するだろうか。
ただとりあえずは、静観すべき。団としてはナガイに対して弔意を向ける。それが合理的な判断だ。
今回の犠牲者はナガイを含め3名、ナガイの勤続年数を考えたら、おそらく殉職者に対する軍の葬儀は行われる。それまでは2ヶ月ある。そこまでは大きな動きはないはずだ、ただそこからは大変かもしれないな。
和泉は取り急ぎ、団としてもナガイに対して弔意を示し、様子を見ながら今後の策を練る事とした。
しかし、末期症状の組織において、内部統制が効くはずもなく、ある事件が勃発する。先の若手とは別の者が、恭順派の幹部であった者に対して流血騒ぎを起こしたのだ。
原因は以前からの恭順派による挑発に対する暴発だった、ナガイが死んだ今、本人からすれば積年の恨みを晴らす、という大義名分であった。
今回の主犯も相手側も全くのノーマークだった。被害者は03小隊の関係者ですらなかった。どうやらこの組織はついに和泉の把握しえない意識の中で動き出したようだった。